わかる仏教史(宮元啓一)
『わかる仏教史』(宮元啓一)(◯)
本書は、インド仏教、中国仏教、日本仏教の歴史を約260ページでコンパクトにまとめた一冊。まずは、仏教の歴史をざっくり理解したい方にお勧めです。ブッダの時代から、部派仏教として分裂し大乗仏教と上座部仏教が出来上がっていく過程や、その教えが中国に渡り発展し、日本にもたらされた流れを理解すること、「◯◯宗」ってどの時代のどんな流れで出来上がってきたのか、イメージして深掘りすることにつながると思います。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯仏教が生まれた頃
・紀元前8世紀ごろ、アーリヤ人は、輪廻思想(生き物は再生と再死を延々と繰り返すという死生観)を自らのものとし、その論理的骨組みに、因果応報思想を据えた。以来、輪廻思想は、哲学的な考察にも耐えられる高度な思想として、インド全土で大流行するようになった。
・六師外道の教え。仏教が誕生した頃6人の沙門が大きな教団を指導していて、仏教側からは六師外道の言われる。その主張は、仏教と違うところがありつつも、よく似ている。
◯ゴータマ・ブッダ
・国王スッドーダナと王妃マーヤーの長男として誕生。何不自由ない生活を送っていたが、出家に憧れ、29歳から6年間修行。特に熱心に行ったのは止息と断食。何度も仮死状態に陥り、無茶な断食で骨と皮だけのすごい形相になった。
・仏教最大のキーワードは「如実智見」(あるがままに物事を捉えること)、「智慧」。
・「最初の目覚め」を得てから7日後の夜を通して根本的生存欲から今の苦に至る12の諸事象が織りなす12因縁を順逆に觀じ、すべての疑念を払い、ついに目覚めた人、ブッダとなり、解脱の境地、涅槃に到達した。
・最後の教えは、「ものごとは過ぎ去るものである。怠ることなく修行を完成しなさい」
◯教義の中核
・四聖諦
①苦聖諦
この世が苦しみに満ち溢れていることが厳然とした真実。生老病死の四苦と愛別離苦、怨憎会苦、求不得苦、五陰盛苦を合わせて四苦八苦。
②苦集聖諦
苦があるのは、それを生ずる原因があるのであり、それは根源的には渇愛(根本的生存欲)に他ならないというのは真実。
③苦滅聖諦
苦の根源的な原因である根本的生存欲を断てば、苦は滅するというのは真実。
④苦滅道聖諦
実際に根本的生存欲を絶って苦を滅する道があるというのは真実。
◯在家が守るべき戒
①不殺生戒:生き物を殺したり傷つけたりしてはいけない
②不偸盗戒:与えられないものをとってはいけない
③不妄語戒:嘘をついてはならない。真実のみを語りなさい
④不飲酒戒:酒を飲んではならない
⑤不邪婬戒:配偶者以外のものと性的な交わりをしてはならない
⇨熱心な在家信者には、五戒以外の戒も守るように進めている(八斎戒)
⑥午後になったら食事をしてはならない
⑦花環をつけたり、芳香を用いてはならない
⑧ベッドはダメで、床の上にじかに横たわらなければならない。
◯出家修行者の基本的な心構え(四無量心)
①慈無量心:教えを説く相手、生きとし生けるものを慈しむ無量の心。
②悲無量心:深く相手に同情する無量の心。
③喜無量心:他社の喜びを自らの喜びとする無量の心。
④捨無量心:自他に対して根本的には無関心の態度をとる無量の心
◯初期仏教
・ゴータマ・ブッダが入滅したのち、ほぼ100年間、仏教宗団(サンガ)は一枚岩の組織を保った。この間の仏教のことを「初期仏教」あるいは「原始仏教」という。
・ゴータマ・ブッダの説法の仕方は、対機説法とか応病与薬とか言われる。同じような内容でも、相手の機(能力、素質、置かれた状態)を見て説き方を変える。あるいは、医者が、患者の病気に応じて異なった薬を処分するように、相手のメンタルな問題点に応じて、それにぴったり即応する教えを説くといったこと。「人を見て法を説け」。
◯部派仏教
・ゴータ・ブッダが入滅してから100年ほど経ったころ、仏教の内部では、特に戒律を巡って大きな意見の対立が生じた。厳格な長老たちと多数の改革派とに分裂し、前者は上座部、後者は大衆部を形成した(根本分裂)。
◯大乗仏教
・紀元前1世紀の後半あたりから、新しい仏教を提唱する、おそらく自然発生的な大衆運動が展開された。そして、その運動の担い手たちは、自らの仏教を「大乗」と呼び、伝統仏教、特に説一切有部の仏教に「小乗」という蔑称を与えた。
・歴史的に見れば大乗経典というのは、ゴータマ・ブッダその人に源を発することのない、新たにこしらえられたものだから、伝統仏教からは「大乗非仏説」と非難が浴びせられた。
・一口に大乗仏教といっても中身は雑多で、大まかには般若波羅蜜系、浄土教系、華厳系など、趣の違う幾つもの流派に分かれている。雑多であるというのは、大乗仏教が、特定の個人や狭いエリート集団の創唱になるものではなく、自然発生的な大衆運動の中から芽生えたことをはっきりと指し示している。
◯中観哲学
・紀元前2世紀から3世紀にかけてナーガールジュナ(龍樹)という人が登場し、たくさんの著作を世に出し、大乗仏教で最初の学派である中観派の開祖となった。
宗教は人類の歴史でもあり、政治とも密接であり、人々の生活に根ざしながら心の拠り所として発展してきたことがわかります。その教えは、人が生きるために必要な考え方やヒントがたくさん含まれており、今の時代に照らしても参考になるものだと思います。自分に必要なものを取り込んでいくという観点で見ても、この人類の叡智とも言える壮大な智慧を学ばない手はありません。