MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

日本企業の勝算(デービッド・アトキンソン)

『日本企業の勝算』(デービッド・アトキンソン

 著者はイギリス生まれで日本に30年以上居住する経営者。元ゴールドマンサックス社の金融調査室長でもあります。

 著者のこれまでの書籍を読んできた中で、指摘されているのは日本の生産性の低さの原因は中小企業の数が多いという構造によるところが大きいこと。企業には「規模の経済」が働くため、企業規模は大きいほど効率が良い。生産性が高いと収益力が高く、それだけ賃金が上げられる。ところが、日本の現状は中小企業が多く生産性が低いため収益力が低い。だから賃金も上げられないスパイラル。

 今後ますます少子高齢化かつ人口減少を迎えるため、日本のGDPを上げるには、労働者一人当たりの生産性を高めるしかない(労働者数を増やす施策やロボット化などによる効率化はすでにかなり進んでるため、残るは一人当たり生産性)。そんな中、日本全体の視点で見れば、中小企業の統合が必要。これまで中小企業はさまざまな施策で守られすぎてきた。中小企業基本法における中小企業の定義の枠に収まろうという、規模を大きくしないモチベーションが働く施策を、今後は見直す必要がある。

 さぁ、著者の主張、頭で理解できても感情で拒んでしまいそうになる方も多いと思います。その出口はどこにあるのか?

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯人口増加時代と人口減少時代では、優遇策の「あるべき姿」が異なる

・1990年代までの人口が増えていた時代は、雇用の確保が国にとっても重要なので、この時代行われていた中小企業優遇策が有効だったことは、全面的には否定できない。

・現在の日本の産業構造のもとでは、中小企業が生み出す付加価値は極めて小さくなっている。現在の産業構造を維持するためには人口増加が絶対条件なので無理が生じてしまう。

・日本では賃金が長年に割って減り続ける状況が続いている。労働分配率がずっと下がり続けているのが証拠。これらの状況を鑑みると、これまでの日本では労働生産性を犠牲にして、雇用の確保のみを重視し、中小企業の優遇政策がとられてきたという仮説が成立する。

・これからは人口が減少するので、経済規模を維持するためには、生産性を向上させなければならない。産業構造自体を、生産性をより重視する形に変えなくてはいけないので、必然的に中小企業の支援策も変えなくてはいけなくなる。

 

◯人口減少・高齢化社会で支援するべき企業の条件

・日本はこれから何十年にもわたって、労働生産性の向上を果たさなくてはならない。そのためには、生産性向上につながる経営者の行動を最優先で後押しすべき。

・中小企業を一括りに支援するのではなく、国として応援するべき企業を選ぶべき

イノベーションを起こす企業

②最先端技術の普及に寄与する企業

ベンチャーに限らず成長している企業

④輸出をする企業

⑤研究開発に熱心な企業

⑥中堅企業

 これらの企業に共通する特徴は、良質な雇用を提供し、賃金水準が比較的高いこと。賃金水準の高い企業には、輸出も多く、研究開発も盛んな企業が多い。

 

◯規模ではなく「投資行動」で優遇する企業を選ぶべき

・研究開発に対する税優遇、生産性を上げるために欠かせない社員研修の優遇、設備投資の優遇など。単純に税率を下げるのではなく、投資することによって全負担を減らさせる政策。

・特に国の政策に沿った行動を手厚く優遇するのは効果的。ICT産業を育成したいのであれば、中小企業に限らず、技術を導入するすべての企業に補助金を出したり、投資した分だけ税を優遇したりするのが、最もふさわしい政策のあり方。

 

◯優遇策には「期限」を設けるべき

・日本で行われている中小企業の優遇策の多くには、設立してから何年といった期限が定められていない。企業設立から時間が経てば経つほど、成長しない確率も高くなるから、研究開発費の優遇以外の多くの政策は期限付きにすべき。中小企業というだけで、永遠に優遇を受けることができ、小さい企業にとっては、「成長しないほうがお得」になってしまっている。

 

◯規模拡大を促す政策には「環境づくり」と「個別企業支援」がある

・環境づくり

①資源調達の支援

インセンティブの喚起

③市場の整備

④インフラの整備

・個別企業支援

 

 本書では政策側へ問題提起がされていますが、企業側(特に経営者)はどう受け止め、どう行動すれば良いのか。なかなか解がないようにも思いますが、大切なことは付加価値をきちんと生み出し、顧客や取引先にとって欠かせない存在であり続けること。そのためには、本書にもあるように、イノベーションや研究開発など、環境に合わせて成長し続ける継続的な投資は欠かせないのだろうと思います。成長・開発にかかる経費は抑えれば短期的に利益が上がりますが、この投資ができるだけの利益は生み出し、人や技術に再投資していく必要があるのだと感じました。