『スティーブ・ジョブズI』(ウォルター・アイザックソン)(◯)
ようやく読みました。読み応えあります。2004年に著者がスティーブ・ジョブズから「伝記を書いて欲しい」という依頼を受けたことに始まる本書。生い立ちから最期まで。2冊で約900ページにもなる詳細にジョブズの歴史を描いた濃い内容です。周りの方の証言も多数あり、どんな性格だったか、どんな仕事ぶりだったか、どんな生活だったか。ジョブズのいろんな側面が見えてくる一冊です。第1巻は生い立ち〜アップル創業〜アップル追放〜ピクサー買収・経営まで。スティーブ・ジョブズの生涯を知るというだけでなく、右左脳タイプの共同経営の課題も見えてくる経営視点でもおもしろい内容でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯養子
・実母は「大卒の家庭」という条件をつけた。当初は弁護士の一家に引き取られることになっていたが、1955年2月24日に男の子が生まれると、女の子がいいと断られてしまう。その代わりに機械に情熱を傾ける高校中退の父と会計事務所の仕事に就く真面目な母の息子となることになった。
・ジョブズは、自分が養子だと小さい頃から知っていた。そのことについて両親はとてもオープンだった。
・捨てられた。選ばれた。特別。このような観念はジョブズの血肉となり、自分自身の捉え方に大きな影響を与えた。生まれた時に見限られたという思いは、傷となって残っている。
・「何かを作るとき、すべてをコントロールしようとするのは彼の個性そのもので『生まれた時に捨てられた』という事実からくるものだと思う。環境をコントロールしたいと考えるし、製品は自分の延長だと感じているようだ」
◯父親
・戸棚や柵を作るときは、見えない裏側までしっかり作らなければならないと教えられた。「きちんとするのが大好きな人だった。見えない部品にさえ、ちゃんと気を配っていたんだ」。
・父親はすでに小3の頃すでにジョブズを特別な子供だと考えており、学校にも同じように考えることを求めた。「この子が悪いわけではないでしょう。授業をおもしろいと思えないのは、先生方の問題です」。学校で悪さをしたからと家で怒られた記憶はないとジョブズはいう。
◯学校生活
・ハイスクールの後半2年間で知的に大きく成長し、自分はエレクトロニクスが大好きなギークであると同時に、文字やクリエイティブなことが好きな人間らしいと思うようになった。
・権威に対する反感を隠そうともしなくなっており、一風変わった激しい言動と超然とした反体制的な振る舞いが増えていた。
・「スティーブは禅と深く関わり、大きな影響を受けている。ギリギリまで削ぎ落としてミニマリスト的な美を追求するのも、激しく絞り込んで行く集中力も、皆、禅からくるものなのです」
・「抽象的思考や論理的分析よりも直感的な理解や意識の方が重要だと、この頃に気づいたんだ」
・「彼はいつも裸足だった。印象的だったのはその激しさだ。何かに興味を持つとありえないレベルまで追求することが多かった」。その頃のジョブズは、視線と沈黙で他人を従える術をマスターしていた。
・「スティーブは探究心が魅力の男でした」
・「中退すれば面白くない必修など取る必要は無くなります。ですから、面白そうなクラスだけのぞくことにしました」
◯アップル社
・「果食主義を実践していたし、リンゴ農園から帰ってきたところだったし、元気良くて楽しそうな名前だし、怖い感じがないのも良かった。アップルなら、コンピュータの語感が少し柔らかくなる。電話帳でアタリよりも前に来るのも良かった。
・年上からアドバイスされると、ジョブズは反発するか、さらにアドバイスを求めるかの両極端に走ることが多い。
・ジョブズは、マーケティングやイメージ、ときにはパッケージの細かな点に至るまで注意を払うようになり、その姿勢は強迫的だと言われるほどになる。
・りんごをモチーフとしたロゴ。一つは完全なりんご、もう一つは一口かじった形だった。かじられていない方はさくらんぼに見えたりするからと、ジョブズはかじられた方のりんごを選んだ。
◯言動行動
・高飛車で怒りっぽいままだった。「専横が次第にひどくなり、周囲の人間を酷評するようになった『クソみたいなデザインだな』などと平気で言うのです」。
・「部屋に入ってくるなり、私がやっていることをさっと見て、そんなのくだらないって言うんです。どう言う作業をしているのかも、なぜそうしているのかも知らないのに」
・ジョブズはまだ、絶対菜食主義ならデオドラントも不要だし定期的にシャワーを浴びる必要もないと信じていた。
・便器に足を突っ込んで水を流すと言う、ジョブズ独特のストレス解消方法も、周りにっては心が休まらなかった。
・アップルIIのケースも問題になった。アップルがプラスチックの色を発注していたバントン社には、ベージュだけで2,000種類もの色味が用意されていた。「そのどれもよくないとスティーブは言うんですよ。別の色を作らせると言うから、止めに入らざるを得ませんでした」
・ケースの設計変更をした時も、ジョブズは、角の丸みだけで何日も費やしたらしい。
・作業台も問題になった。スコットは一般的なグレーでいいと思ったが、ジョブズは特注で真っ白にしろと譲らなかった。
・スティーブの下で働くのは大変でした。神かくそったれか両極端ですからね。
・「温めていたアイデアを話して大馬鹿野郎と言われたのに、翌週『すごくいいことを思いついたぞ!』と私のアイデアを教えに来てくれたりするんです。『先週私がお話ししたことですが』といっても『うんうん。とにかく進めてくれ』で終わりです」
・「他人の弱点をピンポイントで把握できるのがあの人のすごいところです。どうすればかなわないと思わせられるのか、どうすれば相手がすくむのかがわかってしまうのです。これはカリスマ性があり、他人の操作方法を心得ている人に共通する資質だと思います」
・製品開発の常識に反しているが、ジョブズは顧客が正しいとは考えていない。マウスを使いたがらない人は間違っていると考える。顧客の要求を満たすよりも偉大な製品を作ることを優先する姿勢が表れている。
印象的な部分が多すぎてともて拾いきれませんが、これだけ気性の変化が激しくて、下で働くのは大変だろうなぁと想像しつつ、魅了されてついていく人が多い。ものづくりをする人の心をつかむ一方で、経営的感覚のある人とはぶつかる。まさに右左脳経営の衝突ポイントが現れていて、人物伝としても経営本としても読み入ってしまうおもしろさがあります。