高野山大学のレポートのために読んでいた一冊。角川ソフィア文庫の仏教の思想シリーズ全12巻のうちの第1巻です。本シリーズは1990年代の発行ということもあり、書籍のフォントが小さく読みづらい点はありますが、内容としては、よくまとまっているシリーズで入門者からちょっと進んだ段階くらいで読むといいと感じました。
以下では、経典成立の歴史がよくまとまっていたので、そこをピックアップしてみます。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯ブッダの生涯の説法(5段階)
①華厳時
ブッダはまずかの菩提樹のもとで正覚を成就すると、その座にあってその正覚の内容をそのままに打ち出して説いた。それが『華厳経』である。だが、それを聞くものは、何の解するところもなかった。
②阿含時
そこでブッダは、その内容を落として、卑近にして具体的な教えとして人々に語った。それが『阿含経』である。それによって人々は、なお、ブッダの語るところの虚ならざることを知った。
③方等時
ブッダは『阿含経』を説くこと12年ののち、やがて『維摩経』や『勝鬘経』など、もろもろの大乗経典を説き始めた。小乗を捨てて大乗に向かわしめようとしたのであって、それらの経のなかに、ときに小乗の聖者を呵する言葉が見えるのはその故である。方等とは大乗一般をいう言葉である。
④般若時
ブッダは方等の諸経を説くこと8年ののち、さらに『般若経』を説き始めた。「空」の理を語る経典である。そこでは、小乗を捨てて大乗をとるということが如き差別の思いをも捨て去り、一切皆空の理に入らしめたというのであった。
⑤法華涅槃時
ブッダは、『般若経』を説くこと22年ののち、さらに8年にわたって『法華経』を説き、また、最後の一日一夜にして『涅槃経』を説いた。『法華経』の語るところは、これまで説ききたった諸経はすべて「権」(かり)の教えてであって、要するところは、「悉皆成仏」の理想の実現のためであったことを示し、また『涅槃経』の語るところは、今たとえ『法華経』の利益にもれるものがあっても、法身常住の理によって、ついに成仏の実現をうるの期があることを保証しているのである。
仏教経典はものすごい数があるのですが、ブッダの生きた時代とその生涯のどの場面で説いた内容なのかを理解しながら経典の整理をしていくと、流れが掴めてきて理解が進みやすいと思います。一方、ここで示されているのは、原始仏教と呼ばれるところと、その後大乗仏教に発展していく部分が示されているものであり、その後中国仏教や日本仏教へと繋がっていくことを考えれば、押さえるべき範囲は、これでもまだ一部に過ぎないという、探求心が煽られる壮大なスケールの学領域となっております。