MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ひとりのメールが職場を変える(田坂広志)

『ひとりのメールが職場を変える』(田坂広志)

 本書は、1999年に出版された『こころのマネジメント』を改題し、加筆・修正され、2010年に出版されたものです。当時、メールの活用が社内でも始まった頃で、「ウィークリーメッセージ」という、メーリングリストを使った週一回の自由な内容のメールのやり取りの活用についてまとめられた一冊です。職場のコミュニケーションの一つということだけでなく、マネジメントのあり方や職場の複雑系の関係の理解など、ツールを超えた心の在り方を問われる内容で、今でも「心」の面にフォーカスして読むと、大切なことに気づけると思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯ウィークリー・メッセージとは

・メンバー全員が徒然なるままに思いを書き綴ったエッセイを毎週一通作成し、それを月曜日の朝、他のメンバー全員に電子メールに乗せて発信する。

 

◯読むときの心の姿勢

・「自省的なメッセージを書く」のではなく、「自省的にメッセージを読む」こと。

・まず「メンバーのメッセージから何かを学ばせてもらおう」という自省的で謙虚なこころの姿勢で、メンバーから届くメッセージの一つひとつを丹念に読むこと。

 

◯成長の場が生まれるとき

・メンバーの成長意欲を高めること。

・マネジャー自身が強い成長意欲を持ち、成長している職場においては、黙っていても、そこに「成長の場」とでも呼ぶべきものが生まれてくる。

 

◯「こころの苦しみ」と「精神の深み」

・安易な気持ちや姿勢で介入すべきではない。

・安易な介入は、かえってそのメンバーのこころの成長を妨げることがある。

・マネジャーのアドバイスが表層的なものに流れてしまうと、そのメンバーが本来見つめねばならない問題の深みから目を逸らせてしまう。その問題の解釈は、あくまでもそのメンバー自身の判断によってなされるべき。

 

◯メッセージから感じる直観

・毎週メンバー全員のウィークリー・メッセージを読み、メンバーのメッセージに深く耳を傾けているだけで、一人ひとりのメンバーの状況はもとより、職場全体の空気や雰囲気について、何かを感じることができる。

 

◯耳障りなメッセージの意味

・こうしたメンバーのメッセージこそが、職場の「文化」の変化を敏感にマネジャーに教えてくれている。

 

◯我がこころは石にあらず

・マネジャーは無意識に、職場や組織というものを「機械」のように見立ててしまう。生身の人間のこころが集まった職場や組織でさえ、その「性能」を高められると考えてしまう。悪いところを見つけ出し、その部分を修理し、改良することによって、その「性能」を高められると考えてしまう。

・「我がこころは石にあらず」「我がこころは機械にあらず」

・それは「問題分析→原因究明→原因除去→問題解決」と言った発想。病気になったとき、その病気の原因を究明し、その原因を手術などによって除去すれば、病気が治るという発想。

・しかし、「こころの生態系」とは、こうした西洋医学的な発想で対処すべきではない。それはむしろ東洋医学的な発想によって処すべきもの。すなわち、そもそも個別の問題が生まれているのは、全体のバランスが崩れているからであり、そのバランスを回復させれば、個別の問題は自ずと消滅するという東洋医学的な発想こそが求められている。言葉を換えると、問題の部分だけを治療するという西洋医学的な発想ではなく、あくまでも全体を治療させるという東洋医学的な発想を大切にすべき。

 

 発行から20年以上が経った今、「ウィークリー・メッセージ」という方法は、私の周りでは聞かないですが、その手段そのものよりも、SNSやチャットなどのメッセージのやり取りが会話のかなり多くを占める現在だからこそ、そのメッセージを通じて考える視点を本書から学ぶことができると思います。手段よりも、その背景にある考え方そのものにフォーカスすることで、時代を超えても学びが得られるのが読書の良いところだなと感じました。