MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

渋沢栄一「生き方」を磨く(渋沢栄一、編・解説者:竹内均)

渋沢栄一「生き方」を磨く』(渋沢栄一、編・解説者:竹内均)(◯)

 『渋沢栄一論語」の読み方』『渋沢栄一君は、何のために「働く」のか』と合わせた3部作。『青淵百話』(渋沢栄一)という本のエッセンス・まとめなのですが、原書の内容が素晴らしいのはもちろんのこと、編集がわかりやすく、とても読みやすい一冊。渋沢栄一さんの生き方の指針、考え方がよく伝わってくる内容で、自分の生き方と照らし合わせて考えながら読むと、学びが深まります。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯志

・自分の一生涯に歩むべき道、その大方針を決定するのが立志。

・自分の存在を客観的に見る(社会が先で、社会のために自分を犠牲にする)のと、自分の存在を主観的に見る(何事も自己本位で、自分を第一に考え、それから次に社会を認める)。

⇨もし主観派のような主義で押し通すと、国家社会は自然と粗野となり、衰退する。客観派のような主義を広げれば、国家社会は必ず理想的なものとなっていく。

⇨「仁者は、己れ立たんと欲してまず人を立て、己を達せんと欲してまず人を達す」(『論語』雍也)

・「淡白」は、私の処世上唯一の主義である。

・成功、不成功は必ずしも人間行為の基準ではなく、人間として一時も忘れてはならないものは、行為の善悪である。

・知識を磨き徳行を修めるということは、人生において真の幸福を得る原因である。

 

◯成長

・不平というものは、人の心を怠惰にさせ、恨みごと、愚痴に溺れさせてしまう。世の中のことが自分の意のままになることは少ないものだから、そこに一つの「諦め」を持ち、ある程度まで不平なことに耐えていかなくてはならない。この耐えることもたび重なればそれが習慣ともなって、つまらないことに不平など起こさないようになり、何事も大局を見て楽観することができるようになるものだから、普段からこの心の修養が必要である。

・常識に対しては、知情意の3つが必須要件である。事物に接してこれを識別する知能と、人と応対するにあたっての熱い情愛と、どんな障害に遭遇しても志堅くこれを貫き通す意志と、この3つが完全にそろってこそ常識人物と言える。

・習慣は第二の天性。悪いと知りつつ改められないのは、結局は克己心が足りない。とかく、習慣は不用意の間に出来上がるものであるから、大事に際しては、それを改めることができる。例えば、朝寝坊をする習慣の人が、いつもはどうしても早起きができないけれども、戦争とか火事とかいう場合には、いかに寝坊でも早起きができるということから見てもそう思える。なぜそうなるかというと、習慣は些細なこととして軽蔑しやすいもので、日常それがわがままに伴って入るからである。

 

◯無邪気さ

・世の中を見渡すと、どうも知恵の優れた人物には無邪気の者が少ないように思われる。ややもすれば、知恵の力を借りて心にもない意見を吐いてみたりして、何事でも知恵で人を押さえ込まなければ、知者として、また学者としての本文が立たないと考えている者が少なくないらしい。従って知恵を働かす者の多くは、もともと有邪気に傾きやすいことになる。

・無邪気という言葉は、邪念のない率直な天真爛漫な性惰である。知力や学問の力を悪用して有邪気に働かせるからこそ多くの弊害が起こるので、それと反対の態度で無邪気に活用させる人ならば、それこそ真に世の中の宝である。

 

◯熟慮

・もし事に当たって、自分の主義主張を変えなければならないようなことがあるならば、よくよく熟慮するがよい。ことを急激に決めず、慎重な態度で深く考えるならば、自ずから心眼が開いて、自分の本心に立ち返ることができる。この自省、塾考を怠ることが、意志の鍛錬にとって最も大敵であることを忘れてはならない。

 

◯七情(喜怒哀楽愛悪欲)のバランス

・克己心を養成するに当たって、その根元となるものは、七情がその節度を保つという一事に帰着する。七情が節度を保てば、善悪正邪の別は自然にはっきりする。常に自分で守る基準がなければならない。心の基準・ものさしとなるべきものを定め、それに従って行動を決定することが、克己心を養ううえで大きな効果があるものであると断言することができる。

 

◯人生を心から楽しむための最高の良薬

・真の楽しみが得られる唯一の眼目である精神の持ち方、心構えはどうすれば良いか。「足るを知り分を守る」という一言をもって答えたい。常に自分は不足不満の中にいても、これで満足である、これで十分であるとの諦めがあって、その分を守ることができるならば、人生の楽しみも自ずからそこに生じてくるわけである。仏教に、「貪(欲)」、「瞋(しん=いかり)、「痴(無知)」を去れということがあるが、人生の楽しみを得るための最高の良薬となる。

 

 本書には、紹介し切れないほど多くの生き方のヒントが述べられています。ズバッと言い切るところは、人生経験が物語る力強さを感じ、『論語』をはじめとした古典からの引用では、その歴史を経て伝わってきた変わらぬ本質的なものを感じます。渋沢栄一さんは、その考え方を深く知ってみたい方で、探究中です。

渋沢栄一「生き方」を磨く (単行本)

渋沢栄一「生き方」を磨く (単行本)

  • 作者:渋沢栄一
  • 発売日: 2020/11/05
  • メディア: 単行本
 

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