『韓非子』(本田済)(◯)
本書は、1969年刊行の筑摩叢書に基づく、1996年に刊行されたちくま学芸文庫文庫版(上下)を原本として、2022年に講談社学術文庫から刊行されたものです。現代語訳に加え、各章句の要点が冒頭に書かれており、読みやすいと思います(内容は難しいですが)。
韓非子は、中国の春秋戦国の乱世したに法家が磨き上げた統治思想です。その考え方は、秦の始皇帝にも採用され全土統一に繋がっていくという歴史の流れもある重要な思想であり、会社経営を統治と置き換えれば、ビジネスでも参考になるところもあり、儒家や道家と合わせて押さえておきたい内容です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯第二巻 揚権第八
・そもそも物にはそれぞれの得手がある。才能にはそれぞれ適所がある。みなが得手のところに置かれれば、上も下も無為でいられる。
・お上が何かに長じていると、下々はそれにつけ込んでへつらうから、物事がうまくゆかない。お上が自分の才能を自慢しひけらかせば、つい下々の口車に乗せられる。お上が口達者で小知恵が廻り、女々しい慈悲心に富んでおれば、下々はお上の性質を利用してこれに乗ずる。
・政治の要を掴む方法は、名目を正すことが第一。名目が正しければ、物の本質が定まってくる。名目が不正だと、物の本質が変わってくる。だから聖人はこの唯一の道を掴んで、じっとしている。臣下が自分から名目を謳うように、また物事がひとりでに円く治まるように任せ切り。
・お上が自身の華やかな才を示さねば、下々は生地のまま真っ直ぐである。下々の自賛の言葉によってこれに任ずれば、彼らは自分から職務に努めねばなるまい。彼らの言葉の是非によって賞罰を加えれば、彼らは自分から実績を挙げようとするであろう。名目を正すことでもって下々に対処し、物事がひとりでに安定するように仕向けることだ。
・賞と罰の二者が当を得ていれば、下々はお上のため誠心を尽くすであろう。君主はかようになすべきことを気をつけてするだけ。事の成敗は天に任せるがよい。
◯第五巻 亡徴第十五
・木が折れる場合、必ず前から虫食い穴が通っていたのだ。塀が崩れる場合、必ずひび割れが通っていたのだ。しかし、気は虫食っていても、強風がなければ、折れずにいる。塀はひび割れていても、大雨がなければ崩れずにおる。
◯第八巻 安危第二十五
・国を安泰にする7つの道
①賞罰が事の是非に沿っている
②禍福が行いの善悪に沿っている(人は天命を畏れ慎む)
③生き死にが法度に沿っている(罪があれば必ず死刑)
④行いによる分け隔てはあるが、愛憎による分け隔てはない
⑤知能による位の高下はあるが、毀誉褒貶によって上げ下げはしない
⑥尺度があって、目分量がない(法律によって判断し、主観によらない)
⑦約束通りで、詐りがない(法令に嘘がない)
・国を危うくする6つの道
①縄の内において木を斬り削る(法に従っている民を蔑棄する)
②法の外において木を斬割する(法律にない廉(かど)で民を罰する)
③他人が害とすることを己が利益とする
④他人が禍いとすることを己が楽しみとする
⑤他人が安んじているところを危うくする
⑥可愛がって然るべき家来には親しもうとせず、憎むべき家来は一向に遠ざけない(恵も刑罰も正しく行われない)
法に基づく統治ということで、現代も法治国家であり、国の統治や会社のルールなどもイメージしながら読むと、なかなか深いところでリーダーのあり方を問われる内容だなと思います。ルールはいい加減でも厳しすぎても不満が溜まってくるので、どのあたりが頃合いなのか、難しいところですね。