『ボトムアップ・マーケティング戦略』(アル・ライズ、ジャック・トラウト)(◯)
私の好きなマーケティング戦略家のアル・ライズさんの著書を読み進めています。本書も良書でした。本書は、マーケティング戦略は本社の会議室で考えるものではなく、現場に出向いて「顧客位優位性と知覚される視点」を見つけ出し、全力で戦略を考え出す熱意こそ大切とする現場主義、そして、戦略⇨戦術ではなく、戦術⇨(それを活かす)戦略という流れの大切さを説いた一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯戦術が戦略を決定する
・実践からの結論としては、戦略はボトムアップ型で立てるべきであり、トップダウン型ではない。ビジネスで実際に行われている戦術を熟知し、それに深く関与することを通して、戦略を立案すべきである。コミュニケーションの戦術がマーケティングの戦略を決定すべき。
・ボトムアップ・マーケティングの原理は単純。具体的なものから一般的なものへ、短期的なものから長期的なものへと進んでいくこと。
②戦術
・戦術とは、顧客の心の中で競合に対して優位性と知覚される斬新な切り口のこと。必ずしも良い製品やサービスを意味するものではなく、むしろ必要なのは差別化の要因。その戦術はマーケティング活動が実践される全領域において競争優位性とならなければならない。
③戦略
・戦略はゴールではなく、首尾一貫したマーケティングの方向性。戦略は選ばれた戦術に焦点が合わされているという意味で首尾一貫している。
・戦略は首尾一貫したマーケティング活動を内に含んでいなければならない。
・戦略は首尾一貫したマーケティングの方向性でなければならない。
・戦略の目的は、戦術を生かすために経営資源を集中すること。つまり、すべての資源を一つの戦略的方向に投入すると約束することによって、ゴールの存在でそれとなくかかる制限を気にせず、戦術を最大限に利用できる。
・優れた戦略などない。戦術的に機能する戦略か、機能しない戦略かのどちらかである。
・戦略の目的とは、仕掛けた戦術に競合が反撃してくるのを妨げることである。
④戦術vs戦略
・戦術は単一のアイデアあるいは切り口。戦略は多くの要素を含んでおり、それら全ては戦術に焦点が合っている。
・戦術が独自性のある、あるいは他とは異なる切り口であるのに対して、戦略というのは新鮮味がないように見える。
・戦術とは時間とは関係なく、どちらかというと不変のもの。戦略はある期間をかけて展開される。
・戦術とは競争優位性のことであり、戦略とはその競争優位性を維持する働きをする。
・戦術とは、製品、サービス、または会社の範囲外にある。戦略とは内部的。
・戦術とはコミュニケーション志向であり、戦略は製品、サービス、あるいは会社志向である。
・戦術によって戦略が決定し、そのあとに戦略が戦術を動かす。戦術と戦略を比較して一方が他方より重要であるということ自体、ボトムアップ型のプロセスの本質を見失っている。マーケティングが成功するかどうかの決定的な分かれ道は、この両者の結びつきである。
◯現場に出向く
・最初に決めなければならないのは「何の」戦術を使うかである。競合に対して優位性となる斬新なアイデアを知覚させる戦術を選ぶ必要がある。次に、その戦術を首尾一貫したマーケティングの方向性の中に組み入れる方法を決める。
・実際の活動が行われている場所を報恩んすることより重要なことはない。時間ができたら行こうなどと考えているのでは遅すぎる。他者からの情報に基づいてすでに心を固めてしまっている。その裏付けのために現場に出向くことがあってはならない。まっさらな情報収集のために行くのである。
・マーケティング戦争の前線とは、見込み客の心。前線である現場に出向くとは、顧客や見込み客が考えていそうなことを探れるポジションに自分自身を置くことを意味する。
◯時流を観察する
・重要なのは、基本的な習慣は非常にゆっくりと変化するが、マスコミが小さな変化でも大げさに話すことがよくあること。その結果、企業が状況を読み違えてしまうことになる。
◯焦点を絞る
・焦点を絞るとは、競合とは対照的により、小さな市場に訴求することを意味する。
・人間の心はスペシャリストの方がゼネラリストよりも優っていると考える。スペシャリストが人間の心の中では上位にいる。
◯戦術を見出す
①戦術は自社志向ではいけない
・十中八九、新製品は自社の製品ラインの隙間を埋めるために売り出されるのであり、市場の隙間を埋めるためではない。多分それが新製品を出してもほとんどが失敗する理由である。企業の焦点が間違っている。それは組織内部では点数を稼げるかもしれないが、外侮に対しては悲惨な結果をもたらし得る。
②戦術は顧客志向ではいけない
・マーケティング実施計画とは、自社の顧客を惹きつけ離さないと同時に、一方で競合から顧客を奪い取る策なのである。
◯戦略を構築する
・重要なコンセプトは「継続性」である。戦術を戦略に転換するためには、時間という要素を付け足さなければならない。戦術を組織構造の中に組み入れ、企業の重要な戦略コンセプトあるいは企業の使命とする方法を見つけ出すことである。
・戦術を戦略に転換するときに、課題は長期に渡って単一の明快さを維持することである。
・単一の戦術から始め、その戦術を戦略に転換するとき、マーケティングの仕掛けは一つに限定すべきである。そのプロセスは首尾一貫したマーケティングの方向性に帰着する。
・ボトムアップから始めると、一つの戦術と単一の戦略に帰着することになるのは間違いない。言い換えると、単一で強力なマーケティングの動きに集中せざるを得なくなる。これがボトムアップ手法の最も重要な結果であり、優れたマーケティング思考の最も重要な部分である。
・トップダウンだ型で、戦略からスタートして、それから戦術を作り上げていくと、多くの異なる戦術で終わってしまうのが常である。
◯変更を加える
・加えなければならない変更点は市場そのものではない。変えなければならないのは、自社あるいは自社商品である。市場は変えることができない。マーケティング上取り組んでも、市場の構造や購入様式は対して変えることはできず、見込み客の心を変えることなど実質的には不可能である。
・すでに心の中に存在している、競合に対して優位性となる斬新な切り口を見つけること(それはネガティブなことでも良いかもしれない)。それが、売り込みをする上での戦術であり、機能するのである。心を変えようとしてはいけない。
◯戦場を変える
・成功している戦術的な変更には少なくとも4種類ある。
①ターゲットを変える
②ブランドを変える
③焦点を変える
④流通を変える
◯戦略を試す
・矛盾していることは、マーケティング実施計画が斬新でユニークであればあるほど、それが最終的に成功する確率は高くなるが、逆に事前調査で良い反応が得られる確率は低くなることである。
・調査票にある数字は忘れなさい。それらの数字は、人工的な環境の中で問う人工的な質問への人工的な答えを表している。
現場(顧客や見込み客が考えていそうなことを探れるポジションに自分自身を置くこと)⇨戦術によって差別化を図ること⇨差別化を継続できるように戦略を立てること。この流れを徹底的に深掘りした本書。実務としてもすぐに使える一冊ではないかと思いました。
- 作者: ジャック・トラウト,アル・ライズ,丸山謙治
- 出版社/メーカー: 日本能率協会マネジメントセンター
- 発売日: 2011/11/23
- メディア: 単行本
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