MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

性霊集(空海)

『性霊集』(空海

 本書は、空海が人生の折々に著作した朝廷への願文、碑文、歎徳文、書簡などを弟子の真斉が写し取り十巻に編纂したものであり、空海のプロフィール的な存在です。この中から30篇を厳選し、書き下し文と平易な口語訳、解説で紹介されています。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

密教僧恵果和尚について記した碑文より

・世間一般で貴ばれる徳目は五常(仁・義・礼・智・信)であり、仏教徒として重んぜられる価値といえば三明(宿住智証明・死生智証明・漏尽智証明という3つの悟り)であります。また忠とか孝の心が厚い人々は、その名声を黄金の板に彫って後世に伝えます。したがって、その徳が極めて高いこのお方の行績を彫んで石室に収め永く顕彰することが必要であります。

・試みに申しますが、正しい教えは不滅であり、その教えを不滅にするのは人なのです。では一体どのお方が、正しい教えを覚られたと言うのでしょう。

・そのお方こそ、長安青竜寺・東塔院に住まわれた大先生、ご法名、恵果和尚その人なのです。阿闍梨様は仏法の興隆のために出家されましたが、お生まれは昭応と言う地の馬氏のご出身であります。清らかな精気を備えられておりましたが、さらに神霊によって精神を陶冶されました。お生まれから賢者となる素質を備えておられた方であります。(以下略)

 

◯小僧都を辞する上表文より

・腕の良い大工というものは、材木を用いる場合、用材を無理に形を変えることなく用いて家を建てると申します(曲がった木は曲がった木なりに、まっすぐの木はまっすぐの木なりに用いる)。それと同様に賢明なる天子様は役人を使う際に、その人間の性質を無理に変えずに、それぞれの性格を生かしながら働かせるのです。そうすれば、家を建てる際もそれぞれの用材が生かされて損害がなく、官吏の場合も賢人も愚人もそれぞれ特色を出して良い結果を生むと申します。そうなりますと、名工の評価はますます高くなり、役人ならば良い役人だと一層讃えられるでありましょう。(以下略)

 

長安から越州に向かう際に節度使に宛てた書簡より

・伏してお願い申し上げますが、仏陀衆生を救済せよとの遺命をお考えくださって、そのために遠い国からやって参りました私を憐れみくださって、儒教道教・仏教の経・律・論・それらの注釈書・人物の伝記、あるいは詩・賦・碑・銘・卜(占星術)・医学書・五明(声明:文法学、工巧明:工学、医方明:医学、因明:論理学、内明:仏教学)に関するもので、人々の心を進め、人々を救済する役に立つものなんでも結構ですから日本に持ち帰らせていただきたいのです。このことは立派な人間が考えることで、至らぬ人では考えの及ばないことです。もしこの願いを叶えてくださるならば、大きな功績と優れた名声は私の肌身に刻んで忘れず、その山より高く、海より深いご恩には身を粉にしても報いたいと存じます。そしてその結果、第一に閣下の善業はこれに過ぎるものがなくなり、第二に迷い苦しんでいる人々にとっての素晴らしい指南となりましょう。(以下略)

 

真言密教の体系を示した文より

・もし自分の心の奥底がわかれば、御仏のお心もわかります。仏神を知ることは衆生の心を知ることです。我心・仏心・衆生心この三心は同一なりと知れば、その人は大覚(大日如来)と呼ばれるのです。大日如来になりたいと思えば、仏陀のお悟りの内容を学ばなくてはなりません。

・悟りの内容の教えとは十万頌の金剛頂経および同じく十万頌の大日経のことです。これらの経は浄妙なる法身大日如来がご自分の眷属(一族の尊)とともに法身の秘密心殿の中で常に演説したまえる自受法楽(自らを楽しませる)の教えなのです。

・このゆえに『金剛頂経』に次のように言われます。自受法楽の故にこの理趣(内容、おもむき)を説く、これは応身仏や化身仏の教えとは違うのであると。また龍猛菩薩は『菩提心論』の中で、仏陀の悟りの内容は、密教以外の経典には絶対に説かれてはいない、と。

・これを要するに、密教の経典だけにのみこうした教えが説かれてあるということで、それ以外の顕教の経典には説かれていないのです。法身大日如来から金剛薩埵・龍猛・龍智・金剛智、そして不空三蔵まで六代相承され、仏法の奥深い深妙な教えはここにあるのです。(以下略)

 

 文章や言葉を通じて、当時どのようなことが語られていたのかを垣間見ることができ、イメージが湧きやすくなります。空海の著書の中では、最初に読む一冊ではありませんが、「どんな人だったんだろう?」っていう興味が湧き始めた時に読むと良い一冊でした。

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