『なぜリーダーは「失敗」を認められないのか』(リチャード・S・テドロー)(◯)<2回目>
久しぶりに再読してみましたが、前回読んだ4〜5年前に比べて良書だという感じ方が高まっていました。おそらくその間の自分の経験によるものだと思います。本書は、日本語訳が2011年に発行。米国企業のリーダーの失敗事例が8つ。成功事例が3つ。繰り返し出てくるキーワードは「否認」。素直に現実を認められない人間心理について事例を通じて学ぶことができます。「人からどう見られているのか?」。人が行動する際の心理面として大きな要素です。人は合理的には動けないもの。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯第1章「悪い情報を遮断する(ヘンリー・フォードとモデルT)
・フォードは周囲をイエスマンで固めることで、自らを現実から遠ざけていた。
・「おそらく全くお気づきでないと思いますが、あなたの人格の偉大さに伴う問題の一つは、ほとんどの人間があなたの前では自分の考えを述べるのを躊躇することです」(カンツラー)
・カンツラーは権力を持つものに対して、真実を語った。そして同じような行動を取るものが大抵受けるような報いを受けた。そう、解雇されたのだ。これこそ避妊から破滅に至る道筋の、もっとも顕著な特徴といえる。
◯第2章「どうしてあなたは「認められない」のか」
・分かっていながら分からない。人間にはとてもよくある対処法。
・否認する能力は、人間固有の驚くべき現象である。ほとんど解明されておらず、大抵説明できないようなものであり、複雑極まりない感情的、言語的、道徳的、知的営みの産物といえる。
・グループシンクの特徴
①自分たちが誤るはずがないという幻想
②集団が前提とするものの見直しを求めるようなデータの拒否もしくは正当化
③共同幻想を覆すような反対意見の抑制
④集団の構成員による反対意見の自主検問
⑤共有する前提を覆すような情報から集団を守る「精神的番人」を自認するものの存在。
⑥ライバルに対する紋切り型で、侮辱的な見方。
◯第3章「技術的キャズム〜タイヤ業界が認められなかったこと〜」
・1970年代から80年代にかけて、ラジアル革命がタイヤ産業を揺るがした。長い伝統のあるタイヤ会社は新技術を用いたラジアルタイヤをまず否認した。
・最初の段階は、ラジアルタイヤがアメリカでもヨーロッパと同じように成功する、という考えを拒絶した。
・次に、実際にラジアルタイヤがアメリカ市場でも売れることが明らかになると、それによって自分たちを取り巻く世界が未来永劫、変わってしまうということを否認した。
◯第4章「これが現実だなんて信じられなかった〜A&Pの凋落〜」
・「戦略転換点」。業界の力学が変わり、業界構造や競争のあり方が古いものから新しいものへと変化する点を指す。転換点に到達するまでは企業を取り巻く情勢は何も変わらないのだが、転換点を過ぎると状況が根本的に変わる。曲線の軌道が微妙に、だが本質的に変化し、2度と元に戻らない点である。それらをうまく捉えれば、会社は新たな高みへと昇っていく。だが誤れば、衰退する。
・自分たちに都合の良い統計だけを信じ、不都合なものを無視した。A&Pが無視した厳然たる事実とは何か?それは売上高は伸びていたが、伸び率は業界平均の半分以下にとどまっていたということ。それは「元の売上高が小さい会社の方が、速く成長できるものだ」と考えることで、取るに足らない事実として一蹴されてしまった。
・A&Pが否認したのは、ある時代においては有効だった戦略も、別の時代には機能しない可能性があるということ。店舗のリース期間を短くすることは、あくまでも目的を達成するための手段であり、それ自体が目的ではなかったはずだ。
本書を通じて感じることは、ピンチになったときにその人の生き様が現れるということ。特にビジネスにおいては、何事もなくすんなり過ごせるなんてことはなく、ネガティブ感情が生じることはよくあること。その都度、その場が訓練の場みたいなもので、逃げたら逃げ続け・・・向き合ってクリアしていくしかないと思います。神様は同じ宿題を与え続けるとも言いますから。