『人間を磨く』(田坂広志)(〇)
『知性を磨く』、『人は、誰もが、「多重人格」』と並ぶ三部作。人間関係が好転する「こころの技法」をまとめた本書。非のない人間を目指して生きる視点ではなく、非も欠点もある未熟な自分を抱えて生きるという視点から、人間を磨くということの意味、そのための具体的な技法について語られています。心の持ち様について考えさせられる内省本として、お薦めの一冊です。
(印象に残ったところ‥本書より)
〇人間の成長は風船のごときもの
風船は膨らめば膨らむほど、外界と接する表面積が増えていくように、人間も成長すればするほど、人間として目指すべき高みが見えてきて、自分の未熟さを痛切に感じるようになる。
〇古典を通じて学ぶこと
登るべき「高き山の頂」(理想的人間像)だけではなく、その頂に向かってどのように歩んでいくか、その「山道の登り方」(具体的修行法)を学ぶべきであり、山道を登るときの「心の置き所」を学ぶべき。さらに、著者の示す「人間としての謙虚な姿」も深く学ぶべき。
〇人間力を高める3つの視点
①自分の中に「様々な人格」を育てる
②自分の心の中の「小さなエゴ」の動きを静かに見つめるもう一人の自分を育てる
③理想的人間像に向かう具体的修行法を身につける
〇人間関係が好転する7つの技法
①心の中で自分の非を求める(感謝はすべてを癒す)
人は非があり欠点があり未熟であるから周りの人が離れていくのではない。人は自分の非を認めず欠点を認めず、自分には非がない、欠点がないと思い込むとき、周りの人の心は離れていく。
②自分から声をかけ、目を合わせる
人間の心には、自分の過去や選択や行為を正当化しようとする傾向がある。他者不安の感情を抱くと、無意識に防衛本能が働き、自己防衛に向かい、その相手に対して、ますます批判的になり、ますます攻撃的になっていく傾向がある。これは、人間関係がこじれていく共通の心理プロセス。
③こころの中の「小さなエゴ」を見つめる
「自分は正しい」「自分は優れている」「自分は変わりたくない」という小さなエゴ。真の謙虚さとはまさに自分の非や欠点や未熟さを素直に認められるということであり、その非や欠点や未熟さを一つひとつ克服しながら成長していこうとする姿のこと。「千人の頭となる人物は、千人に頭を垂れることができなければならぬ」
④その相手を好きになろうと思う
一人の人物の性格は、それを見る立場と、置かれた状況によって、長所にもなれば欠点にもなる。「相手の姿は自分の心の鏡」。人間の心には自分の持つ嫌な面を持っている人を見ると、その人に対する嫌悪感が増幅される傾向があるように、「嫌いな人は実は自分に似ている」。逆に、「共感」とは相手の姿が自分の姿のように思えることである。
⑤言葉の怖さを知り、言葉の力を活かす
「人は嬉しいから笑うのではない。笑うから嬉しくなるのだ」という格言のように、「心が動く→身が動く」という性質だけでなく、「身が動く→心が動く」という性質も同時に存在する。嫌悪の言葉は嫌悪の感情を引き出し強化する。逆に交感の言葉は好感の感情を引き出し、強化する。
⑥別れても心の関係を絶やさない
「愛情」の反対語は「憎悪」ではなく「無関心」。愛情とは関係を絶やさぬこと。別れた後も「心の中」で、相手との関係を断たぬこと。
⑦その出会いの意味を深く考える
個の人生の出来事は自分に何を問うている試験か?その出会いは、自分にいかなる成長を求めているのか?
〇人間を磨き、人間力を高めるための道
人間を磨くとは、自分の心の中の「小さなエゴ」の動きが見えるようになること。「小さなエゴ」の動きが見えるようになると「心の鏡」に曇りがなくる。そうすると自分の姿、他人の姿、物事の姿が曇りなく見えるようになっていく。
「人間を磨く」とは、「心の鏡」を磨くことにほかならない。
今回も内省材料がたっぷりの深い内容でした。とりわけ、「相手の姿は自分の心の鏡」という言葉とその背景の解説は、普段の自分の言動、行動を省みるになりました。三部作、あらためて一から読みなおしたいと思います。