教養を磨く(田坂広志)
『教養を磨く』(田坂広志)(◯)
心の師と仰ぐ田坂広志先生の最新刊です。本書は、75篇の随想をあえてテーマやジャンルごとに分類せずにまとめられた一冊。これまでに100冊以上の著書を出されていますが、その中に書かれているテーマもあれば、新たに書かれているテーマもあり、一つ一つの篇が自分を振り返り、内省のきっかけとなります。テーマやジャンルが次々と展開されるので、前から順に読んでいて思考が広がるイメージがあり、最後にたどり着いたときに考える視点が広がったようにも感じ、これがタイトルの教養を磨くことにつながっているのだろうと思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯はじめにより
・世の中で語られてきた「教養」とは概ね、書物を通じて学んだ様々な専門分野の該博な知識。
・真の「教養」とは読書と知識を通じて、「人間としての生き方」を学び、実践すること。
・書物を通じて学んだ様々な専門分野の、該博な知識に大きな3つの変化が訪れている。
①「該博な知識」に関する時代の変化
現代では「該博な知識」を持っていることの価値が大きく低下している。
②「書物を通じて」に関する時代の変化
映像や動画は、マルチメディアであるため、活字メディアに比べて、視聴覚に訴える迫力ある「擬似体験」や、強く印象に残る「仮想体験」ができる。
③「様々な専門分野」に関する時代の変化
現代においては、専門分野の難しい本を読まなくても、テレビの共用番組やドキュメンタリー映画、さらにはYouTubeの動画などを通じて、専門分野の学びができるようになっている。
・3つの変化がこれから「教養」の在り方に、「3つの深化」を求めるようになる
①「専門の知」から「生態系の知」への深化
②「言語の知」から「体験の知」への深化
③「理論の知」から「物語の知」への深化
・本書のスタイル
①著者の抱く様々な「深い問い」を中心に、様々な知識と叡智を縦横に結びつけ、それを「随想」(エッセイ)の形で語っている(生態系の知)。
②専門書だけでなく、映画や小説、ときに漫画の様々な場面を紹介し、その場面の「擬似体験」を通じて、読者に様々な学びと気づきを提供している(体験の知)。
③著者自身の体験やエピソードの紹介を通じて、「人間とは何か」「組織とは何か」「マネジメントとは何か」について、様々な形で洞察を語っている(物語の知)。
◯75篇より・・「褒める技術」の落とし穴
・褒める技術の落とし穴は、一言で言うと「操作主義」の落とし穴。
・「部下を自分の思うように動かしたい」という密やかな「操作主義」が忍び込む。
・部下を褒めるとき、「タイミング」や「ポイント」などを超え、最も大切なこと。それはどのような思いを抱いて褒めるか。我々が、「この一言で、この部下の中から素晴らしい可能性が開花してほしい。そして、この部下には、素晴らしい人生を拓いて欲しい」という「願い」を込めて語るならばその思いは「言霊」となって、部下の心に響くだろう。そして、その人生を拓く力となるだろう。
・「我々上司の一言に、その部下の人生が懸かっている」との覚悟。
→一篇だけをみても、ここから自分を振り返り、思い出し、内省することがたくさん出てきます。「褒める」という一見良い行動であってもそこに潜む操作主義という側面。普段、なかなか気づかないことも本書を読みながら考える。その時間にとても意味がある。速読では得られない価値が読書時間の中にはあると思います。
田坂先生の書籍は、毎回知性の深さを感じ、読み手が試されているようにも感じます。田坂先生の講演を聞かれた方であれば、本書を読んでも一語一語に込められている魂のメッセージのようなものを感じるのではないでしょうか。人格を磨くとは、本書のような書籍を読みながら自己を振り返り、また実践でもがくことの繰り返しなのだろうと思います。