本書は、「帝王学」とも呼ばれる書物で、中国唐の時代太宗李世民(在位626〜649年)とそれを補佐した名臣たちの政治問答集です。創業とはまた違った苦労がある時代が安定期に入った際の守成(守り)の時代をいかに耐え、いかに乗り越えていったかが中心テーマとなっている。今の時代であっても、経営者、リーダー、人の上に立つ方であればとても参考になる一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯身理(おさ)まりて国乱るる者を聞かず
・いまだかつて、体はまっすぐ立っているのに影が曲って映り、君主が立派な政治をとっているのに人民がでたらめであったという話は聞かない。身の破滅を招くのは、他でもない、その者自身の欲望が原因なのだ。
◯政治の心構えと病気の治療
・国を治めるときの心構えは病気を治療するときの心がけとまったく同じである。病人というのは、快方に向かっているときこそ、いっそう用心して介護にあたらなければならない。つい油断して、医師の指示を破るようなことがあれば、それこそ命取りになるであろう。
・国を治めるにあたっても、同じ心構えが必要だ。天下が安定に向かっているときこそ、とりわけ慎重にしなければならぬ。その時になって、やれ安心と、気をゆるめれば、必ず国を滅ぼすことになる。
◯君は舟なり、人は水なり(『荀子』)
・「君は舟なり、庶民は水なり、水はすなわち舟を載せ、水はすなわち舟を覆す」(君主は舟で民は水。浮くも沈むも水次第)
・君主の心すべき要点
①公正な政治を行い、人民を愛すること
②礼を尊重し、優れた人物に敬意を表すること
③賢者を登用し、有能な人物を抜擢すること
◯国を治むるはなお樹を栽(う)うるが如し
・そもそも国を治めるのは、木を植えるようなもの。木というのは、根や幹さえしっかりしていれば、枝葉は自然に繁茂する。それと同じように、上に立つ君主が身を慎めば、人民の生活も自ずから安定するはずではないか。
・組織の経営・維持
①まず原理原則(大方針)を確立すること
②トップが率先して実行にあたること
◯縄に従えば正し
・どんなに曲がりくねった木でも、縄墨に従って製材すれば真っ直ぐな材木がとれる。それと同じように、君主も、臣下の諫言を聞き入れれば、立派な君主になることができる。
◯人材招致の極意
①礼を尽くして相手に仕え、謹んで教えを受ける。これなら自分より100倍優れた人材が参る。
②相手に敬意を表し、その意見にじっと耳を傾ける。これならば自分より10倍優れた人材が集まってくる。
③相手と対等に振る舞う。これでは自分と似たり寄ったりの人間しか集まってこない。
④床机にもたれ、杖を握って横目で指示する。これでは小役人しか集まらない。
⑤頭ごなしに怒鳴りつけ叱り飛ばす。これではもはや下僕のようなものしか集まらない。
◯李克(戦国時代の魏の文侯の宰相)の人物鑑定法
①普段、どんな相手と親しくしていたか
②富裕なとき、誰に与えたか
③高位についたとき、誰を登用したか
④窮地に陥ったとき、不正を行わなかったか
⑤貧乏したとき、貪り取らなかったか
◯流水の清濁はその源にあり
・『荀子』にある「源清ければ流れ清く、源濁れば流れ濁る」が出典。上に立つものは率先して我が身を正せということ。
◯政をなすの要は人を得るにあり
・政治の要諦は、何よりもまず人材を得ること。能力のない人間を登用すれば、必ずや政治に混乱を生ずるであろう。人材の登用にあたっては、まず徳行と学識の2つを基準とすべきである。
本書の他にもう一冊『宋名臣言行録』という書物があります。こちらも北宋・南宋の名君・名臣の対話集で本書と並ぶ帝王学の教えが書かれています。どちらにも言えることは、上に立つ人の謙虚な心構え、自分を律する意識、本質を見抜く力、絶妙なバランス感、こういった力が備わっていること。自分の現状やこれからの生き方を考えるヒントになると思います。