MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

人を助けるとはどういうことか(エドガー・H・シャイン)

『人を助けるとはどういうことか』(エドガー・H・シャイン)(◯)

 道を尋ねられたり、どの洋服が似合うかを聞かれたり・・・ビジネスシーンだけでなく、とても身近な場面を題材に7つの原則に基づく人を助けるさまざまなコツがまとめられています。単なるテクニック論ではなく、例えば、支援者はクライアントよりも立場がワンランク上になるがゆえに生じてしまう弊害やそれを乗り越える方法。支援者とクライアントの人間関係を構築することが、人を助けることにどんな意味をもたらすのか。など、日常生活でも使えるヒントが満載の良書です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯経済と演劇

・どんな種類にせよ、関係を築くためには、社会経済や面目保持という文化的ルールに敏感であることが求められる。人がそれぞれの関係から自分に見合った何かを得ていると確信できるように。人生という日々のドラマの中で、人は自分の面目や他人の面目が潰れないように役を演じている。

・良い支援者を志す人に勧めたいのは、社会的経済学と、我々が暮らしている社会という劇場を意識すること。

 

◯成功する支援関係とは

・そもそもどんな支援関係も対等な状態にはない。クライアントは一段低い位置(ワンダウン)にいるため、力が弱く、支援者は、一段高い位置にいるため、強力である。支援のプロセスで物事がうまくいかなくなる原因の大半は、当初から存在するこの不均衡を認めず、対処もしないせい。支援できる機会が得られるのは、大きな誘惑。

・一度支援を求めれば、状況には不安が必ずつきまとう。それはクライアントと支援者になりそうな人との当初の関係がどんなものであっても変わらない。その時点で不安であることが認識されないと、当事者のどちらも、機能不全や受け身の行動に対して脆くなってしまうだろう。

・クライアントが陥りやすい5つの罠

①最初の不信感

 支援者は手助けをしたがっているか。また。その能力があるか。はじめのうちは、クライアントが真の問題を隠す原因になるかも知れない。

②安堵

 支援者への依存や従属を歓迎する感情。

③支援の代わりに、注目や安心感、妥当性の確認を求めること

 助けを求めながらも、本当は全くの別の物を望んでいる人間の感情に、支援者はとりわけ敏感でなければならない。

④憤慨したり防衛的になったりすること

 自分が支援者と対等だという気持ちを取り戻そうとする。

ステレオタイプ化、非現実的な期待、(対人)近くの転移

助けを必要として求めれば、感情的な反応を引き起こす。落ち着かなくて不安な状況が生まれる。

 

◯支援者が陥りやすい6つの罠

①時期尚早に知恵を与える

②防衛的な態度にさらに圧力をかけて対応する

③問題を受け入れ、(相手が)依存してくることに感情反応する

④支援と安心感を与える 

 一旦支援者が同情心を見せてしまうと、クライアント自身が作り出したかもしれない問題の責任を認識させるのが難しくなる。

⑤距離を置いて支援者の役割を果たしたがらない

ステレオタイプ化、事前の期待、逆転移、投影

 

◯支援の種類

・支援者が知らない5つのこと

①クライアントは情報や助言、あるいは尋ねられた質問を理解できるだろうか

②クライアントは支援者の提案に従えるだけの知識やスキルを備えているだろうか

③クライアントの本当のモチベーションは何か

④クライアントの置かれた状況はどんなものか

⑤クライアントは過去の経験から、どんな期待や固定概念、恐怖心を持つようになるか

 

・クライアントが知らない5つのこと

①支援者には助けを与えられる知識やスキル、モチベーションがあるか

②この人に助けを求めれば、どんな結果が得られるか

③この支援者は信用できるか、状況を利用して何かを不当に振り付けたり強制したりする人ではないだろうか

④クライアントとして、私は提案されたことを実行できるだろうか

⑤支援を受け入れると金銭面や感情面、または社会的な面でどれだけの代価を払うことになるだろうか

 

◯支援者が選べる役割

①情報やサービスを提供する専門家

②診断して、処方箋を出す医師

③公平な関係を築き、どんな支援が必要か明らかにするプロセス・コンサルタント

 

◯支援関係における7つの原則とコツ

【原則1】与える側も受け入れる側も用意ができているとき、効果的な支援が生じる。

①支援を申し出たり、与えたり、受け入れたりする前に、自分の感情と意図をよく調べること。

②支援したいとか、支援されたいとかいう自分の欲求がよくわかるようになること。

③支援しようという努力が快く受け入れられなくても、腹を立てないこと

 

【原則2】支援関係が公平なものだと見なされたとき、効果的な支援が生まれる。

④支援を求める人は気まずい思いをしているということを思い出そう。だからクライアントの本当の望みは何か、どうすれば最高の支援ができるかを必ず尋ねること。

⑤あなたがクライアントなら、何が役に立ち、何が役に立たないかというフィードバックを支援者に与える機会を探そう。

 

【原則3】支援者が適切な支援の役割を果たしているとき、支援は効果的に行われる。

⑥まずは調べてから、どんな支援の形が具体的に必要とされているかを推測すること。

⑦支援する状況が続く中で、あなたの演じている役割がまだ役に立つものかどうか、定期的に調べること。

⑧あなたがクライアントなら、もはや助けられていないと感じたとき、恐れることなく支援者にフィードバックを与えよう。

 

【原則4】あなたの言動のすべてが、人間関係の将来を決定づける介入である。

⑨支援者としての役割の中では、人間関係に与えそうな衝撃によって、自分の言動をすべて評価すること。

⑩あなたがクライアントなら、やはり自分のあらゆる行動がメッセージを伝えていることを自覚するべきだ。

⑪フィードバックを与える時は、現実の姿の記述にとどめるようにし、判断は最小限に抑えること。

⑫不適切な励ましは最小限にすること。

⑬不適切な修正は最小限にすること。

 

【原則5】効果的な支援は純粋な問いかけとともに始まる。

⑭純粋な問いかけから常に始めるべきである。

⑮求められた支援がどれほどお馴染みのものに聞こえても、これまで一度も聞いたことがない、全く新しい要求だとして考えよう。

 

【原則6】問題を抱えている当事者はクライアントである。

⑯関係を築くまでは、クライアントの話の内容に関心を示し過ぎないように注意すること。

⑰あなたがすべて知っていると思う問題とどれほど似ているようでも、それは他人の問題であって、あなたのものではないことを絶えず思い出そう。

 

【原則7】すべての答えを得ることはできない。

⑱支援の対象となる問題を分かち合うこと。

 

 本書では、上記のほか、「問いかけ」「チームワーク」についても深掘りされており、とても実践的な内容になっています。コーチやカウンセラーといった専門家向けではなく、「道を尋ねられた際に教える側の立場」くらい日常的な人を助ける場面が多数出てきますので、とっつきやすい1冊かと思います。

人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則

人を助けるとはどういうことか 本当の「協力関係」をつくる7つの原則

 

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