『組織の壁を越える』(クリス・アーンスト、ドナ・クロボット=メイソン)(◯)
本書は、グローバル化やダイバーシティなど違いが着目される中、25の組織研究をもとに、違いを超えたリーダーシップのための使える戦術を「バウンダリー・スパニング」という6つの手法で紹介した一冊です。
組織の壁というのは、特に大企業の中にいれば感じることが多いと思います。ストレスの要因にもなるこの壁をどのようなステップを踏んで越えていけばいいのか、事例を交えながら、わかりやすく解説されています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯「バウンダリー・スパニング・リーダーシップ」とは
・より高いビジョンやゴールを目指し、集団の境界を超えて、方向性、団結力、責任感を築く能力。
◯本書の流れ
①グレート・ディバイド
集団が「私たち」と「彼ら」に分裂した時に生じる、破壊的かつ非生産的な事象。
②境界のマネジメント
・バッファリング
境界を明確にして集団間に安全・安心をもたらす。
・リフレクティング
境界線を理解して集団相互の経緯を深める。
③共通の土台作り
・コネクティング
境界線を一旦棚上げし、集団間に信頼を築く。
・モビライジング
境界線を構成し直し、集団同士のコミュニティを築く。
④新たなフロンティアの発見
・ウィービング
境界線が織り合わされ集団の相互依存が進む。
・トランスフォーミング
境界を切断して集団の改革を可能にする。
⑤ネクサス効果
各集団が一致協力して達成できる無限の可能性や優れた成果。
◯越えるべき境界
①組織の階層間の境界(階層、地位、年功、権限など)
②部門間の水平の境界(部門、ユニット、同僚、専門性など)
④多様な集団の出身者と働く際の人口属性上の境界(性別、人種、学歴、思想など)
⑤働いている場所の違いなどの地理的な境界(距離、場所、文化、地域、市場など)
◯ネクサス課題(境界を越えたリーダーシップでしか解決できない課題)
①何?
課題は何か?それを表現する。
②なぜ?
なぜこれが課題なのか?関係する境界や集団をリストアップする。
③どのように?
この課題にどのように対応しようとしてきたか?何が有効で何が有効でないか?
④もし〜なら?
もしこの課題を解決できたとしたら?どんな新しい課題が生まれるか?
◯グレート・ディバイド
・集団が他の集団に脅威を覚え、差異ばかりに注目して共通点に目が向かないとき、「私たち」と「彼ら」の分裂は、やりとりを重ねるごとに深まっていく。共通の方向性、団結力、責任感を築くのはますます難しくなる。
・トリガーとなる出来事には、①断絶、②摩擦、③潜行(他方に組み込まれる)、④衝突がある。
◯バッファリング(安全・安心を確保する)
・境界があると人は安心感を覚える。境界を定めて集団間の安全を確保するのが、ネクサス効果へ向けた第一歩。
・境界は、我々が誰で、誰でないかを定義する助けになる。集団は、自らの領域内で守られていると安心できるまでは、境界を越えて効果的に協力することはできない。
・戦術
①集団を分ける
②外部からの脅威を減らす
③境界が目に見えるようにする
④統一のチームアイデンティティをつくる
⑤チームの一体感を築く
◯リフレクティング(敬意を育む)
・自分以外の集団の経験やニーズ、価値観、課題と時間をとって知ろうとしたら、または、どう違うかを他人に理解させることができたら、それがリフレクティング。
・アイディンティティの違いを互いに共有しながら、集団のアイデンティティを保持する。
・戦術
①集団がお互いのことを知る機会をつくる
②大きな差異を明らかにするための効果的な問いを発する
③違いをもとに共通点を浮かび上がらせる
④集団が「彼ら」を「私たち」にしようとする傾向に抗う
⑤スピードアップのために集団をスピードダウンさせる
◯コネクティング(信頼を築く)
・集団対集団のつながりよりも個人対個人のつながりを築くことで関係を作ろうとする。コネクティングを通じて集団相互の信頼を築く。
・戦術
①中立地帯で相まみえる
②「魅力的な空間」をつくる
③通信テクノロジーを使って人々を結びつける
④リーダーシップネットワークを築く
⑤オフィスの外で交わる
◯モビライジング(コミュニティをつくる)
・誰もが所属可能な共通の包摂的アイディンティティを活性化するのが狙い。集団の境界を「再カテゴリー化する」。
・戦術
①各集団が同じ行動を起こそうという気になるビジョン、ミッション、ゴールを掲げる
②共通の包摂的な価値観を明らかにすることで、共有すべきアイデンティティを構築する
③誰もが所属可能な文化を生み出す
④共通のシンボルやグッズをつくって「私たち」が何者で何を信じるかを示す
⑤全員に役割があるストーリーを語る
◯ウィービング(相互依存を高める)
・集団の境界が織り合わさりながらも、なお区別できる状態。ラグマットを編む時のように、糸は違うけど、それらを編み合わせれば、もっと大きな全体が出来上がる。マトリョーシカ人形のように、入れ子になった人形にはそれぞれ個性や特徴があるが、同時に小さな人形が大きな人形の中に入り、最終的に一つの全体が出来上がる。この民芸品の価値がフルに発揮されるのは、この全体が揃ったとき。
・戦術
①共通の目標の妨げとなる障害や障壁を取り除く
②集団の差異をいじらず、それをむしろ利用する
③点(各集団の経験、専門性、行動)をつないで線(共通の大きな目標)にする
④互いに依存しあう「集団の集団」をつくる
⑤各集団だけでは達成できない相互依存的な目標を定める
◯トランスフォーミング(改革を可能にする)
・ひとつの全体を発見したと主張することがない。たくさんの集団を無数の新しい方法で束ね、何が起こるか様子を見る。
・戦術
①すべての集団を関与させ、できるだけ多様な視点を確保する
②問題の枠組みをどう定めるかが、リーダーシップの第一幕である
③別の未来を描くチャンスをすべての集団に等しく提供する
④すべての集団にコアバリューを確認させる
⑤ポジティブとネガティブ、両方のエネルギーが流れる道筋をつくる
◯ネクサス効果
・各集団が一致協力して達成できる(単独では達成できない)無限の可能性や優れた成果。生物の細胞、あるいはインターネット上で見られる無数に近いつながりとは違って集団間の協業ネクサスはそう頻繁に起きるものではない。しかし、起きた時には必ずわかる。ネクサス効果を経験した人からは、大きな活力や決意が感じられる。
本書を読んで、組織の壁を越えるには、まずは、境界を設けて安全・安心を気づいて、そこからの相互理解、個人のつながり、集団のつながりへと発展していく、この順番がとても大事なんだということを改めて理解しました。確かに、安全でなければ、本音を話すこともないし、理解も深まりませんもんね。組織課題は広く企業の課題になっているので、理解を深めたい分野です。
- 作者: クリス・アーンスト,ドナ・クロボット=メイソン,加藤雅則,三木俊哉
- 出版社/メーカー: 英治出版
- 発売日: 2018/12/13
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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