『孝経』(伊與田覺)(◯)
『孝経』は孔子が作ったものと言われていましたが、今では高弟の曾子の門人がまとめたという説が有力だそうです。経書として中国の歴代王朝において特に尊重され、日本にも『論語』についで早く伝来したそうです。「孝」という字は、「老」と「子」を組み合わせた文字で、親の立場から見ると子供を抱っこしている姿を現し、この立場から見ると親を背負っている姿。「孝」の精神でにより家も国も治っていく考え方が記された本書の解説講義です。2,500年以上の時代を超えて伝えられる内容には、本質・真理があると思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯優れた王は道を知り、それを行って徳に至った
・天のルールは「道」。地のルールは「理」。天道天地を合わせて「道理」という。
・「徳」の字の旁は「素直な心」、ぎょうにん偏は実践、行うこと。「道徳」といった場合は、知るだけでなく、行動が伴うもの。
・孝行というものは徳の根本になる。「本立ちて道生ず」(『論語』)(根本が定まって道が開ける)。
◯先祖を守ることも大切な孝行のひとつ
・先祖を思うということは自分を大切にすることにもつながる。自らも子孫にとって良き先祖となることが大切。
・地位が高くなったけれども、それに相応する行いが伴っていないために、せっかく得た地位を失う。そうすると宗廟を守ることができなくなる。「孝」というのは、生きた親に対するものだけではない。
◯「及ばざるを患うる者は、未だ之有らざるなり」
⇨孝行が及ばないと憂える者は非常に少ない
・孝行というものは、自分が孝行だと思ったときには不孝が芽生えている。「足らん、足らん」と思っているところに真の孝行がある。
◯体の中に天地が凝縮されている
・「孝」というのは昔からずっと今日まで変わらない一貫したものであり、人が生きていく道筋となるもの。
・自分が生まれてくるときには父母がいるわけですが、その父母にも父と母がいる。そういう風に考えると、2人が4人になり8人になるというように、次々と先祖へとつながっていく。
・だいたい一代は30年だから、20代は600年。600百年の昔まで遡ると、我々の先祖の総数はなん人くらいになるのかと言えば、100万をちょっと超す。さらに30代まで遡ったら、驚くなかれ10億を超す。
◯礼を忘れると国は廃れる
・「礼の和を以て貴しと為すは、先王の道も斯れを美と為す」
⇨礼を行うには、そこに和の心がなくてはならない。昔の優れた王様も和の心を麗しいことだとしている。
・「小大之に由れば、行われざる所あり」
⇨一から十まで、どんな時も和の心があればいいという訳ではない。すべて和で行おうとすると、和そのものが行われなくなってしまう。
・「和を知りて和するも、礼を以て之を節せざれば、亦行うべからざるなり」
⇨ずっと和でいくと和に流されてしまう。ゆえに、これを引き締めるために礼をもって節する。
・「礼」の根本をなすものが「敬」。よって敬が一番の中心になる。
◯立派な王様は「孝」によって国を治める
・「孝治」とは、孝道をもって天下を治めるという意味。
・会社で言えば、会長とか顧問とかいうようなのは一歩下がった立場にいて、地位は高いけれども実力は持っていない場合が多い。うっかりするとおろそかに扱いがちになるけれども、それに従前と変わらないように仕えるということ。
◯5つの点から親を大事にする
①「子曰く、孝子の親に事うるや、居には則ち其の敬を致し」
⇨親を敬って養わなければ犬や馬とどこが違うのか。和やかな中にも敬ということを忘れないように。
②「養いには則ち其の楽を致し」
⇨義務的に親を養うのではなく、心から楽しんで大切にすることが大事。
③「病には則ちその憂を致し」
⇨親が病気になれば、心から心配をして、何とか1日でも早く回復するように、あらん限りの力を尽くして接する。
④「喪には則ち其の哀しみを致し」
⇨亡くなれば葬式を丁寧にして、そして喪に服する。
⑤「祭には則ち其の厳を致す」
⇨亡くなった後、命日やいろいろな回忌は、きちっと礼に従ってお祀りをする。
◯孝行は心を伴うものでなくてはいけない
・孝行というものはこういうものであると定義づけたり、型にはめることには何も意味がない。臨機応変で親を喜ばせ、楽しませていくことが大切。これを逆にいうと、子の親に対する態度というものは、単なる表面的なものだけではいけない。親に代わって労働することも大切であるし、ご馳走をあげることも大切であるけれども、それだけでは本当の孝行とは言えない。心の問題だと孔子は言っている。
◯諌め方に工夫を凝らす
・何も親の言葉に一方的に従うだけが孝行というものじゃない。もし父母に間違ったことがある場合には、これを諌めることが大切。その諌め方が大切。
ポイントをうまく抜き出すのが難しい内容でしたが、本書で言わんとしていることは、生きていくうえでとても大切なことが書かれています。『論語』をはじめとした東洋哲学・中国古典に関心が向いたら、一度は読んでおきたい一冊でした。