MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

本を読む本(M.J.アドラー、C.V.ドーレン)

『本を読む本』(M.J.アドラー、C.V.ドーレン)(◯)

 私の中では、今年のベスト5に入る良書でしたが、これは、本を読んでいる量とアウトプットしている量に比例する内容なので、誰にでも勧められるというものではありません。読書量の多い方にはお勧めです。

 本書は、1940年に米国で刊行されて以来、世界各国で翻訳され読み継がれています。読むに値する良書とは何か、読書の本来の意味とは何かを考え、知的かつ実際的な読書の技術をわかりやすく解説しています。初級読書に始まり、点検読書や分析読書を経て、最終レベルのシントピカル読書に至るまでの具体的な方法を示し、読者を積極的な読書へと導きます。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯読書のレベル

①初級読書

 このレベルの問題は、「その文は何を述べているか」。どんなに高い読書力がついても、このレベルの問題をなおざりにして読書することはできない。

②点検読書

 時間に重点を置くことが、第二レベルの特徴。目的は、与えられた時間内にできるだけ内容をしっかりと把握すること。「系統立てて拾い読みする」技術であり、書物の表面を点検し、その限りでわかることすべてを学ぶこと。時間に制約がある場合の最も優れた完璧な読み方。

③分析読書

 読む本の難しさにもよるが、読み手にかなりの努力を要求する読み方。徹底的に読むこと。時間に制約のない場合の最も優れた完璧な読み方。

シントピカル読書(比較読書法)

 一冊だけではなく、一つの主題について何冊もの本を相互に関連づけて読むこと。最も報われることの多い読書活動であり、苦労して学ぶだけの価値のある、極めて有効な読書技術。

 

◯初級読書(読書の第一レベル)

①読みかた準備期(6〜7歳ごろ)。肉体的・精神的能力の発達期。

②子供はごく簡単なものの読み方を覚える

 最初は子供にとってただの記号の集まりに過ぎない。ところが2〜3週間も経つと、その記号の意味がつかめるようになる。

③用語が急速に増え、子供は文脈をたどって知らない単語の意味をつかむ技術を身につける。自分の目的に応じて、科学、社会学、文学などさまざまな内容の書物に手を伸ばすようになる。

④子供が読書体験を自分のものにすること

 

◯点検読書(読書の第二レベル)

・【読み方1】組織的な拾い読み、または下読み。

 わずかな時間内に本の品定めをしてしまう必要があるとき、今手にしている本をさらに入念に読む必要があるかどうかを調べる読み方。

①表題や序文を見ること

②本の構造を知るために目次を調べる読み方

③索引を調べる

④カバーに書いてあるうたい文句を読む

⑤その本の議論の要と思われる幾つかの賞をよく見ること

⑥ところどころ拾い読みして見る

 ・【読み方2】表面読み

 難解な本に初めて取り組むときは、とにかく読み通すことだけを心がける。理解できることだけを心のとめ、難解な部分は飛ばして、どんどん読み続ける。とにかく通読すること。

・積極的読書への4つの質問

①全体として何に関する本か

②何がどのように詳しく述べられているか

③その本は全体として真実か、あるいはどの部分が真実か

④それはどんな意義があるのか

・「行間を読むだけでなく、行間に書く」

 本が本当に読者のものになるのは、読者がその内容を消化して自分の血肉としたとき。その最良の方法が、行間に書くこと。

・効果的な書き入れの工夫

①傍線を引く

②行のアタマの余白に横線を入れる

③⭐︎※その他の印を余白につける

④余白に数字を記入する

⑤余白に他のページのナンバーを記入する

⑥キーワードを◯で囲む

⑦ページの余白に書き入れをする

・点検読書をしながら問うべきこと

①それはどんな種類の本か

②全体として何を言おうとしているのか

③そのために著者はどんな構成で概念や知識を展開しているのか

 

◯分析読書

・【第一の規則】

 読者は今読んでいるのがどんな種類の本かを知らねばならない。これを知るのは早いほど良い。できれば読み始める前に知る方が良い。全ての本に通用するけれども、特にノンフィクションや教養書に適している。

