MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

意思決定のジレンマ(ラッシュワース・M・キダー)

『意思決定のジレンマ』(ラッシュワース・M・キダー)(〇)

 「規制値以下の汚染情報を公表すべきか?」、「真面目なだけの従業員の雇用継続かコスト削減か?」、「家族旅行で英気を養うか子供の将来のために貯蓄をするか?」・・・。

 本書は、どちらも正しい2つの問題に直面したときにどちらを選択すべきか。組織のリスクマネジメントの改善につなげるべく、組織の意思決定やコミュニケーション方法に示唆を与えてくれる内容です。

 多くの事例を題材に解説されているためイメージが湧きやすく、随所に記載されている「監訳者メモ」(コラム)もよくまとまっていると思います。

 

(本書より‥印象に残ったところ)

〇「正」対「悪」の選択と「正」対「正」の選択

 「正」対「悪」はそれほど深みをもっておらず、近づけば近づくほど、嗅ぎ分けやすくなる。「正」対「正」は、心の奥底にある価値観に触れるもので、異なる価値観がぶつかり合っている。

 

〇「正」対「正」のパターン

①「真実」対「忠誠」

②「個人」対「社会」

③「短期」対「長期」

④「正義」対「情(慈悲)」

 

〇難しい選択に取り組もうとする人は誠実な人。不誠実な人は、難しい選択を意識することもなく、一直線に不適切行為に向かう。

 

〇どちらも正しい選択に対する最初の問い

「誰にとってのジレンマなのか?」

  

〇解決に導く意思決定の原理

①結果主義(功利主義

 費用対効果により、「最大多数の最大善」を生み出すことを行う。

・一面記事テスト:「今やろうとしていることが、明日の全国版の朝刊一面に載ったらどう思うか?」

②規範主義

 他のみんなにも従ってもらいたいと思う原則のみに従う。自分の行動が他者も従わなければならない普遍的基準になる。結果は気にしない。結果はどうあろうとも自身の原則を貫き通す。功利主義と真っ向から対立する。

・嗅ぎ分けテスト:「見過ごせないような腐敗の臭いが漂っていないか?」

③配慮主義

 自分がしてもらいたいことを他者にする。相手の立場に立って、どのように感じるかを想像してみる

・母親テスト:「もし自分が自分の母親だったらこれを行うだろうか?」

  

〇「正」対「悪」に対する質問

「一体どんな世界に一番住んでみたいと思うか?」

 

〇誤りを選択するケース

①法律に違反する

②真実からかけ離れる

③モラルに反する

  

〇リーダーシップの観点から

 戦術的なミクロレベルのマネジメントや枝葉末節ではない。共有される価値観を明確に示すことであり、将来ビジョンを立てること。結局それこそが意見一致を形成し、行き詰まりを打ち破る。

 

〇マネジメントの観点から

 「管理」では、リスクマネジメントが机上の仕事になってしまう。マネジメントは本来、「いろいろ苦労して、やっと・・する」という意味。リスクマネジメントは、本来、あれこれ髪を振り乱して苦労して、なんとかリスクを抑える努力を意味している。「管理」ではなく「工夫」。危険を避ける工夫。それがリスクマネジメント。

 

〇上司の力量

 一度くらい過ちがあったといってその人を見捨てるようでは、人は育たない。一度過ちを犯した者はその過ちを後悔するものであり、かえってよく己を慎んで役に立つ。ただし、過ちを犯した者が「厳粛に受け止めていること」と「己を慎むこと」が条件。それを見抜けるかに上司の力量がかかっている。

  

 「正」対「正」、どちらを選んでも正解。断定できる答えがないところで選択するには、説明責任や結果責任が伴い、批判に対するストレスもあります。そのため、よりよい結果を掴みとるよりも、失敗を避けるという発想になってしまいがちです。判断する尺度を持っておくことはとても大事ですが、最後は決断する勇気、気持ちの問題でしょうか。これからも悩み続ける問題です。

意思決定のジレンマ

意思決定のジレンマ

 

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