『意識と無意識のあいだ』(マイケル・コーバリス)
ぼんやりした時(マインドワンダリング)に脳で何が起きているのか。本書は、人に固有のマインドワンダリングについて、多くの建設的で適応的な側面があり、それなくしては生きていけないことが示されています。具体的には、海馬のはたらき、時間、心の理論、物語、睡眠と夢、幻覚、創造性などの心の働きについて掘り下げられています。私にはちょっと難しいところもありましたが、最初に触れる分野だから仕方なし。まずは読み進めてみましょうという感覚で完読しました。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯マインドワンダリング
・私たちは、何かに注意を向けた状態と、別のことを考える状態を行き来するように生まれついている。このぼんやりした状態を「マインドワンダリング」という。
・wander:正しい道や進路、話題、注目物から離れ、逸れること。
・ぼんやりするのは何もあなただけではない。私たちは、みな集中し続けるのが苦手で、とりわけ読書や講義の最中に空想の世界に迷い込んでしまう。
◯記憶
・マインドワンダリングは、さまざまな意味で記憶に基づいている。記憶がなければ、私たちの心がさまよいこむ場所がない。記憶が想像力を掻き立てるので、私たちは過去に戻ったり、未来や空想の世界に浸ったりすることができる。夢の中の奇妙な出来事にしても、過去に遭遇した人や場所、出来事、勝利、悲劇が脈絡もなくおかしな具合に組み合わさったもの。だからマインドワンダリングについて考えるには、まず記憶の働きを理解せねばならない。
◯時間とメンタルタイムトラベル
・実際のところ、私たちは過去より未来について考える時間が多いことが科学的に解明されている。
・未来を構築するためには、私たちは記憶の中の過去に大きく依存している。知識や出来事の記憶は、未来計画を立てる材料になる。
・出来事の記憶は必ずしも正確ではない。記憶に基づいて未来を構築するには、記憶は正確であるよりも有用でなければならない。可能な未来を作り上げるからこそ、一番良さそうな計画を選ぶことができる。どれが一番楽しそうで、一番問題なさそうかがわかる。
◯海馬
・私たちが心の中で時間を行き来するときに活性化する脳内ネットワークの中枢がこの海馬。
・海馬はこのネットワークのグランドセントラル駅とでも言えるもので、ネットワーク内の大脳皮質や情動を司る低次の領域などに結ばれている。このネットワークは「時間の意識」を与え、時間の流れの中で自分がどこに位置するかを教えてくれる。ダイアナ妃の死や次に起きる医学的発見など自分とは関係のない出来事に関わる質問には答えられる。海馬の機能は、個人的な出来事の貯蔵(記銘)と検索(想起)、個人的な計画づくりなど、私的な場面に対応するようだ。
・メンタルタイムトラベルに加えて、海馬には空間内の場所を保持するという別の機能もある。
◯他者の心を読む
・「自分以外人間の心の中を想像できるのが人間の本質だ」(イアン・マキューン)
・私たちは他者が何を考えているのか知るのに長けていて、この能力は「心の理論」と呼ばれる。この能力は自分でも気づいていない微かな手がかりに基づいた本能的なもので、私たちはやはり五感を通じてそうした手がかりを受け取っているのかもしれない。
◯眠りと夢
・私たちの脳は夜も眠っている状態には程遠い。感覚刺激がなく、身体運動もできない状態で、しかも暗闇の中で、脳は心身のメンテナンスをする。
・心のメンテナンスにはレム睡眠中に行われる情動調整と、ノンレム睡眠中に行われる記憶の固定および拡張がある。
◯幻覚
・幻覚は簡単に言えば存在しないものの知覚であって、たいてい視覚か感覚にかかわるが、ときには嗅覚や触覚などの他の感覚が関わることもある。
・幻覚はあたかも現実であるように知覚されるが、他の人には知覚されないという点において現実と異なる。
・シャルル・ボネ症候群は稀な現象だと考えられていたが、視力が弱った高齢者の約15%が人や動物、情景などの複雑な幻覚を見ることが現在では知られている。80%という多数の人が、もっと曖昧な形、色、模様を見るが、これは視覚野そのもので起きるランダムな活動から生じるらしい。正常な入力を遮断されると、変化を求める脳内の視覚野が勝手にものを見始めるのだ。
・あらゆる文化はそれぞれ好みの幻覚剤を持っていて、そこには正常な人生における心の境界線を探ろうとする人間の差し迫った欲求が感じられる。たぶん宗教を生み出すのは幻覚であり、それが日常を超越したものが存在し、人生は儚いものであるという感覚を与えるのではないかと思われる。
あいまいさが生じることは多々ありますが、それは普通なんだなとホッとした気持ちと、実はあいまいな感覚の時間ていうのは、1日の中で結構長い時間あり、そこを意識化することが集中力になっていくのかという感覚的な気づきもありました。脳に関する本はたくさんありますが、読んでいくうちに、「あっ、これとこれがつながっているかも!」という多読の楽しさを実感しています。
意識と無意識のあいだ 「ぼんやり」したとき脳で起きていること (ブルーバックス)
- 作者: マイケル・コーバリス,鍛原多惠子
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2015/12/18
- メディア: 新書
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