『MBAが会社を滅ぼす』(ヘンリー・ミンツバーグ)
著者は、マネジメントのあり方と組織形態、戦略策定プロセスといったマネジメント全般と組織論を研究する、カナダ・マギル大学教授。本書は、マネジメント教育とマネジメントそのものを対象とし、MBAによるマネジメント教育に警鐘を鳴らす一冊。マネジメントは、本来①クラフト(経験)、②アート(直観)、③サイエンス(分析)を適度にブレンドしたものでなくてはならず、サイエンスに偏りすぎたマネジメント教育は、官僚的な「計算型」のマネジメントスタイルを育みがち。ビジネススクールで教育を受けた人間がアーティスト気取りでいると「ヒーロー型」のマネジメントを行う傾向があると指摘している。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯問題だらけのMBA教育
・分析至上主義の横行。「MBAとは、Manegement By Analysis(分析による経営)」の略であるというのは古くからあるジョーク。
・マネジメントを意思決定に、意思決定を分析に単純化している。
・分析をテクニックに単純化している。数学的マネジャーが量産化されている。分析の方法を教えることとテクニックの活用を奨励することはイコールではない。近年、特に北米のマネジメントの現場では、テクニックを軽率に用いる傾向が甚だしい。
◯ケースメソッドの利点に対する異議
・ケースメソッドの利点として指摘されている点
①教室でマネジメントの現実に接することができる。
②「大局的」なものの見方に触れられる。
③ゼネラリストたるマネジャーに必要なスキルを習得できる。
④「型にはまった考え方に疑問を投げかける」(ハーバード・ビジネススクールのゼネラル・マネジャープログラムの1998年版のパンフレットより)
⑤学生が授業に参加できる。
・ケースメソッドへの意義
①意思決定・分析至上主義の弊害(意思決定の前提となるデータはあらかじめ用意されるが、事例に関する暗黙の知識はまったく与えられれない。教室にいる誰一人としてのその状況を実際に経験しておらず、ただ紙の上で読んだだけ)。
②軽んじられるソフトスキル
③しょせん直接の経験ではない
④教室ない民主主義
⑤ケースから先入観を排除できない
⑥悪いのはケースではなく、ケースの偏重(ケースメソッドそのものを否定しているのではない。歴史的経緯を含めて、複雑な現実を尊重することが条件になる。ケーススタディは実体験を補足するものであって、実体験の代用になるものではないという点をわきまえれば、ケースはいろいろなビジネス上の状況に触れる上で極めて強力な手段になりうる)
◯マネジメント教育の8つの定石
・教育・育成のための資源をどのように活用すれば、マネジメントの質を高める上で最も効率的なのか?
①マネジメント教育の対象は、現役マネジャーに限定すべきである。
②教室では、マネジャーの経験を活用すべきである。
③優れた理論は、マネジャーが自分の経験を理解するのに役立つ。
④理論に照らして経験をじっくり振り返ることが学習の中核をなす
⑤コンピテンシーの共有は、マネジャーの仕事への意識を高める。
⑥教室での省察だけでなく、組織に対する影響からも学ぶべきである。
⑦以上のすべてを経験に基づく省察のプロセスに織り込むべきである。
⑧カリキュラムの設計、指導は、柔軟なファシリテーション型に変える。
◯本物のマネジャーを許育するためのガイドライン
①詰め込まない
②詰め込まない
③詰め込まない
④それぞれのセッションにおまけの時間を1時間は設ける。ただし、担当教員にはギリギリまで言わない。
⑤教すぎない。参加者は教員から学ぶのと少なくとも同じくらい、お互いから学ぶべきことがある。
⑥参加者に、理論を使って自分自身のテーマを考えさせる。
⑦臨機応変で臨む。有意義な議論は続けさせる。必要に応じて、予定の内容を減らしても良い。
⑧じっくり話しを聴く。
⑨じっくり話しを聴く。
⑩じっくり話しを聴く。
◯5つのマインドセット
・5つのモジュールごとに特定のマインドセットがある。
②組織のマネジメント(分析のマインドセット)
③文脈のマネジメント(世間知のマインドセット)
④人間関係のマネジメント(協働のマネジメント)
⑤変革のマネジメント(行動のマインドセット)
「MBA取得者が乗り込んできたが空回りしている」という従業員、「戦略が適切であっても従業員の理解が乏しく動かない」と嘆くMBAを取得したマネジャー。時々聞く構図のように思います。経験、直観、分析のバランスが取れたマネジャーと、マネジャーの意思を理解した従業員の間には、心理的安全性やコミュニケーションが不可欠。そのベースがあって初めて、企業活動が成り立ち、企業の外の人へ影響を与えていくこともできるのだろうと思います。学ことはもちろん価値があり、大切なことだと思いますが、極端な思考で、MBAありきのような発想に陥らないように注意したいものです。