『訳注 即身成仏儀』(松長有慶)
高野山大学のレポート作成の際にかなりお世話になった参考書籍です。即身成仏という真言密教の基本思想が説かれた空海の著書を、高野山生まれ、高野山大学卒業、高野山大学学長という、まさに高野山、空海の教えの伝道師である著者による解説は、他の同じような書籍と比べてもとてもわかりやすい一冊でした。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯生み出すものと生み出されるものの一体性
・空海は、『即身成仏義』において、「六大は無碍にして常に瑜伽なり」と言っている。
・これは、われわれが住む俗なる世界も、仏がいる聖なる世界も、同じように地、水、火、風、空の五大と名付けられる物質的な側面と、識大としての精神的な側面を合わせた六大からなり、それらは互いに融合し一体化している。
・聖も俗も同じく、物質と精神の両面が融合し、主客の一体化した六大よりなるから、六大から現実世界が生み出されるといっても、生み出すものの、生み出されるものも、本来は同一体である。
・そこには、聖と俗、仏と人間、色と心、人と自然といった対立関係はない。人が長い年月をかけて仏に成るのではない。人と仏は本来的に一であるから、ものごとの本質を見極める眼を持てば、現実に生きる人や動植物は、そのまま仏に他ならない。
◯六大から万物を生み出す。
・六大があらゆるものを生み出すという点について、次のように示されている(『大日経』巻六の秘密曼荼羅品より)。
「真言行者は瞑想に入り、自己の体に円壇すなわち曼荼羅を布置せよ。足から臍に至るまでを、大金剛輪たる地大とし、そこから心臓のところまでに水輪を想え、その水輪の上、喉までのところに火輪があり、その火輪の上、頂までのところに風輪がある、(と観想せよ)」
・金剛輪とは本来不生である阿字のこと。阿字はあらゆるものの拠り所となる地大に相当する。水火風それぞれの輪については、言葉どおりに受け取るべきである。「円壇」とは空大のことで「真言者」とは心大、つまり識大のことを言っている。
・また、『即身成仏儀』には、聖俗一体、物心一如となり融合する宇宙が、現実世界には、四種の曼荼羅として象徴的に顕在し、それに到達するために、身体では手に印契を結び、口に真言を唱え、心を一点に集中する瑜伽の行を実践することによって、即時、即身に成仏が可能であると、自らの宗教体験に基づいて述べられている。
・この身体と言語と行動の三種の働きは、仏であっても、人間をはじめとする生きとし生けるものであっても、現実にはそれぞれ別個の存在のように見えるが、本来は一体化したものであって、互いに融合していることを意味している。これは「三密加持」と呼ばれる。加持とは行者と仏との入我我入、つまり観法における一体化を指している。
空海の著書は、そもそも原文が難しくちょっとやそっとじゃ理解できないので、どうやってわかりやすく教えてくれる方から学ぶかがカギになります。動画を見るもよし、入門書を読むもよしです。わかりやすい学び方にたどり着いたら、そこから二冊目、三冊目と展開して、だんだんと理解を深めていてきたいと思います。本書もシリーズ化されており、『訳注 般若心経秘鍵』『訳注 秘蔵宝鑰』などがあるので、その課題がきたら、買ってみたいと思います。