MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

『言志四録(三)』(佐藤一斎、全訳注:川上正光)

『言志四録(三)』(佐藤一斎、全訳注:川上正光)(◯)

 四巻セットの第三巻は『言志晩録』。著者(佐藤一斎:1772〜1859年)が67歳から78歳に記した292条からなる語録です。ピンとくるもの、来ないもの。古典、特に語録系を読みながら思うのは、読み手の体験、思考力、あり方が試されること。私は、線引きしながらリアル本を読みますが、全然線が引かれないページが続くこともあります。「あぁ、この領域は全然意識せずに生きてきたな」と思ったとき、自分の中でアンテナが立つので、少しずつその後の日常の中で意識を向けてるようになります。言志四録四巻では、1133条もの条文があるので、自分の思考の偏りチェックにも役立つと思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯為学と為政

・学問をするにあたって最も大切なことは「心」という一字にある。自分の心をしっかり把握して、これを治める。これを聖人の学という。

・政事をするにあたって第一に眼を著(つ)けるところは、「情」という一字にある。人情の機微に従って、人々を治める。これを王者の道という。

・これら王者の道と聖人の学とは実は一つであって、二つではない。

 

◯四書講説の心得

論語:慈悲のある父親が、諄々と子供に教える気持ち

孟子:兄が末弟を親しみを持って教える心構え

③大学:条理整然と網を一本の網で引き締めるような気持ち

④中庸:虚心坦懐に、雲が山の洞穴から出るような心構え

 

◯疑は覚悟の機

・自分は若年の時、学問上多くの疑問点があった。中年に至っても同じようであった。一つの疑問が起こるたびに物の見方が少し変化した。すなわち学問が少し進歩するのを自覚した。

・ところが、近年(だいたい70歳と考えられる)になると、少しも疑う心がなくなり、学問もまた進歩向上するのを自覚しなくなった。そこで、始めて、昔白沙先生の言われた「ものを疑うと云う事は悟を得る機会である」と云うことを信ずるものである。

・学問を修めるにも、研究を行うにも、商売をするにもその道一筋に進んで脇目をしないこと、何事にも疑いを持つこと、そして目的貫徹まで勇猛に突進すること、の3つは絶対に必要である。

 

◯学は一生の大事

・「少にして学べば、則ち壮にして為すことあり。壮にして学べば、則ち老いて衰えず。老いて学べば、則ち死して朽ちず」

・少年の時から学んでおけば、壮年になってそれが役立ち、何事かを為すことができる。老年になっても学んでいれば、見識も高くなり、より多くの社会に貢献できるから死んでもその名の朽ちることはない。

・「学ばざれば、すなわち老いて衰う」(『近思録』(朱子))

 

◯心で悟ったことはいうことができない

・目で見たものは、口でよく説明することができる。耳で聞いたものは同じく口でよく説明することができる。しかし、内心に自得したもの(心に悟ったもの)になると、口で説明することができない。もし説明したとしてもほんの一部だけにとどまる。だから、学問をする者は、自分の心で先方の心を推し測って、暗黙のうちに会得するものである。

 

◯護身の堅城

・柔を剛にとり、剛を柔にかくす。つまり、剛のうちには柔、柔の表には剛という風に何事も一方に片寄らないようにすることが、わが身を護る堅い城である。

 

◯和の一字、治乱を一串す

・和の字は口と食べ物とが調和することを意味する。

・「君子は和して同ぜず、小人は同じて和せず」(『論語』)

⇨和は各々守るべきところを守って、お互いが協調していくことを意味している。

・「天の時は地の利に如かず、地の利は人の和に如かず」(『孟子』)

 

◯恩と怨

・恩を受けたら恩を返し、怨みを受けたら怨みを返すというように、恩と怨みをはっきり分けることは、君子の執るべき道ではない。徳を受けて報いるべきはいうまでもない。怨になると、自ら人に怨まれるに至った原因んをよく考えて、そのもとを怨むべきである。

・「直をもって怨に報ゆ」(『論語』)

⇨公平無私をもって怨みに報いよ

・「まことこの世において、怨みに報いるに怨みをもってしたならば、ついに怨みの息(や)むことがない。怨みを捨ててこそ怨みは息む。これは永遠の真理である」(『ダンマパダ(法句経)』)

・「裁きは神にあり」(キリスト教

⇨どんな仕打ちを受けても自分でやり返す必要はない。善きも悪しきも神が裁いてくださる。

 

◯人情の向背は敬と慢にあり

・人情が自分に向くか背を向けるかは敬と慢の二字にある。即ち、人を敬すれば人に思われ、人を慢(あなど)れば人に背かれる。人に恵みを施し、また恩に報いる道もまた忽(ゆるがせ)にしてはいけない。恩や怨は或いは小さなことから起こるものであるかもしれないが、十分に慎まなければならない。

 

◯心は現在なるを要す

・時刻は一刻一刻移り変わっていくものであるが、我々はいつでも心を現在の一刻に集中しておかなければならない。事柄がまだ出現しないのに、これを迎えることはできないし、また、過ぎ去ったことを追いかけても追いつけない。わずかでも、過去を追ったり来ない将来を迎えるということは、ともに、自己の本心を失っている状態である。

 

 本書も内省につながる示唆に飛んだ一冊でした。解説も学びを深める付記が多く、本書の良いところを引き立てていると思います。勉強会のテーマにもできそうな言葉も多く、やはり良書だなと思います。

言志四録(3) 言志晩録 (講談社学術文庫)

言志四録(3) 言志晩録 (講談社学術文庫)

 

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