『ずる』(ダン・アリエリー)(◯)
最近シリーズで読み進めている著者の行動経済学シリーズ。本書は、タイトル通り、ずるいこと、不正の背景でどんな心理が働いているのか。嘘やごまかしに焦点を当てた一冊。会社のお金は盗まないけど、会社の消耗品は持ち帰る人もいる。これは、現金そのものには罪悪感があっても、現金から離れると現金と同等価値があっても罪の意識は希薄になっていくと感じてしまう脳の働きによるもの。だから、キャッシュレス時代を迎えて、不正・犯罪は増えていくようです。そんな身近な話題についてまとめられています。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯不正をつくる要因のまとめ
①不正を促す要因
・正当化の能力
・利益相反
・創造性
・一つの反道徳的行為
・消耗
・他人が自分の不正から利益を得る
・他人の不正を目撃する
・不正の例を示す文化
②影響なし
・不正から得られる金額
・捕まる確率
③不正を減らす要因
・誓約
・署名
・道徳心を呼び起こすもの
・監視
◯合理的犯罪モデル(SMORC)
・費用と便益を天秤にかける際、善悪の判断が入り込む余地はなく、起こりうる好ましい結果と好ましくない結果を比較したもの(ノーベル賞受賞者のゲーリー・ベッカーが提唱した概念)。
⇨本書はこの考え方に疑問を呈している。
・3つの基本的要素から成っている。①犯罪から得られる便益、②捕まる確率、③捕まった場合に予想される処罰。
◯人間はつじつま合わせをする
・見つかる確率を変えても不正の水準は変化しなかったことを考え合わせると、不正が費用便益分析をもとに行われる可能性はさらに低くなる。
・チャンスを与えられると大勢の人がちょっとだけごまかしをする。
・2つの相反する動機付けする
①自分を正直で立派な人物だと思いたい。鏡に映った自分の姿を見て自分に満足したい。
②ごまかしから利益を得て、できるだけ得をしたい。
⇨ほんのちょっとだけごまかしをする分には、ごまかしから利益を得ながら、自分を素晴らしい人物だと思い続けることができる。
・不正の動機となるのは、主に個人のつじつま合わせ係数であって、SMORCではないことを認めるべき。犯罪を減らすには、人が自分の行動を正当化する、その方法を変えなくてはいけないことをつじつま合わせ系数は教えてくれる。利己的な欲求を正当化する能力が高まると、つじつま合わせ係数も大きくなり、その結果、不品行や不正行為をしても違和感を覚えにくくなる。
◯講演が医師に及ぼす影響
・特定の医薬品が有効だという内容の簡単な短い講演を行った医師が、自分の言葉を信じるようになり、やがてその信念をもとに薬を処方し始める。
・私たちが自分の口から出る言葉をなんであれ、いとも素早く簡単に信じるようになることを、心理学の研究は示している。
・その意見を表明したそもそもの理由(報酬を支払われた)が意味を失った後も、ずっと信じ続ける。これが認知的不協和の作用。
・医師は自分が宣伝している医薬品なのだから、さぞかし効果が高いに違いないと、頭の中で理屈づける。そうするうちに、自分の言ったことを信じ、その信念をもとに処方するようになる。
◯疲れた脳
・何度も自分を抑えるうちに自制力が消耗していくなら、こうしょっちゅう自制に失敗するのも無理はない。自我消耗は、夜に自制に失敗することがこんなにも多い理由を説明する。一日中真面目に頑張り続けると、何もかもに疲れてしまう。だから夜になると、特に欲求に屈しやすくなる。
◯祖母たちの訃報
・祖母が亡くなる確率が、中間試験の前は10倍、期末試験の前には19倍に跳ね上がる。おまけに、成績が芳しくない学生の祖母は、さらに高い危険に晒されていた。落第寸前んお学生は、そうでない学生に比べて、祖母を亡くす確率が50倍も高い。
◯「どうにでもなれ」効果
・人はごまかしにかけては、ダイエットととても似た方法で行動する。いったん自分の規範を破るようになると、自分の行動を抑えようという努力をずっと放棄しやすくなる。そして、それ以降、さらに不品行なことをする誘惑に、とても屈しやすくなる。
・「身なりは人を作る」ということわざの示す通り、偽物を身につけることは、倫理的判断に確かに影響を及ぼすようだ。
・初期段階の犯罪にもっと注意を払い、手遅れになる前にブレーキをかけられるかもしれない。「どうにでもなれ」効果を考えると、最初のたった一つのごまかしが、自分の全体的な不正直さの水準が高まったという自己シグナリングを発し、重役はそれをもとにつじつま合わせ係数を大きくして、さらなる詐欺行為を行うかもしれない。
・肝心なのは、どんなものであれ、不正行為を取るに足らないものと片付けるべきではないということ。初犯は大抵の場合、初めてのことだし誰にも間違いはあるといって多目に見られることが多い。そうかもしれないが、初めての不正行為は、その後の自分自身や自分の行動に対する見方を形成する上で、特に大きな意味を持つことも忘れてはならない。だからこそ、最も阻止すべきは最初の不正行為。一見無害と思われる、単発の不正行為の数を減らすことこそが重要。
「ずる」というタイトルにも惹かれますし、 読んでみると日常ありふれた出来事でもあるため、とても親近感が湧く内容となっています。人間の行動は完璧ではないだけに、どういう傾向があるのかということを押さえておくことは大切ですね。