『金融機関営業店のためのVS反社対応マニュアル』((株)エス・ピー・ネットワーク総合研究室)
概念的な総論から現場での具体的な対応の各論まで、反社会的勢力対応に関するとても実務的な内容です。
本書の冒頭でも書かれていますが、反社勢力の活動はどんどん潜在化、不透明化しており、いくら反社排除の取組を行ってもその網を潜り抜け、巧みなやり方で接近し関係を作っていく現実。したがって、取り組みのベースは、一人ひとりの「暴排意識」と「リスクセンス」。
金融機関でなくとも、ビジネスの中枢にいながら、全くこの分野に触れていないとすれば、一度は読んでみたほうが良いと思います。
(本書のポイント‥本書より抜粋)
〇5年卒業基準
平成23年までに全国で制定された暴排条項で、規制対象が「暴力団構成員でなくなった日から5年を経過しない者」とする考え方が支配的になった。しかし、偽装離脱が横行しており、警察ですら本当に脱退したのか明確に立証するのが困難になっている。「元暴力団」のカテゴリーから逃れても、暴力団と一定の関係を有する者は「共生者」であり、反社会的勢力として排除すべき対象となる。
〇反社会的勢力の定義に関する考え方
①反社会的勢力とは、暴力団等と何らかの関係が疑われ、最終的に「関係を持つべきでない相手」として個別に見極め、排除していくべきもの。
→詳細に定義すると「該当しない」グレーゾーンの拡大を招く恐れがある。
②機械的・システム的な判断は、あくまで「代替策」に過ぎない
→入口段階でのチェックでは精度が不完全であることを認識し、中途(モニタリング)・出口(排除)における端緒の補足精度を上げることに注力すべき
〇反社が企業に近づく6つの代表的パターン
①業務ミスにつけこまれ、要求がエスカレートする
②困っているときに助けてもらい、それが借りになる
③プライベートの趣味を通じて仲良くなる
④反社会的勢力だとは知らずに取引する
⑤取引先の関係先が反社会的勢力だった
⑥取引先がいつの間にか反社会的勢力になっていた
→組織として、いち早く(外部から指摘される前に)「問題を見つけに行く」といった不作為とは真逆の企業姿勢が求められている。
〇ある企業が反社かどうか見極める「反社チェック」のポイント
①新規取引のチェックだけでなく、既存取引先も「端緒(徴候)情報」の収集による不断の見極めが必要
②役職員一人ひとりの「暴排意識」や「リスクセンス」が重要
③反社チェックの本質は、融資業務と同様、「目利き」にこそある
④組織的にいつでもどこでも認知でき、それを見極め、速やかに排除できる仕組みと、それを支える社風・行風
⑤入口におけるデータベース・スクリーニングには限界がある
〇風評チェックのための検索キーワード(例)
・暴力団、反社、総会屋、右翼、逮捕、容疑、違反、不正、処分、疑い、詐欺、インサイダー、金商法、漏えい、中止命令
〇反社との取引停止・解約
①警察への相談・情報入手
警察では内部通達「暴力団排除等のための部外の情報提供について」(平成25年12月)に基づいて、必要と認められる場合に情報提供することになっている。
②専門の弁護士への相談
文書による強制的な契約解除の場合、弁護士から書面で通達する(配達証明付内容証明郵便)。みなし到達規定の契約書への盛り込み。
〇契約解除時の話法例
・「何度聞かれても回答は変わりません」と同じ対応を繰り返して構わない
・「契約〇条(暴排条項)に該当すると判断しました。既に警察にも相談し、確認・指導を頂いたうえでの決定となります」と、暴排条項に該当している事実と警察への紹介結果に基づく事実のみを伝える。
・「契約に基づき決定をお伝えさせていただいておりますが、ご理解いただけないということであれば、それに対してお客様がどのような対応をされるかにつきましては、お客様がご判断されることですので、私どもから何ら申し上げることはありません」
などなど、具体例多数・・・。
本書から読み取れることは、日々の業務におけるチェックや情報収集など、できることはしっかりと行うが、いざ現実に対応に直面したら、警察や弁護士などの専門家へ相談して進めましょうということ。やはり「餅は餅屋」ということですね。