『魔法のコーチング』(トム・コネラン)(◯)
本書は、技術的なことを深掘りするというようり、現場で他者とどのように関わっていくのかという考え方を中心に、物語形式で現場での実践的なコーチングについてまとめられた一冊です。物語は、女性営業部長、成績急降下中の娘と断絶状態の中年男、公立病院の看護師長、仕事に燃える熱血教師、製紙会社の社長の5名が研修に参加し、学んだ内容を現場で実践し、再び集まって結果をシェアするという内容。コーチングの実践の場は違っても、そこに共通点(コーチングの要諦)を見出せる内容になっています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯第一子の特徴から学ぶ
・成績や業績が良い人たちには第一子が多い事実(第一子は全人口の35%)
①起業家の2/3は第一子である。
②初期の宇宙飛行士23人のうち21人が第一子である。
③10年に渡り、優秀な9年生、1500人を調査したところ49%が第一子であった。
④1960年〜1999年までに活躍した世界的な女性指導者のうち、45%が第一子であった。
⑤アメリカ大統領の半数以上は第一子である。
⑥優秀なパイロットの80%以上が第一子であった。 などなど
・第一子とそれ以外の子供の違いに関していえば、特に重要な要因が3つある。
①他の子供よりも期待され、
②他の子供よりも責任を与えられ、
③他の子供よりもフィードバックを受けている。
⇨つまり、最初に生まれたからではなく、3つの要因が揃ったからこそ、高いパフォーマンスを上げることができた。3つのうちどれかはやっているが、系統だっていないのが普通。
◯期待する
・プラセボ(砂糖を固めたものをよく効く薬だと言って患者に渡した実験)はプラスにもマイナスにも働き、期待に強く左右される。患者が効くと思えば効く。医師が効くはずだと思うことも同じくらい重要。患者の期待は医師によって左右されるから。同じことが日常生活で起きる。
・相手に最高の力を発揮して欲しいと期待するなら、そしてそれを言葉にし、声の調子や態度、伝わりやすい状況を作って、はっきりと粘り強く伝えていけば、相手はきっとその期待に応えてくれるはず。ただし、前向きの期待とプラス効果は同じではないことには注意が必要。プラス思考の場合、往々にして現実を無視していることがある。プラス思考を一つひとつ行動に落とし込まなければ何の意味もない。
・前向きの期待は、目の前の現実から出発しなければならない。品質が良くないとすれば、それが現実。売上が落ちているとすれば、それが現実。現実を認識し、現実は現実として受け入れなければならない。ありのままの姿を認識できなければ、先に進むことはできない。一旦目の前の現実を受け入れれば、前向きの期待をして、現実を変えることができる。
◯責任を与える
・物事を成し遂げるのに一番必要なものは、成し遂げてくれる誰か。簡単でわかりきったあまりに重要な要素だから、見落としがち。カギになるのが責任。責任が伴わなければ、何事もなし得ない。
・責任が機能するために必要なこと
①責任を与える
②目標を立てる
③行動計画を立てる
④巻き込む
・陸軍でのAAR(行動後評価)
何かあるたびに、10〜15分の検証を行う。毎回シンプルな4つの質問がなされる。
①何が起こるべきだったか?
②実際には何があったか?
③その違いが生じた理由は?
④そこから何が学べるか?
・目標に対する責任
目標の効用は2つ。
①目標があれば、後ろ向きではなく前向きに考えられるようになる
②焦点が定まる
・最高の力を引き出すために、段階的ストレスを活用するコツがある。ストレス5の状態が続くと、人間はそれに慣れ、それがその人にとってレベル1になる。以前にはレベル9や10だったストレスが、レベル5になるので、適切な支援さえすれば対応できるようになる。
・『逆動機付けカーブ』
成功が100%保証されている時、やる気は起こらない。逆に、成功の見込みが全くない時にも、やる気は起こらない。やる気を最大限に引き出せるのは、成功の確率はかなり高いが、リスクがあり、挑戦すべき課題があるとき。
◯フィードバックする(3つのフィードバック)
①動機付けのフィードバック
・良いところを伸ばし、強化する。
1)直後に、その場で褒めて強化する
2)最高の出来ではなくても、少しでもよくなったら褒めて強化する
3)個別に褒めて強化する
4)これまでにない行動をたえず褒めて強化する
5)優れた習慣は、折にふれて褒めて強化する
・自分が望む水準に達していない人がいれば、一対一で面談する。その場その場で継続的に指導し、強化する。どんなに小さくても、進歩が見られたら、そこを褒めて強化する。そして、ある水準に達したら、一歩引いて成り行きを見守る。ただし時にはよくやったと声をかけ、背中を叩いてねぎらい、励ますことが大切。
②情報のフィードバック
・原則として、一人ひとりの統計を取り、その推移を見るのがベスト。本人が記録すると、納得しやすくなる。
・3つの留意点
①フィードバックは目標と結びついていなければならない
②情報のフィードバックは直ちに行わなければならない
③『千の言葉よりも一枚の絵』
数字は頭に入りにくのに対し、映像は理解しやすい。
③開発のフィードバック
・パフォーマンスについて話し合う5つのポイント
①問題をはっきりさせる
②解決策を示すよう求める
③代替案を探す
④使える提案をし強化する
⑤約束を取りつける
◯実行に移す
・シンプルだからといって簡単なわけではない。相手の行動を変えるのは、やりやすい部分。難しいのは、自分自身の行動を変えること。
・自分は何をしたらいいのか、自分の行動のどこを変えれば、相手が100%の力を発揮できるのか。
・一度叱るなら、その3倍〜5倍褒める。悪いことを言うなら、良いことを3回〜5回言う。
◯問題解決のステップ
①行動の変化
相手に何をして欲しいのか、して欲しくないのか、行動をどう変えて欲しいのかを決める。
②パフォーマンスの水準
どの程度のパフォーマンスが期待できるのかを決める。
③自分自身の行動(期待、責任、フィードバック)
自分の行動を見直す。
1)前向きの期待をもっとうまく伝える方法はないか
2)パフォーマンスの改善につながる行動に集中できるよう、もっと手助けできるのではないか
3)行動が改善され、成果が出たことを褒めて強化し、やる気を引き出すフィードバックをしているか
シンプルな中に要点が詰まっています。期待し⇨責任を与え⇨フィードバックする。この3つを愚直に回すことこそ、人を成長させ、組織に貢献してもらい、組織が成果を上げる要諦ということが読んでみて腹落ちしました。