『意思決定のジレンマ』(ラッシュワース・M・キダー)(〇)
「規制値以下の汚染情報を公表すべきか?」、「真面目なだけの従業員の雇用継続かコスト削減か?」、「家族旅行で英気を養うか子供の将来のために貯蓄をするか?」・・・。
本書は、どちらも正しい2つの問題に直面したときにどちらを選択すべきか。組織のリスクマネジメントの改善につなげるべく、組織の意思決定やコミュニケーション方法に示唆を与えてくれる内容です。
多くの事例を題材に解説されているためイメージが湧きやすく、随所に記載されている「監訳者メモ」(コラム)もよくまとまっていると思います。
(本書より‥印象に残ったところ)
〇「正」対「悪」の選択と「正」対「正」の選択
「正」対「悪」はそれほど深みをもっておらず、近づけば近づくほど、嗅ぎ分けやすくなる。「正」対「正」は、心の奥底にある価値観に触れるもので、異なる価値観がぶつかり合っている。
〇「正」対「正」のパターン
①「真実」対「忠誠」
②「個人」対「社会」
③「短期」対「長期」
④「正義」対「情(慈悲)」
〇難しい選択に取り組もうとする人は誠実な人。不誠実な人は、難しい選択を意識することもなく、一直線に不適切行為に向かう。
〇どちらも正しい選択に対する最初の問い
「誰にとってのジレンマなのか?」
〇解決に導く意思決定の原理
①結果主義(功利主義)
費用対効果により、「最大多数の最大善」を生み出すことを行う。
・一面記事テスト:「今やろうとしていることが、明日の全国版の朝刊一面に載ったらどう思うか?」
②規範主義
他のみんなにも従ってもらいたいと思う原則のみに従う。自分の行動が他者も従わなければならない普遍的基準になる。結果は気にしない。結果はどうあろうとも自身の原則を貫き通す。功利主義と真っ向から対立する。
・嗅ぎ分けテスト:「見過ごせないような腐敗の臭いが漂っていないか?」
③配慮主義
自分がしてもらいたいことを他者にする。相手の立場に立って、どのように感じるかを想像してみる
・母親テスト:「もし自分が自分の母親だったらこれを行うだろうか?」
〇「正」対「悪」に対する質問
「一体どんな世界に一番住んでみたいと思うか?」
〇誤りを選択するケース
①法律に違反する
②真実からかけ離れる
③モラルに反する
〇リーダーシップの観点から
戦術的なミクロレベルのマネジメントや枝葉末節ではない。共有される価値観を明確に示すことであり、将来ビジョンを立てること。結局それこそが意見一致を形成し、行き詰まりを打ち破る。
〇マネジメントの観点から
「管理」では、リスクマネジメントが机上の仕事になってしまう。マネジメントは本来、「いろいろ苦労して、やっと・・する」という意味。リスクマネジメントは、本来、あれこれ髪を振り乱して苦労して、なんとかリスクを抑える努力を意味している。「管理」ではなく「工夫」。危険を避ける工夫。それがリスクマネジメント。
〇上司の力量
一度くらい過ちがあったといってその人を見捨てるようでは、人は育たない。一度過ちを犯した者はその過ちを後悔するものであり、かえってよく己を慎んで役に立つ。ただし、過ちを犯した者が「厳粛に受け止めていること」と「己を慎むこと」が条件。それを見抜けるかに上司の力量がかかっている。
「正」対「正」、どちらを選んでも正解。断定できる答えがないところで選択するには、説明責任や結果責任が伴い、批判に対するストレスもあります。そのため、よりよい結果を掴みとるよりも、失敗を避けるという発想になってしまいがちです。判断する尺度を持っておくことはとても大事ですが、最後は決断する勇気、気持ちの問題でしょうか。これからも悩み続ける問題です。