『最前線のリーダーシップ』(ロナルド・A・ハイフェッツ、マーティ・リンスキー)(◯)
本書は、初版から15年ぶりの改訂版です(初版の日本発売は2007年)。現場の最前線でリーダーシップを発揮して行動する人たちは、様々な人々の抵抗にあって傷つくことになる。そうした中にあってもリーダーとして行動して、価値をもたらすリーダーに向けて書かれた本書。どのようにして、リーダーとして行動する機会を捉え、かつ、生き残り成功するのか。実地に役立つ一冊です。本書の続編に、こちらも良書である『最難関のリーダーシップ』があります。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯なぜ、リーダーは危険にさらされるのか
・長年の価値観や信念や習慣に疑問を投げかけると、人々にはあなたが危険な人間に見える。人々が「聞きたいと思うこと」ではなく、「聞く必要のあること」を口にすれば、あなたは自分を危険にさらすことになる。あなたは熱い想いを描き、より良いミラがはっきり見えるかもしれないが、人々には同じ強烈に、より良い未来と引き換えに失う未来が見えるのだ。
・習慣を変えるのが難しいのは、その習慣が安定をもたらすからだ。つまり先のことが見える。ところが、適応へ向けた変化という苦しみを経験するときは、今より良くなるという保証がない。何より影響が大きいのは、習慣や価値観や考え方は他の人から受け継いだものであり、それを捨てることはその人を裏切ることになる、という点かもしれない。
◯技術的問題と適応課題
・技術的問題:
裏付けのある専門知識や標準的な手順を使ってなお歯が立たない問題。権限を持っている人が、今あるノウハウを使って取り組む。
・適応課題
組織やコミュニティのありとあらゆる場所を巻き込んだ、実験や新たな発見や調整が必要な問題。問題を抱えている人が、新たな方法を学んで取り組む。
・実は、リスクと適応課題の間には比例関係がある。変化が大きければ大きいほど、抵抗が大きくなり、ひいては、リーダーにとってリスクが増す。だから、意識的あるいは無意識に、適応課題をあたかも技術的問題であるかのように扱うことによって、たびたびリスクを避けようとする。そんなわけで、社会はリーダーシップではなく、型にはまった管理があふれている。
◯リスクの様々な側面
リーダーシップの実践がおびやかされる基本分類は、以下の4つ。
①片隅へ追いやられる
②注意をそらされる
③攻撃される
④魅惑される
◯バルコニーに立つ
・「行動しているさなかでも大局的見地に立つ」という考えほど、実地に役立つ、確かで重要な考えはない。
・「ダンス・フロアを離れ、バルコニー(上階の桟敷)に立つ」。行動しているさなかに一歩下がり、「今、本当に起きていることは何か」と問う。
・バルコニーからの視点を持つとは、たとえ一瞬でも、ダンス・フロアから離れた自分を想像するということ。目のまで起きていることをしっかり認識し、同時に全体を見渡すには、興奮あるいは緊張する場から離れる以外にないのだ。もし離れなければ、状況を誤解し、誤った診断をして、介入すべきかどうかや介入ん仕方について、見当違いの判断をしてしまうことになる。
・今起きていることに介入する必要があると判断した場合は、ダンス・フロアに戻らなければならない。ダンス・フロアとバルコニーを行ったり来たりし、介入し、介入の影響をリアルタイムで観察し、それからまたプロセスの最初に戻る、ひたすら反復するプロセス。
・ダンス・フロアからの問いかけ
「今、起きていることは何か?」
⇨次の4つの診断作業に取り組む
①技術的な問題か、適応を要する問題かを見極める
②人々の立場を知る
③言葉の下の歌に耳をすます
④上に立つ責任者の考えを読み、手がかりを探す
◯政治的に考える
・公式の権限をどれほど持っていようと、生き残って成功するためには、責任ある立場の人との協力関係が欠かせない。
・指示も反対もしない慎重な人、つまり、ぜひ支持に回ってもらいたいと思う人の信頼を得る4つのステップ。
①自分も問題に関与しているという責任を引き受ける
問題に共に立ち向かい、責任を、あなたを含めた全員が負っていることを各自が認めるなら、あなたは攻撃されにくくなる。
②人々の喪失感を承知していると伝える
③範となって示す
④犠牲者が出るのはやむなしとして受け容れる
◯対立を調和へ導く
①包み込む環境を作る
困難で軋轢の生じかねない問題に対しても、分裂することなく団結して立ち向かえる、そんな人間関係のネットワークによって生み出される場を作る。
②温度を調整する
1)温度を上げる
難しい課題に注意を向けさせる。
快適だと感じる範囲を超えた重さの責任を課す。
意見の不一致を表面化させる。
批判を厭わない反骨精神の持ち主を守る。
2)温度を下げる
人々の怒り、不安、混乱を和らげる
対応策をとる。問題解決プロセスの仕組みを作る。
進行の速度を緩める。
常にそばにいて寄り添う。
方向づけを行う。
容易に解決できる問題は短期間で結果を出す。
③ペースを調整する
途中でのコース変更に柔軟であるべきなのはもちろん、人々の反応を確かめながら、再評価し、軌道修正することになると肝に命じておこう。
④未来図を見せる
変革を進めるにあたっては、対立が起きた際に自らが批判の矢面に立たされることのないよう、実感できるビジョンを示し、どんな価値のために戦っているのかを思い出してもらい、具体的な未来図を見せることが重要。「なぜ」で始まる問いに、可能な限りの方法で答えよう。すると、より良い場所を目指せば語らずぶつかることになる困難に、耐える努力をしてもらえるようになる。
◯するべき人に仕事を返す
・介入は短くシンプルに
①所見を述べる
②疑問を投げかける
③解釈を伝える
④行動を起こす
◯平静を保つ
・タイミングを判断するための問い
①その問題に関わる必要のある人々は、他にどんなことを懸念しているか
②人々はその問題にどれくらい大きな影響を受けるか
③人々はどれくらい学ぶ必要があるか
④上に立つ責任者はその問題について何を述べ、どんな行動をとっているか
本書では、実際に頻繁に起こりがちな、いわゆる抵抗勢力への対処の仕方を深掘った内容であり、とても実践的な内容と言えます。実際に使えるという意味でも、深掘理の仕方やまとめ方という意味でも、良書と言える一冊でした。