『究極の鍛錬』(ジョフ・コルヴァン)(◯)
良書でした。本書は、その名の通り、鍛錬する方法を突き詰めた一冊です。偉大な成果を出す人たちが取り組んでいる日々の鍛錬とは。何が一般人とは異なるのか。達人達の一般的能力は驚くほど平均的で、どれほど多く練習するか、それをどのように練習するかが大切だということを、多くの偉人達の例を取り上げながら、教えてくれる内容でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯世界的な異形生み出す要因とは?
・累計の練習量が多いほどより業績が上げられる。ただし、達人と素人の違いは特定の専門分野で一生上達するために、考え抜いた努力を行ったかの違い。練習すればうまくなる「習うより慣れろ」という考え方に基づいたものではない。むしろ高度に具体化された究極の鍛錬という考え方に基づいている。
◯究極の鍛錬の特徴的要素
①しばしば教師の手を借り、実績向上のため特別に考案されている。
・ほとんどの大人はゴルフの打ちっ放しの練習でも、ピアノの練習でも今までやってきたことをただ繰り返すだけで、だいぶ前には達したはずの能力の維持を願っているだけ。
・究極の鍛錬では、業績を上げるのに改善が必要な要素を、鋭く限定し、認識することが求められ、意識しながらそうした要素を鍛え上げていく。
・偉業を成し遂げた人たちは、自分の取り組んでいる特定の課題をはっきり分かるように選び出し、うまくなるまでその課題に集中して練習し続ける。そして次の課題に移る。こうした特定の課題を自分詩人で見つけられること自体が重要な能力。
・3つの同心円。一番内側を「コンフォートゾーン」、中間を「ラーニングゾーン」、外側を「パニックゾーン」とし、人はラーニングゾーンを強化することで成長する(GEクロトンヴィル経営開発センター前所長)
②何度も繰り返すことができる。
・究極の鍛錬は、単なる繰り返しと2つの点で異なっている。
1)ラーニングゾーンで適度にきつい活動を選んでいる。
2)繰り返しの回数の程度。達人になる者はバカバカしくて飽き飽きするまで鍛錬を繰り返す。
・究極の鍛錬の活動を効果的にしたいなら、その鍛錬は相当な数を繰り返すことができるものでなければならない。
③結果に関し継続的にフィードバックを受けることができる。
・フィードバックのない練習は、目の前に膝までカーテンが垂れ下がった状態でボウリングをやるようなもの。
・訓練は好きなだけやって構わないが、訓練の成果がわからなければ、次の2つのことが起こる。
1)決して上達しないこと
2)注意深く練習をしなくなってしまうこと
・フィードバックには先生やコーチ、メンターの存在が欠かせない。
④チェスやビジネスのように純粋に知的な活動であるか、スポーツのように主に肉体的な活動であるにかかわらず、精神的にはとてもつらい。
・究極の鍛錬では、対象を特に絞り込み、集中して努力することが求められている。
・十分ではないと思う成果の要因を継続的かつ正確に、厳しい目で洗い出し、懸命に改善しようとすれば、精神的には大きな負担となる。
・分野を超え驚くほど共通して見られる要素の一つに、究極の鍛錬の練習時間は1日に4〜5時間が上限で、一回のセッションは1時間〜1時間半しか続かないということ。
⑤あまりおもしろくない。
・究極の鍛錬は、「本質的に楽しいものではない」。
・上手にできることは楽しいもの。究極の鍛錬では、まさにこのまったく逆のことが求められる。得意なことの代わりに、不得手なことにしつこく取り組むことが求められる。
◯企業では行われていない「究極の鍛錬」
・究極の鍛錬の原則は、ほとんどの企業にはいずれも当てはまっていない。
1)我々が仕事で通常行うことが第一の原則にまったく反している。仕事は従業員の能力向上のためには設計されていない。
2)第二の原則のように、能力を向上させる活動を繰り返し行うことができない。今までになかった試練に直面すると道しるべとなるような過去の経験はほとんどない。
3)フィードバックは年に1度の業績評価が典型。それがうまくこなせても、そんなものが効果的であるはずがない。11カ月前から今までに完成した仕事がよくできたか、悪かったか、相手に伝えたところで、全く役に立たない。
◯究極の鍛錬では何が行われているのか
・(例)自動車の運転
何か新しいことができるようになるには、人間は3つの段階を経るもの。
1)いろいろなことに注意を払うことが求められる。
2)知識を連携するようになる。
3)考えることなくひとりでに車を運転するようになる(自動化)
⇨この自動化によって普通の人の車の運転技術の向上速度は劇的にスローダウンしついには技術の向上が止まってしまう。日常的活動で卓越した存在になる必要はなく、それでお金を稼ぐ必要はないし、ただ楽しめれば良い。
・自動化の回避が究極の鍛錬を継続することの一つの効果。自分がうまくできない点を絶えず意識しながら練習するという鍛錬の本質から、自動化に基づく行動を取ることが不可能となる。そうした能力は、常に意識的にコントロールされたもので無意識になされたものではない。
◯直接的に訓練する3つのモデル
①音楽モデル
・これから何を演奏するかがわかっている。達人と普通の人とを分けるのは、その音楽をいかに上手に演奏するか。プレゼンテーションやスピーチも同じ。
②チェスモデル
・色々なテーマで戦いの場面を再現する。日々の訓練では特定の駒の配置を研究する。あなたならどう動かし、チェスの名人は実際にはどう動かしたかを見比べる。もし違いがあるならなぜか、どちらが良いのかを考える。教育手法では、ケースメソッド。
③ スポーツモデル
・コンディショニングと固有のスキル開発。
私は結構好きなジャンルでした。「究極の」とついているように、コンフォートゾーンから抜けた、辛くてつまらなく感じる鍛錬の積み重ねで次のステージに上がって行く、その感覚が好きなんですよね。それが、ビジネスも同じというのが共感できるところです。とはいえ、コンフォートゾーンで楽しみたい気持ちもたくさんありますがね。