問いかける技術(エドガー・H・シャイン)
『問いかける技術』(エドガー・H・シャイン)(◯)
本書は、良い人間関係を築くカギとして本書で語られるのが「問いかける」という日常行為。ただ闇雲に質問するわけではなく、良い人間関係の構築に役立つのは「謙虚に問いかける」こと。「謙虚に」「問いかける」とはどういうことか。社会学的な観点からは、自分が話すのはワン・アップ(立場を上げること)、質問をするのはワン・ダウン(立場を下げること)と説明される。上に立とうとするのではなく、自分をあえて弱い立場に置くことを学べば、より良い関係が築けるはずであり、本書にはそのためのヒントが満載されています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯謙虚に問いかける
・相手の警戒心を解くことができる手法であり、自分では答えが見出せないことについて質問する技術であり、その人のことを理解したいという純粋な気持ちを持って関係を築いていくための流儀である。
①自分から一方的に話すのを控える
②「謙虚に問いかける」という姿勢を学び、相手にもっと質問するように心がける
③傾聴し、相手を認める努力をする
・我々の社会は話す力を過大評価しているが、むしろ発言を控えて問いかける力を高めていくべき。
◯チームのコミュニケーション
・リーダーが「謙虚に問いかける」を率先して実践する姿勢が欠かせないが、上の立場にいる人がこの流儀を学ぶ過程で最も難しいのは、部下をはじめとする自分よりも地位の低いメンバーに、自分は実質的に頼っているという事実を認識すること。
・達成志向の文化では、知識を持っていればそれを顕示することが賞賛されるので、「今ここで必要な謙虚さ」を実践したりしたら、せっかくの地位を失いかねない。まさにこうした謙虚さが、あらゆる業界のリーダーや管理職の人たちに急激に求められている。
◯実例からの学び
・相手を取るか自分を取るかという選択を迫られた場合、二人にとってどうするのがいいかという視点で考える。互いの関係に焦点を当てる。
・自分が少し変わることによって、二人で一緒に問題を解決するようになる。
・何かを聞かれたとき、相手が本当に必要としていることがわかるまで、慌てて返事をしないこと。
・相手が正しい質問をしたと思い込まないようにすること。
・具体例を尋ねることは、相手の話に対する興味、もっと知りたいという意思、親身になって考えていることなどを示すために最も有効な手段だが、それだけではない。一般論的な発言の主旨を明確にすることができる。むしろ、このことの方が重要。
・無知を逆手にとって純粋な好奇心にしたがことが、時として適切な質問を導き出すためのベストな方法。
◯4種類の問いかけ方
①謙虚な問いかけ
・相手に対する興味が最大限に高まる。自分が知らないということを積極的に認める。
②診断的な問いかけ
・質問が相手の思考プロセスに影響を与える。
1)感情や反応に関わる質問:どう感じたか、どう反応したか
2)理由や動機に関わる質問:なぜそうしたか
3)実際の行為に関わる質問:実際に起こったこと、考えていること、これからやろうと計画していること
4)体系的な質問:全体像を把握するための質問
③対決的な問いかけ
・質問という形をとりつつも、自分の考えを差しはさむ
1)
感情や反応に関わる質問:どう感じたか、どう反応したか
2)理由や動機に関わる質問:なぜそうしたか
3)実際の行為に関わる質問:実際に起こったこと、考えていること、これからやろうと計画していること
4)体系的な質問:全体像を把握するための質問
④プロセス指向の問いかけ
・もし良好な関係を築きたいと思っている相手との会話が少々おかしな方向へずれてしまったら、「どうなさいましたか?」(大丈夫ですか?)というような主旨の質問をへりくだってしてみるといい。
1)謙虚にプロセスについて問いかける
2)診断的にプロセスについて問いかける
3)対決的にプロセスについて問いかける
◯最大の課題(人間関係の構築よりも、課題の遂行に価値を置く文化)
・楽観主義と実用主義は、物事を短期的に捉えるという気質によく表れているが、同時に長期的な計画を立てるのが苦手であることの現れでもある。
・待つことがもともと得意でない上に、最近は情報技術が進歩したおかげで物事を処理するスピードが速くなり、私たちはますます気が短くなった。人間関係の構築よりも課題の遂行のほうに、私たちは価値を置く。そんなことはどうでもいい。そういう問題で煩わされたくないとまで考えている。
◯第二の問題(自分が話す文化)
・正しい質問することは評価れるが、一般に質問するという行為は重視されない。人に聞くことは、無知と弱みを見せるということになる。反対にものを知っていることは高く評価される。
・良好な人間関係を維持するためには、「今ここで必要な謙虚さ」を軸として相手に「謙虚に問いかける」ことが鍵となる。
◯リーダーにとっての特別な挑戦課題
・地位が高い方の人が会話を主導し、部下はもっぱら利き手や質問役に回る方が適切。これがうまく機能するのは、以下の3つ。
①上位の目標を上司も部下も共有している。
②上司は解決策を心得ている。
③部下は指示された内容を理解している。
・初期の段階で「謙虚に問いかける」を実践しておかないと、あとになってからではコミュニケーションが良好かどうかを判断するのは難しい。部下は多くの場合、指示を理解できなかったことを認めがらない。
・課題が複雑になればなるほど、互いに対する依存度は高くなるので、上司は「イマココで必要な謙虚さ」の必要性をもっと認め、「謙虚に問いかける」を進んで実践しなければならない。
そもそも質問する段階でワン・ダウン(一段下がり)し、話す方がワン・アップ(一段上がる)しているという事実。そして、上司と部下の関係。上司は、常に上でありたいという心理。こうした前提を理解しておくことで、単なる「質問」ではなく「謙虚な姿勢での質問」という態度に繋がり、それが話し手にも影響していくという構図。この前提理解に役立つ一冊でした。