『もの忘れの脳科学』(苧阪満里子)
もの忘れは高齢者でなくても、誰でも経験するもの。行動をする間に、その目標を忘れてしまうことに起因しており、行動に必要な内容を一時的にとどめておくワーキングメモリがうまく働かないために起こることが多い。認知症の前駆症状でもある。本書は、日常生活を支える記憶である、ワーキングメモリからもの忘れいついて考える一冊。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯もの忘れとワーキングメモリ
・もの忘れは、行動を達成するまでの間、しばらく憶えておかなければならない記憶がうまく働かないために起こる。
・ワーキングメモリは、一時的な記憶、すなわち行動のための記憶。新たな行動を起こすためには、必要な内容を達成するまでしばらくの間だけ心の中にとどめておく必要がある。
・記憶することに集中する場面は少なく、ほとんどが言葉を理解したり、計算をしながら記憶するように、何かをしながら記憶することが必要。「妨害」が入ると、とたんに忘れてしまう。
◯記憶
記憶は大きく分けて3つの異なる過程からなる。
①符号化・・見たり聞いたりして記憶する内容を取り入れる
→間違った内容を覚えてしまうことがある
②保持・・一定期間、記憶を保つ
→忘れてしまったり、内容が変わることがある
③検索・・必要な時に記憶した内容を取り出す
→財布を置いた場所が見つけられないようなことが起こる
◯短期記憶
・繰り返しその内容を反復する「リハーサル」が行われない場合には、ほぼ20秒間に90%が忘却されると考えられている。
・「不思議な数7±2」:記憶できる数は成人で約7項目。
◯ワーキングメモリの二重貯蔵システム
・「音韻ループ」(数字や単語などを短期間だけ保持する短期貯蔵庫)と「視覚空間的スケッチパッド」(図形や空間的配置の短期貯蔵庫)。
・そこに制御を主たる役目とする機能「中央実行系」があり、短期記憶と長期記憶をつないでいる。
◯加齢で起きる変化
・加齢による脳の構造的変化については、前頭前野の萎縮が特に顕著。特に縮小が顕著なのは両側の前頭前野であり、海馬、小脳、尾状核などの縮小も認められる。白質の欠損もやはり前頭前野において特に顕著。前頭前野の構造変化とともに、コリン作用性神経伝達物質やドーパミンの放出も低下することが指摘されていて、こうした変化が高齢者の注意や記憶の低下を全体として低下させているものと考えられている。
・課題とは関係のない妨害刺激を抑制することが大きな負荷となり、ワーキングメモリに保持する情報を取り込む(符号化する)正確さと速度が低下すると考えられる。
・高齢者は、注意制御が低下するため、先に記憶した内容がその後に記憶すべき内容に干渉して、新しく記憶することを困難にする。
◯ワーキングメモリを強化する
・自宅に閉じこもりがちになり、会話する機会が少なくなるなど、日常生活が単調になるとワーキングメモリも衰えがちになる。
・会話や読書は、二重課題の典型例のようなものであり、それを繰り返すことで、ワーキングメモリを鍛えることにもなる。
◯楽しい時はワーキングメモリがよく働く?
・ポジティブな情動が、問題の解決にプラスの影響を及ぼしたり、記憶を上昇させる場合もあれば、逆にネガティブな情動が、課題の達成を妨害すること、記憶を曖昧にすることも指摘されている。
◯「おわりに」より(まとめ)
・私たちは日常生活においてワーキングメモリを頻繁に使っている。買い物に行くこと、料理を作ること、読書することなど、数え切れないほど多くの場面でワーキングメモリは働いている。こうした日常生活の繰り返しは、そのままワーキングメモリの働きを強化していることにつながっている。
・日常生活の中で、読書をするなら興味がわかない本を無理に読むのではなく、読んで楽しいと思う本を選ぶこと、外出するときは積極的に楽しむことが大切。
・ポジティブな情動は、脳の報酬に関わる領域の活動を高め、それがワーキングメモリの実行系の働きを高めている。ポジティブな情動を引き起こすように、モチベーションを高め、そして楽しむことができるようにすることが重要。
本書にもあるように、受験勉強のように記憶に集中できる場面はごくわずかで、基本的には何かをやりながら、何か他のことを考えながらという「ながら」の中でちょっと覚えておくことが多い。例えば、本を読んでいても、前に書いてあったことを忘れてしまうなんてことはよくあります(このブログはそれを補い知識をストックする目的もあります)。一方、本を読むことや会話は、ワーキングメモリを強化する手段。
そう思うと、本を読んでブログを書くという行為が訓練。それを毎日積み上げていくことが将来大きな効果を生むかもしれないと感じました。