『経済は世界史から学べ』(茂木誠)
駿台予備校世界史教師の著者がまとめた経済と世界史の関係。経済ニュースは非常に多くの予備知識(教養としての経済学)を必要とします。本書は、経済をより深く理解するために、物事の成り立ちから学ぶというアプローチで書かれています。予備校講師とだけあって、分かりやすい解説です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇お金と国家と銀行
世界初の紙幣は北宋の「交子」。
「戦争・公共事業・宮廷の浪費などの政府の無駄遣い→紙幣乱発→インフレ→農民暴動→王朝崩壊」という流れ。歴史は繰り返す。北宋の交子、南宋の会子、元の交鈔とみな同じ経緯を辿った。
→この歴史的背景があり、中央銀行が紙幣を発行するようになった。
〇米ドルが強くなった理由
第一次世界大戦まではポンドが世界通貨だったが、アメリカは二度の世界大戦を通じて、戦場にならなかった米国は、軍需物資の世界的輸出で世界最大の債権国となり、米ドルが世界通貨となった。
〇プラザ合意~バブル経済
1980年代米国は双子の赤字(財政赤字+貿易赤字)→日本・西独・仏・英国にドル安政策を強力依頼→対米関係の悪化を恐れた日本は渋々同意→円高ドル安のため輸出産業はダメージ→円高不況→日銀が金利を引き下げ→貸出の増加→株式・土地への投資が増加→バブル経済へ
〇19世紀に起こった英国版TPP問題
英国は土地がやせているため、安くておいしいフランス産穀物が悩み→穀物法を制定し穀物輸入を制限→安い穀物が入ってこないため国民は飢えに苦しむ→1840年代にジャガイモ伝染病がアイルランドを襲い総人口の10%が餓死→穀物法廃止
→しかし英国の地主が恐れたほどの打撃はなかった。農業革命とよばれる構造改革が進んでいたため。
〇ドイツ関税同盟(1834年)
英国の自由主義に対し、ドイツは保守主義をとり、ドイツ諸国は英国からの輸入品に共通関税をかける同盟を締結→小国家の集まりで会ったドイツは、これを機に経済的に一体化していき、プロイセン王国を中心に統一された。
〇米国でも・・
英国から独立した米国も州と呼ばれる小国家の連合体であった→南部は英国への綿花の輸出拡大を望んで自由貿易を主張→寒冷な北部は英国製品の輸入を嫌い保護主義を求める(独関税同盟と同じ)→綿花畑で奴隷を使役する南部と奴隷を開放して安価な工場労働者にしたい北部の対立→北部のリンカーンが大統領選挙に当選(1860年)→南部は反発し合衆国を離脱→これを阻止するため戦争へ(南北戦争)→北部の勝利→保護貿易・奴隷制廃止へ
〇金融の歴史は迫害の歴史~持ち逃げできる資産~
金融業者として活躍した民族には、フェニキア人、アルメニア人、ユダヤ人、客家がいる。いずれも強大な異民族の支配を長く受けた少数民族。そのため固定資産よりも持ち逃げできる金融資産(貴金属)を蓄え、これを異民族に貸して利子をとることで利益をあげた。
〇預金通用・キャッシュカードは宗教騎士団がつくった
十字軍の時代、エルサレムを守ったテンプル騎士団。エルサレムへの巡礼者が盗賊に襲われることが多かったため、騎士団は巡礼者の旅費を預かって預かり証を発行し、預かり証を提示されれれば現金を払い出す仕組みを確立した。
〇世界初の株式会社、オランダ東インド会社
1602年、イギリスの東インド会社に対抗し、オランダ東インド会社を設立。出資者を広く一般から募り、株主には株券を発行し、利益が上がれば配当金を分配。リスクも出資金額の分だけ株主に負担してもらうという株式会社システムを確立。
〇世界初の投資
古代ギリシャの哲学者タレースは、天文の知識を使って翌年のオリーブが豊作になることを予測→オリーブ圧搾機を契約時の価格で来年も借りる権利を買い占め→翌年豊作になって圧搾機価格が上昇すると、権利行使して安価に借り高値で貸して巨利を得た。
「経済学」というと、固い・難しい・・というイメージですが、歴史と絡めて触れてみると「へぇ~」「そうなんだ!」と、興味を持つことができますね。とは言っても、経済学は学問としての基本的な考え方を理解する必要があり、本書はあくまでも経済そのものに関心を持つための書籍だと思いました。