MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

人間を磨く(田坂広志)<2回目>

『人間を磨く』(田坂広志)<2回目>

 「人間関係が好転する「こころの技法」」というサブタイトルがついた本書。「人間を磨く」というと清廉潔癖な聖人君子的なイメージが湧きますが、「非のない人間」を目指すという意味ではなく、「非も欠点も未熟さも抱えながら、周りの人たちと良い人間関係を築いていく」こと。そのためには、自分の中に様々な人格を育て、自分の心の中の小さなエゴを見つめるもう一人の自分を育て、理想的人間増を目指して一歩ずつ成長していく具体的修行法を身につけること。本書は、人間関係を好転させる7つの「こころの技法」が語られた一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯(第1の技法)心の中で自分の非を認める

・人は、非があり、欠点があり、未熟であるから、周りの人の心が離れていくのではない。人は、自分の非を認めず、欠点を認めず、自分には非がない、欠点が無いと思い込むとき、周りの人の心は離れていく。

・人間関係がおかしくなるときというのは、必ずといっていいほど、互いに「相手に非がある」「自分には非がない」と思っているから。

・「自分の非や欠点を認める」ことができるなら、それだけでも人間関係は好転していく。さらにそれを超え、「自分の非や欠点を受け容れてくれる相手や周りの人々に感謝する」ことができるならば、そこには、素晴らしい人間関係が生まれてくる。「感謝はすべてを癒す」。

 

◯(第2の技法)自分から声をかけ、目を合わせる

・人間の心には、自分の過去の選択や行為を「正当化」しようとする傾向がある。「他者不安」の感情を抱くと、無意識に防衛本能が働き、「自己防衛」に向かい、その相手に対して、ますます批判的になり、ますます攻撃的になっていく傾向がある。

・「相手の姿は、自分の姿の鏡である」。自分の非を認め、自分から声をかけ、謝ることができたとき、ほとんどの場合、相手もまた、自分の非を認め、謝る姿を示す。互いが和解する瞬間とは、ただ、人間関係が元に修復される瞬間ではなく、互いが、さらに深いところで結びつく「深化」の瞬間である。

・深層意識の二つの感情。①自分に対する嫌悪感(自己嫌悪)、②相手に対する不安感(他者不安)。互いにぶつかったとき、相手も、自分と同様、深層意識の世界では、「自己嫌悪」の感情から、相手に謝りたいと思っている。そして、「他者不安」の感情から、相手と和解したいと思っている。

 

◯(第3の技法)心の中の「小さなエゴ」を見つめる

・我々が、自分の非を認められないときというのは、ほとんどの場合、心の中で「小さなエゴ」が動いている。「自分は正しい!」「自分は悪くない!」「自分は優れている!」「自分に欠点はない!」と叫び、「自分は変わりたくない!」「自分はこのままで良い!』と叫んでいる。

・「大きなエゴ」は、「自分を変え、さらに成長したい」「今の自分よりも、さらに成熟した人間になりたい」と願っている。自分に非を認められない時は、小さなエゴが大きなエゴに勝っている。

・真の謙虚さとは、まさに、「自分の非や欠点や未熟さを、素直に認められる」こと。その非や欠点や未熟さを、一つひとつ克服しながら成長していこうとする姿勢のこと。

 

◯(第4の技法)その相手を好きになろうと思う

・嫌いな相手を好きになるための簡単な方法はないが、そのための参考になる「人間を見つめる視点」はいくつかある。

①本来「欠点」は存在しない。「個性」だけが存在する。

②嫌いな人は、実は、自分に似ている

③共感とは、相手の姿が、自分の姿のように思えること

④相手の心に「正対する」だけで、関係は良くなる

⑤相手を好きになろうとすることは、最高の贈り物

 

◯(第5の技法)言葉の怖さを知り、言葉の力を活かす

・「嫌悪の言葉」は、「嫌悪の感情」を引き出し、強化する。「好感の言葉」は、「好感の感情」を引き出し、強化する。

・「人は嬉しいから笑うのではない。笑うから嬉しくなるのだ」という格言。人間の心(心理的状態)と身(身体的行為)とは、実は、表裏一体のものであり、人間には、「心が動く→身が動く」という性質だけでなく、「身が動く→心が動く」という性質も、同時に存在する。

・人は、相手を嫌いになるから、嫌悪の言葉を語るのではない。嫌悪の言葉を語るから、相手を嫌いになるのだ。人は、相手を好きになるから、好感の言葉を語るのではない。好感の言葉を語るから、相手を好きになるのだ。

 

◯(第6の技法)別れても心の関係を絶たない

・本当に大切なことは、生じてしまった不和や不信、反目や反発、対立や衝突の状況から、ときに自らの非を認め、相手に心を開き、自ら謝り、相手を許し、再び「和解」する心の力を持つこと。

・愛情とは、関係を絶たぬこと。愛情の反対は、無関心。「人間関係が下手な人」とは、「人とぶつかってしまう人」のことではない。「人とぶつかった後に、和解できない人」であり、「人とぶつかった後に、和解の余地を残せない人」のこと。

 

◯(第7の技法)その出会いの意味を深く考える

・「人生を大切にする」とは、「人生で出会う人を大切にする」こと。「人生で出会う人を大切にする」とは、ときに不和や不信、対立や衝突があっても、その出来事を超えて互いの心が、深く結びつき、その出来事を通じて、互いに成長していくこと。

・互いに成長していくために大切なことは、その出会いの意味を考えること。

「この出会いは、自分に、いかなる成長を求めているのか」

「この出会いは、自分に、何を教えてくれているのか」

「この出会いは、自分に、何を学べと言っているのか」

その意味を考えること。

・「人間を磨く」とは、その「意味」を感じる力を磨くことに他ならない。

 

 本書を読むと、人間は、長い時間をかけながら、心を磨くことができるんだなぁという感覚が湧いてきます。ゆっくりではありますが、目の前の出来事に処する力をつけながら、目の前で起きている出来事の捉え方が変化し、感情が穏やかになり、その後の行動が変化していくようなイメージです。「感情に左右されたな」と感じることで、「感情を見つめる」ことに繋がり、それが変化のきっかけになる。「自分の感情に気づくか、気づかないか」。最初の一歩はそこからかもしれません。

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