・本を透視する

【第二の規則】

「その本全体の統一を、1〜2行か、せいぜい数行の文に表してみること」

⇨統一の方に注目する。

【第三の規則】

「その本の主な部分を述べ、それらの部分がどのように順序よく統一性をもって配列されて全体を構成しているかを示すこと」

⇨複合性の方に注意を集める。

・著者の意図を見つける

【第四の規則】

「著者の問題としている点は何であるかを知る」

【第五の規則】

「重要な単語を見つけ出し、それを手掛かりにして著者と折り合いをつけること」

①重要な単語を見つけ出すこと

②使われている意味を正確に掴むこと

⇨まず、「言葉」を扱い、次にその背後にある「思想」を論じること。

・著者の伝えたいことは何か

【第六の規則】

「はっきり根拠が示されていない限り、著者の命題は個人的な意見に過ぎない。その命題を立てるに至った理由を理解しなくてはならない」

・解釈の3つの決まり

①重要な言葉を見つけ、著者と折り合いをつけること

②最も重要な文に注目して、そこに含まれる命題を見つけること

③一連の文から基本的な論証を見つけ、これを組み立てること

⇨③の実行に役立つこと

1)どの論証にもいくつかの叙述が含まれていることに注意しなくてはならない。

2)論証の2つの方法を区分すること。

a)事実によって、一般化を証明する方法

b)一般的叙述によって一般的法則を発見する方法

3)著者が「仮定」しなければならないのはなんであるか、論証や論拠によって「立証できるもの」は何か、論証を必要としない自明の事柄はなんであるか、ということをしっかりと見定めることである。

・主要な命題は主要な論証に含まれているはず。つまり、主要な命題は、前提あるいは結論の形で述べられているはず。従って、はじめと終わりがあって、一つのまとまりをしていると思われる一文を見つければ、重要な文をつかんだことになろう。

・重要な文がわかったら、次は命題を見つけ出すこと。文の表す意味を掴むこと。複雑な文は、普通2つ以上の命題を表している。

・命題が理解できたかどうか。

1)「自分の言葉で言い換えてみる」、文中の命題が理解できたかどうかを判断するには、これが一番良い方法である。

2)一般的真理を具体的な経験に即して、あるいは、あり得る場合を想定して、例証することができるだろうか。

【第七の規則】

 「まず重要な論証を述べているパラグラフを見つけること、そのようなパラグラフが見つからない時は、あちこちのパラグラフから文を取り出し、論証を構成する命題が含まれている一連の文を集めて、論証を組み立てること」

・良い本というものは、論証が展開されていくにつれて、自然に要約されていくもの。

 

◯本を正しく批評する

・「最も優れた批評家こそ、最も良き読者」である。

・著者の言い分に注意深く耳を傾け、完全に理解するまでは、読者は語り返すことを差し控えること。理解してはじめて、読者は批評する権利を得る。それはまた、読者の義務でもある。

【批評の第一規則】

・まず「この本がわかった」と、ある程度、確実に言えること。その上で、「賛成」「反対」「判断保留」の態度を明らかにすること。

【批評の第二規則】

・反論は筋道を立ててすること、けんか腰はよくない。

【批評の第三規則】

・反論は解消できるものだと考えること(歩み寄る余地はある)「できる」が重要で、同意するのではない。

・誤解と無知を取り除けば、大部分の反論は解消する。

・いかなる判断にも、必ずその根拠を示し、知識と単なる個人的な意見の区分を明らかにすること。

 

◯著者に賛成するか、反論するか

・知的な実りある対話が成立するための必須条件

①議論に感情を持ち込んだり、感情的になることもあるということを認める。

②自分の立場を明らかにする(自分の潜入主を、はっきり心得ている)

③党派根性にとらわれると、とかく自分のことしか見えなくなる。

 ・反論の4つの方法

 著者に向かって「あなたの言うことは分かったが賛成できない」と言う場合の読者の言い分。

①知識が不足している

②知識に誤りがある

③論理性に欠け、論証に説得力がない

④分析が不完全である

 ①〜③は名辞、命題、論証に関するもの。④は全体の構成を問うもの。

 

◯分析読書の第三段階

①第一段階(何についての本であるかを見分ける)

1)種類と主題によって本を分類する

2)その本全体が何に関するものかを、できるだけ簡潔に述べる

3)主要な部分を順序よく関連づけてあげ、その概要を述べる

4)著者が解決しようとしている問題が何であるかを明らかにする

 

②第二段階(内容を解釈する)

5)キーワードを見つけ、著者と折り合いをつける

6)重要な文を見つけ著者の主要な命題を把握する

7)一連の文の中に著者の論証を見つける。または、いくつかの文を取り出して、論証を組み立てる。

8)著者が解決した問題はどれで、解決していない問題はどれか、見極める。未解決の問題については、解決に失敗したことを、著者が自覚しているかどうか見定める。

 

③第三段階(知識は伝達されたか)

