MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

東大生となった君へ〜真のエリートへの道〜(田坂広志)

『東大生となった君へ〜真のエリートへの道〜』(田坂広志)

 田坂先生の最新刊。ちょっと毛色の違ったテーマかと思いましたが、これまでの在り方をベースにした考え方を東大に入学した方々の目線でまとめられています。なんだかんだ言っても、東大生は官僚や大企業で組織をマネジメントする立場に早晩就くわけで、そんな将来の立場のスタートとも言える東大生へ向け、考え方、在り方について警鐘を鳴らしつつ、落とし穴に落ちないように、道を示した一冊です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯エリート

・選良、選ばれた者という意味。

・現在の社会において「エリート」という言葉には、否定的な意味合いが強く込められている。

・本当に大切なことは、「エリート」と呼ばれるか否かではない。「一人の人間」として、どう生きるか。実は、世の中もそれを見ている。

・「エリート」と呼ばれる人々の多くは、「エリート」とは、「他の人々よりも優秀な人間」という意味であると思い込んでいる。そのため、心の中に、意識的にも無意識的にも、「自分は、他の人間よりも優秀だ」という優越感を抱いている。口に出して言わなくとも、その密やかな優越感を抱いている。しかし、「エリート」という言葉の本当の意味は、そういう意味ではない。

 

◯「エリート」と呼ばれる人間の真の条件

①自分に与えられたものの有り難さを知っていること

②自分に与えられたものへの感謝の心を抱いていること

③自分に与えられたものへの謙虚さを身につけていること

④自分が抱いた感謝の心を、その生き方で表していくこと

⇨「真のエリート」とは、「厳しい競争を勝ち抜いた人間」のことではない。そのことによって「自分は誰よりも優秀だ」と思い込んでいる人間のことではない。「真のエリート」とは、自分が「恵まれた人間」であることを知り、そのことに感謝し、その深い感謝を、世の中の多くの人々の幸せのために生きることによって、表して歩む人間のこと。

 

◯活躍する人材が持つ「5つの能力」

①基礎的能力:知的作業に取り組むときの集中力や持続力

②学歴的能力:論理的思考力や知識取得力

③職業的能力:スキル、センス、テクニック、ノウハウ

④対人的能力:コミュニケーション力

⑤組織的能力:リーダーシップ力やマネジメント力の中核になる人間的魅力、人間力

 

人工知能という荒波

・「いいじゃないか・・まぁ、地頭はいいんだから、とりあえず採用しておけば・・」。これまで救いであったこの言葉が、人工知能の技術の急速な進歩で、人材に求められるものを根本から変えてしまう。

人工知能によっても淘汰されない「士職業」とは何か、「知的職業」とは何か、そして、人材とは何か。それは、「専門的知識」と「論理思考力」以外。すなわち、優れた「職業的能力「や「対人能力」「組織的能力」を発揮できる人材。

 

◯職業的能力

・技術と心得。

 技術:スキル、センス、テクニックやノウハウと呼ばれるもの。

 心得:マインドやハート、スピリットやパーソナリティと呼ばれるもの。

・知識と知恵の違い

 知識:言葉で表せるもの。書物で学ぶことができるもの。

 知恵:言葉で表せないもの。経験を通じてしか掴むことができないもの。

・経験をすれば知恵が身につくわけではない。経験を体験に深めていけるか。経験から掴むべき知恵を掴み、それを体験にまで深めていけるか。それは、反省をすること。反省とは、1日に与えられた経験を、そのままにせず、心の中で、その経験を思い起こし、「追体験」し、そこでいかなる知恵を掴んだか、いかなる技術や心得を学んだかを振り返ること。

・現実変革力を身につける7つのレベルの知性

①思想、②ビジョン、③志、④戦略、⑤戦術、⑥技術、⑦人間力

 

◯対人的能力

・心の推察力と想像力

「君は相手の無言のメッセージを、その眼差しや表情、仕草や姿勢から、どの程度理解できるだろうか」

「君は、君自身の眼差しや表情、仕草や姿勢によって、相手に、どのような無言のメッセージを伝えてしまっているかを理解しているだろうか」

・非言語的コミュニケーションの力を身につけるには、だれかとの対話や交渉、会合や会議といった対人的な経験の後、必ず、反省を行うこと。先ほどまでの場面を「追体験」しながら、その場で、どのような「無言のメッセージ」が交わされたかを振り返ること。

・共感の大切さを頭で知っていることと、誰かに対し本当に深く共感できるかどうかは全く別のこと。その理由は2つ。

①共感ということと、同情・憐憫ということを混同してしまうから

②我々は自分自身に、それなりの経験がなければ、誰かに対して、本当には共感できないから。

・共感力を身につけるには、苦労すること。苦労の中でこそ、我々は成長できる。問われることは2つ。

①どのような苦労をしてきたか、どれほど苦労をしてきたか。

②人生の苦労というものを、どう見ているか。

・逆境感の根本にあるべきは、一つの覚悟。

「人生において与えられる、全ての逆境には、深い意味がある」

 

◯組織的能力

・高度なマネジメントを担える人材となっているためには、まずそれまでに、仕事の経験を通じて、自発性、創造力、協調性と共感力を身につけていくこと。仕事に意味や意義を見出し、働きがいや生きがいを感じるようになっていること。

・自分自身が身につけていない能力を、部下やメンバーに身につけさせることはできないし、自分自身が感じていない働きがいや生きがいを部下やメンバーに感じさせることはできない。

・カウンセリングやコーチングは、現在、それぞれ、その専門の職業が存在しているが、これからの時代には、一つの組織やチームを預かるマネジャーやリーダーには、それを外部の専門職に任せるだけでなく、自分自身が、その2つの力を身につけることが求められるようになっていく。

 

 本書は東大生へのメッセージというタイトルではありますが、「エリート」というキーワードから、社会的に影響力の大きい方々全般に対してもメッセージ色の強い内容だと思いました。影響力が大きいがゆえに、考え方や道を誤らないように、あなたの行動・判断は自分一人のためじゃないよ、影響力が大きいよということを問われている。だからこそ、どう考えるかを試されているところに重みを感じました。

東大生となった君へ 真のエリートへの道 (光文社新書)

東大生となった君へ 真のエリートへの道 (光文社新書)

 

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