『セレンディピティ』(クリスチャン・ブッシュ)(◯)
予想外を最高の機会にする力。セレンディピティとは、「予想外の事態での積極的な判断がもたらした、思いがけない幸運な結果」のこと。
セレンディピティ・マインドセットを身につけると、他の人には断絶しか見えないところに橋が見えてくる。人生において幸運なサプライズが頻繁に起こるようになる。
本書は、セレンディピティが生まれるメカニズムを解明する科学的研究と事例をもとに、人生に幸運なサプライズが頻繁に起こるようにする理論的枠組みとトレーニングを提供する魅力的な一冊。
また、翻訳家の土方奈美さんは、私がビジネス・自己啓発系の翻訳家の中でも最も読みやすい文章を書かれる方と感じており、この方を追いかけて本を買うくらい信頼を置いています。
(印象に残ったところ・・本書より)※具体的手法は本書をご覧ください
◯セレンディピティを妨げる4つのバイアス
①予想外の要因の過小評価
私たちには、それぞれの「普通」(偏った視点)がある。このバイアスがあるために、「予想していたこと」ばかりが目に入るようになる。予想の範囲を広げられると、徐々に点と点の繋がりが見えてきて
②多数派への同調による自己規制
私たちは意見やアイデアを周囲と共有する場合でも、それが思いがけないところからもたらされた事実を打ち明けるのは躊躇する。重要な意見は大抵、初めから目的を持って合理的に導き出されたものに仕立て上げられる。波風を立てたり、厳密な立証プロセスを経ていないなどと批判を浴びたりするのを防ぐためだ。
③事後合理化:後知恵の功罪
予測と同じように計画(事業計画など)が成功の要因となることは滅多に無いことが研究で明らかになっている。
④機能的固定化
あるツールを日常的に使う人、あるいはそのツールが特定の方法で使われているのを見慣れている人は、それをまったく別の方法で使うのを想像するのに心理的ブロックがかかりやすい。「金槌を持っている人にはすべてが釘に見える」という格言のとおり。
◯リフレーミングで感度を高める
・リフレーミングとは、世界を見る枠組みを変えること。他人にはギャップにしか見えないところに橋が見えてくる。問題を別の角度から見れば、相手の立場ではなく本当の関心が見えてくる。
・世界はセレンディピティに溢れている(そう望めば)。誰かの話を聞くときは、その内容がわずかでも自分の、あるいは他の誰かの関心と重なっていないかを考える。他の人のアイデアと「競い合う」のではなく、それを発展させようとすれば、自分や周囲のために点と点をつなぐ能力が鍛えられる。
・ソクラテスの問い(6つの類型)
①明確化のための問い「なぜそんなことを言うのか」
②前提を探る問い「他にどんな前提がありうるのか」
③証拠を調べる問い「どんな事例があるのか」
④比較のための問い「優れている点、問題点は何か」
⑤影響を探る問い「この行動はどんな結果を引き起こすのか」
⑥問いそのものに対する問い「そもそもなぜこの問いをするのか」
・点と点がつながりやすい会話
1)会話の糸口として有効な方法は、自己紹介タイムに仕事上の肩書きではなく、現在の心境、ワクワクすること、今直面している課題について語ってもらうこと。
2)表面的事実を尋ねるのではなく、その背後にある理由、動機、課題などを尋ねる質問を選ぶこと
3)「なぜ?」はオープンエンドな問いの最たるもの。
◯自らセレンディピティを求めるには
・潜在的なトリガーを発見し、点と点を結びつけたいという思いがあるほど、セレンディピティは起こりやすい。大切なのは、他の人には欠落にしか見えないところに結びつきを見出すこと。それは何か有意義なものを見出したいという思いがあるほど容易になる。
・セレンディピティは、私たちが心をオープンにしたときに起こる。このため自分がどんな人間であるか、どんな人間になりたいのか、大切にしているものは何かといった自己認識と行動が合致していれば、セレンディピティは起こりやすくなる。
◯トリガーの種をまき、点をつなげる方法
・セレンディピティは単一の出来事ではなく、プロセス。プロセスを支えるのはトリダーを生み出し、発見し、点と点をつなぐ能力で、そうした努力によって偶然が幸運へと変わる。会話の中に釣り針を散りばめるなど、トリガーの種を撒く方法をたくさんある。
・セレンディピティをたくさん経験する人に共通するのは、ディナー、カンファレンス、ビジネス会議など、何かイベントに出ると必ずホストに自己紹介に行くこと。
・仕事上の立場ではなく、自分が何者なのか、本当は何に興味を持っているのかをベースにすると、人間関係の質が変わってくる。
◯好ましい偶然を好ましい結果に変える方法
・セレンディピティは必ずしも特定のタイミングで発生する単一の出来事とは限らない。その恩恵を享受するためには、粘り強さ、レジリエンス、そして自らの置かれた状況に価値を見出し、選別する能力が必要。
・点と点のつながりが成果に結びつかないと気づいた時には見切りをつける力、逆にモノになりそうだと感じた時には諦めず、粘り強く取り組む力を身につける必要がある。さらにはこのようなバランスの良い判断を下せるように、自己距離化のスキルを身につけたい。
・グリッド(粘り強さと、特定の目標あるいは状態を達成することへの情熱の組み合わせ)、強靭な意志は、セレンディピティの根幹を成す。
◯優れたコミュニティの偉大な力
・優れたコミュニティは、セレンディピティをわずかに(直線的に)増やすのではなく、べき乗則にのっとって大幅に(指数関数的に)増やす。そのための基礎を据えるには、まずコミュニティがどれだけ優れた機能を発揮しうるかを理解すれば、コミュニティを上手に活用できるようになる。キュレーションがしっかりしているコミュニティは、セレンディピティ体験の質に劇的な変化と改善をもたらしてくれる。
◯人的ネットワークとセレンディピティ
・セレンディピティの複利効果は資産の複利効果と同じで、ベースレベルが高いほど加速度的に膨らんでいく。ただ出発点のベースレベルが低い人でも、自分がどのような人や集団と繋がるべきか意識を高めることはできる。まずは自分が既に持っている社会資本を認識するところから始めよう。おもしろいことに、社会資本は使っても減らないどころか、むしろ使うほど増えていく。そして身の回りのマルチプレイヤーと繋がっていこう。規模の大きな共通の目的で結ばれたコミュニティに参加し、そこから得られる代理的信頼を活かしてみよう。
◯組織のセレンディピティを高めるには
・個人もチームもセレンディピティをもっと頻繁に経験し、より良い成果を手に入れるためには、キャリアの中でも予想外や普通で無いことを安心して自由に追求すること、それを正当な権利として認められることが必要。組織では、完璧な答えは誰も知らないという事実を伝えて心理的に安全な環境を作り、改善点を積極的に提言するよう求めることが第一歩。そうすればメンバーは思いがけない出会いに意識的になり、敏感になる。また、閃いたアイデアを共有することを自己規制しないようになる。