MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

空海の座標(高木訷元)

空海の座標』(高木訷元)

 高野山大学のレポート執筆のために読みました。元高野山大学学長であった著者が、空海の「存在深層の構造思想」ともいうべきマンダラ思想が、空海の生涯の歩みの中で、どのように形成され体系化されていったのかの脈絡を、空海自身の文章の読み解きによってたどった内容がまとめられています。ちょっと難しい印象でしたが、原書に基づいた解説は、やはりレポートの課題図書になる本だなぁと感じるカチッとまとまった一冊でした。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯『声字実相義』

・「夫れ如来の説法は必ず文字に藉る。文字の所在は六塵が其の体なり、六塵の本は法仏の三密即ち是れなり。平等の三密は法界に遍じて常恒なり。五智四身は具には十界にして、欠くることなし」と提示し、「声字実相とは即ち是れ法仏平等の三密、衆生本有の曼荼なり」という。

・この冒頭の数行で、声字の実相が言い尽くされていると言っても良い。この場合の「文字」が社会的通念としての記号文字を指していないことは言うまでもない。むしろ広く本源的な「コトバ」を指すと見るべきである。そのコトバは音声の高下屈曲の文としてのものもあれば、眼に見える色彩や形象としてのものもあり、香りの文、味の文など、実にさまざまであって、文字というコトバのあるところは、見るもの(色)、聞くもの(声)、香るもの(香)、味わうもの(味)、触れるもの(触)、分別するもの(法)の六種の対境においてであって、文字はこの六種の対境をその主体としているというのである。その六種の対象の本質は、存在の本源であり本体である法身仏の深秘な身・語・意にわたるはたらきそのものである。

・「法仏の三密」すなわち一切の存在の絶対的根源にそなわっている三種の存在喚起の深秘なるエネルギーの自己顕現が、存在世界であるからして、この存在世界の実在性と永遠性とが確実に保証されていることになる。

・「声字実相の義」というタイトルについて、空海は次のように説明する。「内外の風気、纔(わず)かに発すれば必ず響くを、名付けて「声」と曰うなり。響は必ず声に由る。声は則ち響の本なり。声発って虚しからず、必ず物の名を表するを、号して字と曰う。名は必ず体を招く、之れを実相と名づく。声、字、実相の三種、区に分かれたるを義と名づく。

 

 こんな感じで、著書に関しても、原文を引用し、解説を加えられています。こういう思想研究が平安初期の時代に行われていたのかと思うと感慨深い限りです。こうした書物に触れながら、当時の文化に想いを馳せるのも、歴史を学ぶおもしろさだと改めて感じました。

空海の座標:存在とコトバの深秘学

空海の座標:存在とコトバの深秘学

  • 作者:高木 訷元
  • 発売日: 2016/03/05
  • メディア: 単行本
 

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