『これから知識社会で何が起こるのか』(田坂広志)
2003年に発行された本書。当時は、ADSLが普及しブログが流行していた頃で、情報革命が個人の生活に影響を与え、ネット中心スタイルに変化してきた頃です。本書は、誰でも情報が取れる知識社会に移行していく中、これから世の中がどのように変わるかをまとめた一冊です。約20年経った現在だからこそ、その流れを確認でき、また先を見て次の時代に備える大切さを感じることができると思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯知識社会では単なる専門的な知識が価値を失う
・技術革新の速度が非常に速く、専門的な知識がすぐに陳腐化してしまう
・専門知識を誰でも手に入れることができる
◯職業的な智恵が価値を持つ
・経験から学ぶ智恵は、すぐに古くならない
・智恵の習得法は、「反省」と「感得」
・「反省」とは経験を振り返り、徹底的に追体験することによって、そこで学んだ智恵を可能な限り言葉にする方法
・「感得」とは、過去に単なる知識として学んだことが、ある経験に遭遇することによって智恵に昇華すること
◯知識管理を進めていくための4つの課題
①情報システムの導入
②業務プロセスの革新
③企業文化の変革
④マネジメント・スタイルの転換
◯情報システムの導入では、情報の3つのレベルを区別して考える
①データのレベル(言葉で表せて定型化できる情報)
②ナレッジのレベル(言葉で表せるが、定型化できない情報)
③ノウハウのレベル(言葉で表すことも、定型化もできない情報)
→付加価値の低い「データ」レベルの情報を付加価値の高い「ナレッジ」レベルの情報に高め、さらには最も付加価値の高い「ノウハウ」レベルの情報へと高めていくことが求められる。
◯組織的反省というプロセスが重要な業務プロセスになる
・反省という行為は、これまでの企業社会においては、多くの場合個人的な営みでしたが、これからの知識社会においては、それが組織的な営みになっていく。
・一つの業務を経験したときに、その経験から学んだことをできる限り言葉にして語り、それを客観的な知識として表現し、それらをナレッジ・ベースとして残していくという方法。
◯個人の成長を大切にする文化
・「学習する組織」がなかなか生まれてこないのは、企業中心の論理だから。
・「企業が競争に勝つため」「会社が生き残るため」の企業中心の論理ではなく、何よりも「学習する個人」が生まれてこないといけない。
・そもそもまず、仕事の経験から知識や智恵を学び続け、職業人として、人間として成長していくことを喜びとする「学習する個人」が生まれてこなければならない。
・そのためには、「個人の成長」を大切にする文化を育てること。
◯新しいマネジメントスタイルへの転換
・「知識の管理」から「知識の創発」へのスタイルの転換
→新たな知識が自然と生まれてくるプロセスをいかに作るか。
・「知識の共有」から「知識の共鳴」へのスタイルの変換
→企業や職場から行動が生まれてくるような「力」がなければならない。「力」の本質は言葉の力。これからの時代は世の中に膨大な情報や知識が溢れ、多くのメッセージが溢れてくる。そのような時代だからこそ、心に深い印象を与える言葉を語る力、短い言葉に気持ちを込められる力、長く記憶に残る言葉を発する力、そうした「言葉の力」が求められている。
情報が溢れる社会だからこそ、情報そのものの価値よりも、それを扱う個人や組織の考え方、文化、在り方といったものが問われる時代。それを約20年前に述べた本書ですが、現在考えてみると、まさにその流れ。情報そのものは知っているかどうかよりも、「必要な情報を見極める力」「その情報を活用するする力」、そして、「その情報を活用して組織や関わる人と何かを成し遂げていくコミュニケーション力」が問われる時代になっているように思います。