サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ(正垣泰彦)
『サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ』(正垣泰彦)(◯)
本書は、サイゼリヤの創業者である著者による飲食チェーン経営に対する考え方をまとめた一冊です。なぜあれだけ低価格で満足度の高い商品が提供できるのか、サイゼリヤ経営の裏側か垣間見れて、経営ノウハウとしても、また経営者のあり方について学びの大きい一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯タイトルの「おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ」について
・目の前の現実を謙虚に受け入れて、本当にお客様が満足されることは何かを見極めようという著者の思いが込められている。
・「自分の店の料理はうまい」と思ってはいけない。「自分の店の料理はうまい」と思ってしまうと、「売れないのはお客が悪い、景気が悪い」と考えるしか無くなってしまう。
◯給料を削ってでも核商品を作れ
・経営者は日頃から、売上が減っても利益が出る店を目指すべきで、売上が減って利益が出ないから困るというのは、今まで無駄なことをたくさんしていたというのに等しい。
・一番効果があるのは、何かを改善しようと考えるのではなく、今までやっていたことをやめること。
・絞り込んでメニューを提供すると食材ロスが減り、作業効率も良くなる。無駄を省くので、利益もドンドン出る。そうなってきたら、利益の一部はお客様に還元すべきだから値下げする。すると、さらにお客様に喜ばれて、来客数も増える。
◯お客様に安心感を与える値付けとは
・「パスタ」「ピザ」「ドリア」などの料理のカテゴリー(品種)ごとに一番安い料理の価格と一番高い料理の価格の差を2倍以内に収める。
・消費者がストレスを感じずに払える金額は朝昼夜で異なる。比率は、朝昼夜の順で1:2:4。普通の昼食に500円使う人は、夕食は1,000円まで、朝食は250円までならストレスを感じずにお金を払える傾向にある。
◯品揃えは3タイプを意識せよ
①ほっといても売れる商品
②店が売りたい商品
③売れないけど、ないと困る商品
◯マクドナルドは気づきの宝庫
・チェーン店を視察する場合、その店数は自社の10倍より100倍、100倍より1000倍と多ければ多いほど望ましい。長い年月をかけて改善と標準化を進め、その店のお客様にとって「これが大事」というものだけが残っているはずだから。
・実際に店を視察するときは、「商品」「設備」「作業」「立地」の4分野について、それぞれ100項目ずつ書き出していくことをお勧めする。
・次に、記した項目について、なぜその店はそうしているのか、なぜ自分の店と違うのかを考えること。大切なの話し合うことで、個人店の経営者なら、奥さんや家族と一緒に店に行くべきだ。役割を分担して店を観察し、お互いに結果を報告して「仮説」を一緒に考える。
・一度、何百項目も書き出した店には定期的に訪ねることも重要。2回目の視察からは、前回の訪問と違う部分だけを書き出せばいい。その微妙な変化にこそ、大きなトレンドをつかむヒントがある。
◯最も大切な指標「人時生産性」
・適正な利益を確保するという意味で、私が創業時から重視する経営指標が「人時生産性」。
・人時生産性=1日の粗利額÷従業員の1日の総労働時間。
・飲食店なら人時生産性は、1時間あたり2,000円〜3,000円というのが標準なはず。サイゼリヤの場合、6,000円を目標にしている。
・生産性の高い店と低い店を比較し、生産性の高い店で行なっている良い部分を真似て、生産性が低い店の無駄な点を減らす。
◯儲かる店を作る財務の大原則
・新規出店や改装など何らかの設備投資を行うときの判断基準として大切なのは、ROI(等貸本利益率)。
・投下資本利益率=(利益÷投下資本)×100
・サイゼリヤで新規出店の判断をするときは、ROIの予測が30%に達するかどうかを基準にしている。少なくとも20%は絶対に確保しなくてはならないと思っている。世界の主要国の銀行預金金利で一番高い金利は歴史的に見て約7%。諸々の手間やリスクを考えるとその3倍を稼げないくらいなら、高金利国の銀行に預金したほうがマシだから。
・ROIの目標値を達成するために重要なのが無駄な投資はせず、設備投資の額(投下資本)を可能な限り減らすこと。内装や厨房機器、保証金など新規出店のコストはその気になれば半分にできるケースは多いと思う。同じく抑えなければならないのは、家賃。
◯立地
・立地で注意しなければならないのは、商圏内に見込み客がいるかどうか。チェック方法は簡単で、業種を問わず、自店が狙う価格帯で繁盛している店が商圏内にあるかどうかでわかる。
◯仕入れ価格より品質を重視せよ
・料理の味の良し悪しは80%が食材で決まる。料理人の技量とその他の要因は残りの20%に過ぎない。品質の良い食材を安定して調達するには、良い仕入先を選ばなければならない。これはいたってシンプルで、繁盛店に卸しているところから仕入れるようにすること。近隣の繁盛店に出かけ、料理を食べてみて、その食材をどこから仕入ているか店主に教えてもらうといい。
◯経営計画を作る目的は責任者をはっきりさせること
・数値目標は「達成できたらいいな」という願望の額ではなく、「絶対に達成しなければならない」最低限クリアできるはずの額にすべき。
・具体的な数値目標を担当者たちに割り当て、責任を持たせる。この責任を持たせるという部分が大切で、逆に環境や運次第で変わってしまうような、責任を持てない部分について数値目標を定めるのは意味がない。
◯値下げの限界点を見極めよ
・お値打ち感を最も左右するのはやはり価格。料理のプロではない消費者に料理人のこだわりを理解していただき、その価値を認めてもらうのはなかなか難しい。
・意味のない値下げもある。商品の価格を下げていくと、ある一定の価格水準までは注文数が増えるが、それ以上は値下げをしても注文数が伸びなくなるから。そこがお得感を打ち出して注文数を伸ばす最適な価格で、その価格を下回る水準への値下げは単に利益を減らすだけ。
◯失敗からしか学べない
・成功体験から学ぼうとする人がいるが、成功とはほとんどの場合、”まぐれ”みたいなものなので、そこから何かを学ぶのは不可能に近い。失敗を繰り返し、その経験から学んでこそ、成功に近づける。
・問題点を正しく把握するには、何々が問題だと考えるのではなく、なぜ自分はそれを問題だと感じるのかと考える習慣をつけることだ。
◯能力を左右するのは経験
・社員の仕事上の能力を左右するのは、知識が2割、経験が7割、経営哲学の理解が1割といったところだと思っている。つまり、能力を一番左右するのは、経験を積ませたかどうか、だ。
サイゼリヤの安くて美味しいサービスの裏側には、何を大切にして経営するかという方針が効いていることが、本書を読むとよく伝わってきます。その方針をぶらさずにやり続けるところに、サイゼリヤの強さを感じる一冊でした。
サイゼリヤ おいしいから売れるのではない 売れているのがおいしい料理だ (日経ビジネス人文庫)
- 作者: 正垣泰彦
- 出版社/メーカー: 日本経済新聞出版社
- 発売日: 2016/08/02
- メディア: 文庫
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