『日本語が世界を平和にするこれだけの理由』(金谷武洋)
「読書のすすめ」のカリスマ店長ご推薦本。カナダで25年間日本語を教えてきた著者が、英語と日本語を比較した本書。①日本語と英語が様々な点で正反対であること、②母語である日本語を日本自身がよく分かっていないことを指摘し、日本語の本来の美しさを生かしたコミュニケーションと英語習得に役立てて欲しいと思いから書かれた、日本の中学生に向けた一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇日常表現
・「ありがとう」⇔「thank you」
日本語には話し手も聞き手も、人間が一人も出てこない。ありがとう⇒ありがたい⇒めったにない⇒「なかなかないことなのに、それをわざわざしてくださってありがとう」という意味に広がった。
英語は、誰かが何かをする言葉。日本語は何らかの状況である言葉。
・「おはよう」⇔「good morning」
おはよう⇒お+早く。まだ朝早いという状況に二人が心を震わせて、「こんなに早いんですねぇ」と心を合わせているのが「おはよう」という表現。二人はそこで「共感」している。大切なのは、時計を見て今何時かを相手に伝えることではなく、まだこんな時間なんですなと二人が心を合わせて共感すること。
「good morning」は、I wish you good morning。あなたにとってこの朝が良いものであるように祈るという積極的な行為。
日本語は共感の言葉、英語は自己主張と対立の言葉。
〇人名・地名
・カナダは駅名にやたら人名が多い。日本では人名が地名になることは珍しい。米国人の苗字のベスト10には場所や地名は一つもない。英語は「人名⇒地名」、日本語は「地名⇒人名」。
〇声と視線
・著者が留学時に一番注意されたのは「声」。日本人は英語を話す際に、舞台俳優かオペラ歌手になったつもりで、よほど意識的に努力して「頭のてっぺん」から出さないと英語話者のような「遠くへ届く声」を出せない。
・英語話者は日本人のように「静寂が基本的なマナーである」とはあまり考えない。
・日本人は相手の目を見つめることを失礼と思うようだが、相手の目を見て話さないと失礼と考える西洋人とは正反対。
・お辞儀で身体を折るのは自分を小さく見せる行為。西洋なら体を反らして大きく見せることと正反対。
・英語を話す人は「ほら、ここに私がいるんですよ」という自己主張を一生懸命にしているので、自然に声も大きくなるし、聴き手をまっすぐ見つめる。日本語という言葉そのものの中に、「自己主張にブレーキがかかるような仕組み」が潜んでいる。
〇日本語は盆栽、英語はクリスマスツリー
・日本語は根っこが大事。述語があるだけで立派な文。英語は一番てっぺんに輝く星である主語が大事。主語がなければ動詞の形が決まらず、それでは文が作れない。動詞が主語によって変わるなどということのない日本語では、主語はちっとも不可欠なものではない。日本語では、鉢(=述語)だけの文が最も自然。
・人称代名詞(Ⅰなど)や所有形容詞(Myなど)と呼ばれるものは、日本語に必要不可欠ではない。日本語においては、人称「代名詞」はむしろ人称「名詞」というべき。英語のように義務的に使われないのは、基本的に主語や目的語がいらないから。
〇日本語の10大特徴
①文法が簡単
②発音が簡単
③基本文は立った3つ(①動詞文、②形容詞文、③名詞文)
④日本語に主語はいらない
⑤動詞文は動詞で終わる
⑥形容詞はそれだけで文
⑦「は」が示す「主題」は相手と共感するもの
⑧日本語は人間より自然に注目する
⑨日本語は「て・に・を・は」が支えている
⑩外来語を柔軟に受け入れる
海外の学生が日本へ留学すると、静かな声で話をするようになり、攻撃的な性格が姿を消してしまうようです。日本の綺麗で便利で清潔な環境と親切でやさしい人との出会い、そして自己主張よりも共感を生む日本語文化が人を変えるようです。普段、日本語について考えることはまったくありませんでしたが、こうして外国語と比較すると自分たちの国の文化の特徴、そこで形作られる国民性などを感じることができます。コミュニケーションを考える上で、新たな気づきでした。