MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

現代倫理学入門(加藤尚武)

『現代倫理学入門』(加藤尚武)(◯)

 「入門」とだけあって分かりやすさとコンパクトさが優れている一冊でした。250ページ弱に15のテーマが収められており、それぞれ独立しているので、自分の関心のあるところだけを拾い読みできるお手軽さが、「倫理」というテーマから抱く難しさを和らげてくれます。私も、他の本を読みながら、合間合間に拾い読みしていました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯判断力は誰が判断するのか?

・正常者と異常者の区分は正常者がするということに、異常者は同意しない。意思決定のシステムが機能するためには、その前提となる決定権を持つ者の決定が有効でなければならない。現代のバイオエシックス生命倫理)は、そこに大きな問題を抱え込んでいる。

・道徳基準が、ある社会で通用するためには、その社会の大多数の成人がその道徳原理に賛同しているか、もしくはその基準を構成するような道徳的意見を持っていることが真実でなければならない。少なくとも90%の賛同を要求しても悪くないだろう。

・ある社会は正式メンバーを、自然の決定に任せるのではなくて、社会的承認を通じて決定する。その決定の仕方は、伝統的社会では、その社会の現在の成員が決定しているというよりは、むしろ伝統そのものが決定している。誰が決定権をもつ成員であるかは、成人式が伝えられている伝統社会では自明である。

・決定権を持つ者を決定するという循環構造がある。正式メンバーと正式メンバーでない人との違いは、正式メンバーが決定するという構造になる。

・手続き上の正義は、内容上の正義にはならない。

・制度としての決定システムは、制度以前の暗黙の合意の上に成り立つ。決定の条件となる者の全ての決定を対象とするならば、決定システムそのものが論理的なパラドックスに陥ってしまう。倫理は従って現実的には暗黙の同意ではあるが、実効性のある正式メンバーの決定方法に依存せざるを得ない。

 

◯正義は時代によって変わるか?

・時代によって価値判断が変化したと言われる例を検討してみると、価値判断は変わっていない。

・西洋の中世では、窃盗の罪が強盗よりも重かったが、近代で逆転した。予防困難な犯罪に重い刑を与えるという原則は変わっていない。市民社会が成立して、個人の自警体制から孝経的治安秩序に変わったので、窃盗の方が強盗よりも予防しやすくなった。

アメリカ・インディアンはタバコを治療に用いたが、現代ではタバコは危険視されている。「健康に悪いものを摂取するな」という価値判断は変化していない。変化したのは、事実についての判断で、「タバコは健康に良い」が「タバコは健康に悪い」変わった。

・「白人にしか認められていなかった選挙権が黒人にまで拡張した」という場合、「判断力を持つ成人は選挙権を持つべきである」という価値判断は変化していない。「白人だけに判断力を認める」という間違った認識が「人種の違いは判断力と無縁である」という正しい認識に変わった。

・人々が「価値判断が変化する」と信じていることは、価値判断以外の別の要因の変化なのであり、価値判断は本質的に変わらない。だから異文化同士が接触したり、時代の変化が急激であるときには、「何が同一であれば変化に耐えられるか」こそが問題になる。

 

 こうやって、議論を投げかけられると、頭も動くし、いろいろ言いたくなりませんか?そこから自分なりの考え方を導き出せれば、日常で起こる出来事に対しても柔軟に考えることができるのではないかと思います。「倫理」というと難しそうな印象がありますが、考える軸が偏らないように、自分の考え方のバランスをとる訓練みたいなもののように感じます。

現代倫理学入門 (講談社学術文庫)

現代倫理学入門 (講談社学術文庫)

  • 作者:加藤 尚武
  • 発売日: 1997/02/07
  • メディア: 文庫
 

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