MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

私とは何か(平野啓一郎)

『私とは何か』(平野啓一郎)(◯)

 田坂広志さんの『人は誰もが、「多重人格」』を題材にして勉強会資料を作成していた際に、お友達からご紹介いただいた本書。内容的に同じテーマの話でした。「個人」という普段使っている言葉に対し、「分人」という、実は本当の自分(一人の自分)というのはなく、いろんな自分で自分は構成されていて、それは全部自分であるという考え方がまとめられている一冊。人間関係を考える上でもとても参考になり、人間関係のストレス原因も感じることができて、ちょっと楽になる内容でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯「本当の自分」幻想がはらむ問題

・人間にはいくつもの顔がある。私たちはこのことをまず肯定しよう。相手次第で自然と様々な自分になる。それは少しも後ろめたいことではない。どこに行ってもオレはオレでは、面倒臭がられるだけで、コミュニケーションは成立しない。

・だからこそ、人間は決して唯一無二の「分割不可能な個人(individual)」ではない。複数の「分割可能な分人(dividual)」である。

・分人は全て「本当の自分」である。私たちは、、しかしそう考えることができず、唯一無二の「本当の自分」という幻想に囚われてきたせいで、非常に多くの苦しみとプレッシャーを受けてきた。どこにも実態がないにもかかわらず、それを知り、それを探さなければならないと四六時中そそのかされている。それが、「私」とは何か、というアイデンティティの問いである。

 

◯分人とは何か

・不可分と思われている「個人」を分けて、その下にさらに小さな単位を考える。そのために、本書では「分人」という造語を導入した。「分けられる」という意味だ。

・私たちは、朝、日が昇って、夕方、日が沈む、という反復的なサイクルを生きながら身の回りの他者とも、反復的なコミュニケーションを重ねている。人格とは、その反復を通じて形成される一種のパターンである。

・①社会的な分人(ステップ1)

 最初の段階の分人は、「不特定多数の人とコミュニケーション可能な、汎用性の高い分人」である。これを社会的な分人と呼んでおこう。社会的な分人で交わされるコミュニケーションは広い。コンビニでの買い物や、公共交通機関の利用など、日常生活では、この分人で事足りる領域がかなりある。社会的な分人は「普遍的に通じる」という意味では、普通の人と言っても買わない。

・②グループ向けの分人(ステップ2)

 特定のグループに向けた分人。一般的に人間関係は組織や集団を介して広がっていくもの。その場合、学校や会社、サークルといったグループ向けの分人が求められる、学校に校風、会社には社風があるように、業界や職種にも独特の風土がある。長年一つの分野で活躍してきた人には、その風土が身体に染みついて、服装や行動、言葉遣いや雑談の中身などに、どことなく共通するものが備わっている。社会的な文人が、より狭いカテゴリーに限定されたものが、グループ向けの分人。

・③特定の相手に向けた分人(ステップ3)

 全ての関係がこの段階まで至るわけではない。そうなるかどうかは、運もあれば相性もあるだろう。何度あっても、必要最低限の仕事の話しかせず、その先の関係にはお互いに足を踏み入れられない人もいる。その人は私に対して、分人をカスタマイズする気がなく、私の方でもないということだ。分人の失敗である。社会的な分人が、特定の人に向けてさらに調整されるかどうかは、必ずしも付き合った時間長さには比例しない。

 

◯八方美人はなぜムカつくか

・八方美人とは、分人化の巧みな人ではない。むしろ、誰に対しても、同じ調子のいい智度で通じると高を括って、相手ごとに分人化しようとしない人である。

・パーティならパーティという場所に対する分人化はしても、その先の一人一人の人間の個性は蔑ろにしている。だから、十把一絡げに扱われた私たちは、「オレだけじゃなくて、みんなにあんな態度か!」と八方美人を信用しない。

・分人化は、相手との相互作用の中で自然と生じる現象だ。従って、虫の好かない人といると、嫌な自分になってしまうことだってある。

 

◯個性とは、分人の構成比率

・誰とどう付き合っているかで、あなたの中の分人の構成比率は変化する。その総体が、あなたの個性となる。十年前のあなたと、今のあなたが違うとすれば、それは、つまり、付き合う人が変わり、読む本や住む場所が変わり、分人の構成比率が変化したからである。個性とは、決して生まれつきの、生涯普遍のものではない。

 

 この本は、その考え方の先にあるコミュニケーションの取り方や、ストレス対策、セルフマネジメントの観点から取り入れたいことがたくさんあります。探求本として読了本棚の面陳列本にしておこうと思います。

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