🔳知的エチケットの一般的心得

9)「概略」と「解釈」を終えないうちは、批判に取り掛からないこと(「分かった」と言えるまでは、賛成、反対、判断保留の態度の表明を差し控えること)。

10)けんか腰の反論は良くない。

11)批評的な判断を下すには、十分な論拠をあげて、知識と単なる個人的な意見を、はっきり区別すること。

🔳批判関して特に注意すべき事項

12)著者が知識不足であるが点を、明らかにすること。

13)著者の知識に誤りがある点を、明らかにすること。

14)著者が論理性に欠ける点を明らかにすること。

15)著者の分析や説明が不完全である点を、明らかにすること。

⇨12)〜14)は、反論の心得。この3つが立証できない限り、著者の主張にある程度、賛成しなくてはならない。そのうえで、15)の批判に照らして、全体について判断を保留する場合もある。

 

◯理想的な読書

・たくさんの本のを上っ面だけかじるのではなく、一冊でも、以上述べた規則を守ってよく読むことが大切。

・熟読に値する本も数多くあるが、それにもまして点検読書にとどめるべきものの方がずっと多い。本当の意味で優れた読書家になるには、それぞれの本にふさわしい読み方を見つけ、読書の技術を使い分けるコツを体得することである。

 

シントピカル読書(読書の第四レベル)

・同一主題について、二冊以上の本を読む方法。

・どんな主題でシントピカル読書をするにせよ、読者は、奇妙な矛盾に陥る。同一主題について二冊以上の本を読むからには、はじめに、主題そのものがはっきりしていなくてはならない。ところが、まず読んでみなければ、主題がはっきりしないというのも、ある意味で正しい。愛の主題については、100冊以上の書物を読まないと、実態をつかむことはできないだろう。

・点検読書も、分析読書も、ともにシントピカル読書を念頭に置いた準備作業と言って良い。点検読書はここに至って読者の大切な道具として本領を発揮する。

シントピカル読書の5つの段階

①関連箇所を見つけること

・主題に関連のある作品を全て再点検し、読者自身の要求に最も密接な関わりを持つ箇所を見つけ出す。

・関連箇所を同時に見つけようとするのは危険。

②著者に折り合いをつけさせる

・著者のキーワードを見つけ出して、その使い方を掴む。

・読者が相手にしなくてはならない多数の著者が、全部、同じ言葉を同じ意味で使っているとは考えられない。従って、読者が用語をしっかり決め、言葉の使い方について著者に折り合いをつけさせなくてはならない。「著者に、読者の言葉で語らせる」

③質問を明確にすること

・最初の質問は、研究しようとする現象が存在するか。またある思想には、どんな特徴があるかということに関するもの。

・次にその現象があるとどうしてわかるのか。その思想はどういう形をとって現れているか。

・最後に結論に関する一連の質問をする。

④論点を定めること

・真の論争が生じるのは、質問意味を双方が取り違えていないのに、二人の著者の答えが相対立しているとき。

⑤主題についての論考を分析すること

・「それは真実か」「それにはどんな意義があるか」

 

シントピカル読書のまとめ

・過程は大きく2つに分けられる。「準備作業」と「シントピカル読書そのもの」。

🔳シントピカル読書の準備作業

①図書館の目録、他人の助言、書物についている文献一覧表などを利用して、主題に関する文献表を作る。

②文献表の書物を全部点検して、どれが主題に密接な関連を持つかを調べ、また主題の観念を明確に掴む。

 

🔳シントピカル読書

①第一段階

 準備作業で関連書とした書物を点検し、最も関連の深い箇所を発見する。

②第ニ段階

 主題について、特定の著者に偏らない用語の使い方を決め、著者に折り合いをつけさせる。

③第三段階

 一連の質問をして、どの著者にも偏らない命題を立てる。この質問には、大部分の著者から答えを期待できるようなものでなければならない。しかし、実際には、著者が、その質問に表立って答えていないこともある。

④第四段階

 さまざまな質問に対する著者の答えを整理して、論点を明確にする。相対立する著者の論点は、必ずしも、はっきりした形で見つかるとは限らない。著者の他の見解から答えを推測することもある。

⑤第五段階

 できるだけ多角的に理解できるように、質問と論点を整理し、論考を分析する。一般的な論点を扱ってから、特殊な論点に移る。各論点がどのように関連しているかを明確に示すこと。

 

 文庫本ですが、ある程度、端折りながらポイントをピックアップするだけでも、通常の単行本の2倍の量はまとめで書きたい場所があります。そのくらい良書です。これが良書と感じるかどうかは、読者の読書量と読書の深さと確実に比例します。自分の読書スタイルを点検する意味でも役立つかもしれませんね。

本を読む本 (講談社学術文庫)

本を読む本 (講談社学術文庫)

 

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