MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

ニコマコス倫理学(上)(アリストテレス)

『ニコマコス倫理学(上)』(アリストテレス)(◯)

  本書は、古代ギリシアの哲学者であり、万物の祖と言われるアリストテレス(紀元前384〜322年)が善・幸福・徳を中心に様々な人間の感情・行動について論じた一冊。ちょっと難しい印象でしたが、言わんとすることろをじっくり読み解いていくことで、思考が動かされ、学び・内省としてとても深い一冊でした。今も昔も変わらない人間の本質を考えることは、古典ならではの良さがあり、時間が掛かってもチャレンジする意味があるなと感じました。

 

【本書の学び】

①活動の目的は「善」。善のうち最上のものは幸福。最も有力で全体を捉えている活動は政治。つまり、政治は善、すなわち幸福を求めるもの。

②徳は、情念でも、能力でもなく、状態。その状態は、過超でも不足でもなく、「中庸」を目指すもの。

③知性的卓越性(徳)は、発生も成長も経験と歳月を要するので、習慣づけに基づいて発生する。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯善

・いかなる技術、いかなる研究も、いかなる実践や選択も、何らかの善を希求している。活動それ自体が目的である場合もあれば、活動以外の何かの成果が目的である場合もある。

・究極的な善は、自足的。

・善は三様に分かれる。①外的な善、②魂に関する善、③身体に関する善。

 

◯行動の目的

・最も有力な最も棟梁的位置付けにあるものが政治。政治の究極目的は、「人間といううものの善」。他のもろもろの学問の目的を包括している。

・我々の達成しうるあらゆる善のうち最上のものは幸福。よくやっている、よく生きているということ。

 

◯幸福

・常にそれ自身として望ましく、他のもののゆえに望ましくあることのないようなものを「無条件に究極的である」という。かかる性質を多分に持つと考えられるのは幸福。

 

◯徳

・徳とは一種の無情念、無受動、寂静である。

・魂において生まれるところのものとして、情念、能力、状態の3つが区分できるのであってみれば、徳はこのうちのいずれかでなくてはならない。徳とは、情念でも能力でもなく、「状態」である。

・情念とは、欲情・憤怒・恐怖・平然・嫉視・愛・嫌悪・憧憬・意地・憐憫・その他総じて快楽または苦痛を伴うところのものの謂いである。

・能力とは、それがあることによって我々がこれらの情念を感受しうるところのもの。

・状態というのは、それに即して我々が情念への関係においてよくまたはあしく振る舞うところのもの。

・徳とは、なんらかの中庸というべきもの。

・情念や行為において一つの悪徳はしかるべき程度に比して不足したの悪徳はそれを過超しているのに対して、徳は中を発見しそれを選ぶ。

 

◯正しい行為

・人は正しい行為を行うことによって正しい人となり、節制的な行為を行うことによって節制的な人となるということは妥当である。かかる行為をなさないでいては、誰しも善き人たるべきいかなる機会をも持たないであろう。

・しかし、実際はかかる行為をなさないで言論に逃避し、自分は哲学をしているのであり、それによって善き人となるであろうと考えている人々が多いのであって、彼らのかかるやり方は、いわば注意して医者の言葉を傾聴しながら少しもその命令を守らない病人に似ている。

 

◯徳の中庸

・恐怖と平然に関しては、勇敢がその中庸。度を超えると無謀な人、不足していると怯懦な人。

・快楽と苦痛に関しては、節制が中庸。過超は放埓、不足は無感覚な人々。

・財貨の贈与ならびに取得に関しては、中庸は寛厚、過超は放漫、不足はけち。

・財貨については、他に、中庸は豪華、過超は派手とか粗大、不足はこまかさ。

・名誉と不名誉に関しては、中庸は矜持、過超は倨傲、不足は卑屈。

・怒りについては、中庸は穏和、過超はおこりんぼ、不足は意気地なし。

・真については、中庸は真実、過超は虚飾、不足は卑下。

・快に関しては、中庸は機知、過超は道化、不足は野暮。

・人生のその他の快については、中庸は親愛、過超は機嫌取り、不足は佞人。

 

◯無識

・すべて悪しき人は、何をなすべきか、何をなすべきでないかを識らない人なのであり、こうした過ちのゆえに人々は不正な人となり、総じて悪しき人となる。

 

  一つ一つの事象について、詰めて考えて論じてすべてを出し切ろうとするところに、万物の祖と言われる所以を感じることができました。今から2300年も昔によくこれだけのことが論じられ、そして文献として残っているもんだなぁと関心してしまいます。 

アリストテレス ニコマコス倫理学(上) (ワイド版岩波文庫)
 

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