MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

人間の達人 本田宗一郎(伊丹敬之)

『人間の達人 本田宗一郎』(伊丹敬之)(◯)

 本書は、評価の高い名著です。本田宗一郎さんという名経営者の魅力を一橋大学名誉教授の著者がまとめられた一冊で、本田宗一郎さんの言葉も著者のまとめ方も素晴らしい内容です。昭和の名経営者の人間的魅力は、当時の日本経済を牽引する象徴的な存在であったと思います、経営者や経営リーダーがどういう存在であるべきかの一つのモデルとしてとても学びになる内容でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯人の心に棲む

・宗一郎は他人の心理を読み分ける能力が優れていた。その心理を読むコツを、宗一郎は「人の心に棲んでみる」と表現したことがある。単に他人の心理を外部者として考えるというより、相手の心に棲んでみる。自分をの立場に置いてみる。しかも、「棲む」というのだから、一瞬の話ではなく、どっぷりとつかる。

・「人を動かすことのできる人は、他人の気持ちになることのできる人である。・・そのかわり、他人の気持ちになれる人というのは自分が悩む自分が悩まない人は、他人を動かすことができない」(本田宗一郎

 

◯ものさしの真ん中はどこか?

・「一尺(=十寸)のものさしで・・片一方から四寸、片一方から四寸いって、二寸の間をおいたところが真ん中だ」(本田宗一郎

・物差しの真ん中を目指して二つの反対の方向から進む人がいるように、人には色々な見方があり、立場がある。それを最初から「真ん中は五寸の一点」と決めつけてしまっては、色々な人の中で立場を失う人が出てくるその調整が肝心で、そのためには二寸もの真ん中の部分を想定して、その幅の中で落とし所を決める。

 

◯人間理解のリアリスト

・人間という生き物への洞察が深かった。宗一郎は、人間がついつい取ってしまう行動への想像力、洞察力が極めて優れていたのである。たとえば、宗一郎は現役社長の頃に役員会に出席することは稀だったそうだが、その理由は、部下の役員たちが出席した自分の意に沿うような発言ばかりをする危険が大きいから、ということであった。別にとくに宗一郎におもねるというのではない。ついついそうなるのが普通の人間だと。

・「私と藤沢(盟友の副社長)ぐらいな権限を持っている人が役員会に出ちゃ、会社は潰れると思うな。その人が今度は何を言うか、どう思ってるかっていうことを、はじめっから研究してかかってきて、その通りにちゃんと美味しいものをご馳走して、しゃべるもの」(本田宗一郎

 

◯失敗

・失敗から残るものの第一は、失敗したアイデアは論理が成立しなかったと言う事実そのものである。だからその論理はもう試す必要がなくなる。失敗はまた、反省を促す。その反省から得る教訓や経験値も意義が大きい。それが失敗の第二の意義である。

・「試して失敗して、「俺はどうして失敗したんだろう・・」と言うことで考え、その理由に気づいたときが一番身にしみるんだ。・・・失敗するのが怖いんだったら、仕事をしないのが一番だ」(本田宗一郎

 

◯「やっても見せんで、何がわかる」

・「この手で、この身体で物をつくり、身体で考えることによって新しい論理が開けてゆく」(本田宗一郎

・既存の論理についての知識が豊富な人は、ついつい既存の論理に頼りがちなる。あるいは、新しい試みが失敗するだろうと言う論理ばかりを既存の枠組みの中でつくるようになる。だから、試みなくていい、と自己弁護をするのである。それではダメだ、と宗一郎は「手をまず動かして試してみること」を強調する。だから「やっても見せんで、何がわかる」となる。

 

 とにかく実行の人、明るく勢いのある人、豪快な人・・・事前のイメージはいろいろありましたが、とても論理的である人というのが印象的でした。論理と情の両方を兼ね備え、実行と実行からの学びを大切にされた方だなと思います。やはり経営者は、表向きの姿・印象だけではなく、逆の面もきっちりとあり、そのバランスが絶妙で、そして人や組織を動かすときの表現に個性が溢れているのだなと感じました。