MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

乱読のセレンディピティ(外山滋比古)

『乱読のセレンディピティ』(外山滋比古)(〇)

 『思考の整理学』で有名なお茶の水大学名誉教授(1923年生)。本書は、「本はナメるようにじっくり丁寧に読むのがよい」とされていたこれまでの美学が揺らぎ始め、乱読という、雑ともとられる読み方が単に楽しいだけでなく、実は面白い発見もあり、知的刺激ということからすれば、これに勝る者は少ないということに気付いた著者が乱読のメリットに着目した一冊。私も乱読(多読?)派ですが、とても共感ポイントが多く納得感がありました。なかなか、本の数が読めないという方にも発見の多い内容だと思います。

 

(印象に残ったところ‥本書より)

〇本はやらない(買うべき)

 金を出して買うのが本筋。もらった本は面白くないもの。反発することが多い。感心するのは買った本。書いた人間の顔がチラホラするようでは本当の読書にならない。どんな優れた著者の本でも、近い人の心を揺さぶるのは難しい。

 本を選ぶのが意外に大きな意味を持っている。あるれるほどの本の中から何を求めて読むか。それを決めるのが大へんの知的活動になる。

 

〇悪本が良本を駆逐する?

 どんなに面白い文章でも学校の教科書に載ったら、おしまい。義務感がいけない。押し付けられているのがいけない。読む人間の出る幕が無くなる。

 

〇読書百編神話

 多くの本を読んでいれば、繰り返し読みたくなる本に巡りあうかもしれない。しかし、それは例外だと考えたほうがよい。本は読み捨てで構わない。本に執着するのは知的ではない。書物は心の糧。いくら栄養が高いといって、同じものばかり食べていれば失調を来たし、メタボリック症候群になる。健康な読者を望むならば、昔の貧しい時代の同じものを繰り返し読むという考えを修正、あるいは変更させなければならない。

 

〇風のごとく読む

 読む速度が遅すぎるのは、丁寧なのではなく、言葉に底流する意味の流れを止めてしまい、意味を殺して、分かりにくく、面白くないものにしてしまう、ということがわからないことが多い。やみくもに早いのはいけないが、のろのろしていては生きた意味をくみ取ることはおぼつかない。

 

〇乱読の意義

 読む側があらかじめ知識を持っているときの読みかた「アルファー読み」、内容・意味が分からない文章の読みかた「ベータ読み」。アルファー読みは基本的な読みかたではあるが、これだけではモノが読めるようになったとは言えない。読む者の知らないことが書いてあると、とたんにお手上げになる。

 アルファー読みから入ったのでは、いつまでたってもベータ読みができない。乱読ができるのはベータ読みの出来る人。アルファー読みだけでは乱読はできても解読はできない。小説ばかり読んでいては乱読はできない。乱読の手始めは新聞・雑誌。

 

セレンディピティ

 本を読むとき、2つの読み方がある。ひとつは、本に書いてあることをなるべく正しく理解する読みかた。100%分かったつもりの本も、実は本当に分かっているのは70~80%。後は自分の解釈で補填している。もう一つは乱読。乱読はよくわからないところが多い。本の内容がそのまま物理的に読者の頭の中へ入ることはまずない。

 乱読は読む者に科学的影響を与える。部分的に化学反応を起こして熱くなる。発見のチャンスがある。専門の本をいくら読んでも、知識はますけれども心を揺さぶられるような感動はまずない。それに対し、何気なく読んだ本に強く動かされるということもある。乱読は一般に良くないとされるが、乱読でなくては起こらないセレンディピティがあることを認めるのは新しい発想。

 

〇修辞的残像

 言葉には残像がある。乱読の良いところは速く読むこと。専門知識を得るための読書は知らず知らずのうちに遅読になりやすい。丁寧な読書では、残像に助けられる読みが困難である。一般に乱読は速読である。それを粗雑な読みのように考えるのは偏見である。ゆっくり読んでいては取り逃がすものを、風のよう速く読むものが、案外得るところが大きいということもあろう。乱読の効用である。

 

 知識系、小説はゆっくりと。ビジネス本やスキル本などは速く読む。こんなスタイルで過ごしていますが、著者の主張はまさにぴたりとはまりました。スピードから得るもの、失うもの。読書のヒントになりますね。

乱読のセレンディピティ (扶桑社文庫)

乱読のセレンディピティ (扶桑社文庫)

 

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