『赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア』(白川美也子)
コーチングの幅を少しずつでも広げていくために、心理領域に挑戦中です。本書は、トラウマ支援に関わる人、当事者や家族を対象に書かれています。トラウマ・インフォームド・アプロ―チと呼ばれる手法の基本を押さえたうえで、著者の臨床体験をもとに物語形式のテキストを創作し、クライエントへの心理教育に使うことができるようにまとめられています。題材が「赤ずきんちゃん」なので、初めてでもとっつきやすいです。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇トラウマ・インフォームド・アプローチ(米国薬物乱用・精神衛生管理庁)
①トラウマの多岐にわたる影響と回復の可能性を理解する
②クライエント・家族・スタッフ・その他関係者におけるトラウマのサインや兆行に気づく
③トラウマの知識を政策・手続き・慣行に至るまで支援分野にいきわたらせる
④再トラウマ化を防ぐ手立てを探す
〇トラウマ記憶の特徴
戦慄的な出来事の記憶が脳に刻まれるのは、もともと、私たちが生き延びるために必要な仕組み。とはいえ、トラウマ記憶を体験として一度に咀嚼するには大きすぎるため、トラウマを受けたときの五感、感情、認知や思考が、そのときのまま脳の中で冷凍保存される。
①無時間性・鮮明性(数十年経ってもセピア色にはならない)
②想起に苦痛な感情をともなう(痛み、不快、恐怖、恥など)
③言葉になりにくい(大雑把に言えば右脳中心のネットワークに冷凍保存されている)
〇トラウマ後の3つの主な症状
①再体験:被害当時の記憶が無意識のうちに蘇る
②回避・麻痺:被害を忘れようとすると感情が麻痺する、そのために回避の行動をとる
③過覚醒:中途覚醒など、神経が高ぶった状態が続く
〇過去の傷を治すのではなく、傷に影響を受ける今を変える
解離(それが自分ではないようにすることで自分を守ろうとする)では、一時しのぎに過ぎず、結果としてさまざまな障害が現われる。感情の調整が難しくなったり、自己破壊的な行動をしたり、自己イメージや対人関係にいろいろな問題が起こる。大切なのは、これらが「症状なんだ」と気づいていること。過去は変わらないが、回復するということは、「過去の傷に影響を受けている今」が変わること。
〇今ここを豊かにする
腹式呼吸、瞑想、リラクセーション、踊る、歌う、楽器を弾く、身体を動かす・・。
〇語ることの意味
トラウマ記憶は、言葉にならない記憶。凍ったものがとけていくためには、その「まるごとの記憶」が言葉として語られ、物語記憶という形で整理されることが必要。感情を伴わずに話しても記憶は凍ったまま。批判も非難もされずに、安全と安心の中で語れることが大切。物語記憶になったときには、具体的な五感や感情が消化されていく(トラウマの処理)。「今は安全な場所で、辛かった過去の話をしているのだ」という状態として新たに固定される。つまり、「過去の出来事」として再編集される。
〇回復は螺旋状
トラウマからの回復は、重症例を除けば、①心理教育、②セルフケア、③スキルの構築の三本柱。
・トラウマとは何か、それがどう現在に影響するかを知る
・自分を大切にするセルフケアの方法を身につける
・生きていくための多様なスキル(感情表現や人間関係など)を身につける
⇒回復は一直線に進むものではない。「記憶の解凍」は安全が確保されて初めて起きる。ちょうど螺旋階段のようなもので、行きつ戻りつしながらも「全体には良くなっている」と感じられることが大切。
こんな第一章を皮切りに、2章「慢性的なトラウマが引き起こす症状」、3章「トラウマからの回復 7つのステップ」、4章「災害トラウマの特徴と身体からのアプローチ」、5章「支援者が知っておきたい大切なこと」と続きます。人の心を扱う分野。ここは簡単ではない。知識も向かい方も。少しずつ、自分の扱える領域が広がっていくといいなと思っています。
赤ずきんとオオカミのトラウマ・ケア: 自分を愛する力を取り戻す〔心理教育〕の本
- 作者: 白川美也子
- 出版社/メーカー: アスクヒューマンケア
- 発売日: 2016/05/26
- メディア: 単行本
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