MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

日本式経営の逆襲(岩尾俊兵)

『日本式経営の逆襲』(岩尾俊兵)

 著者は、トヨタ研究と生産管理で有名な東京大学藤本隆宏名誉教授のもとで学ばれ、東京大学史上初の博士「経営学」を授与された、イノベーションや生産管理を中心とする平成元年生まれの研究者。本書は、日本の経営が衰退しているという風潮に一石を投じた一冊。経営技術と呼ばれる現場のノウハウや知恵では、日本はまだまだ競争力があるにも関わらず、米国からの経営コンセプトを輸入し導入している。しかし、その米国の経営コンセプトの中には、元を辿れば日本初のものが逆輸入されている。日本は、もっと足元の現場に目を向け、そこに生きているノウハウや知恵を、経営コンセプトととして抽象化することで、競争力の源泉として活かしていける。ジェフ・ベゾスでさえ、実は日本のカイゼンを研究して学んでいる事実。高齢化を迎え、人口が減少していく日本、特に製造業が生き残っていくための視点が得られると思います。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯日本の経営を巡る悲観論

・日本の経営は海外からは今でも高く評価されている一方で、国内では悲観論や自虐が蔓延っている状況。その一因は、「経営成績」と「経営学」と「経営技術」が一緒くたに評価されてしまっていること。

・日本の経営実践、経営技術を基にしたメイド・イン・ジャパンのコンセプトが、いつの間にか、メイド・イン・アメリカになってしまい、再度日本に持ち込まれる「経営技術の逆輸入」という状況が一般的になりつつある。

トヨタ生産方式がリーン生産方式として、日本の事例が研究されたのちに、アメリカの事例となって日本に逆輸入されている。

・両利きの経営、オープン・イノベーション、ユーザー・イノベーションアジャイルティールなどは、程度の差こそあれ、コンセプト創出段階においては日本の経営技術が重要な役割を果たしている。

 

◯経営技術をめぐるグローバル競争時代を生き抜くために

・一見すると優秀とされる実務家ほど、経営技術を逆輸入してしまい、かえって現場本来の強みを捨てるという逆説的な状況に陥る。

・日本企業は、濃密な人間関係に基づく阿吽の呼吸や根回しなど、文脈に依存するコミュニケーションを得意としてきた。これは日本企業の強みであると同時に、抽象化、論理モデル化の組織能力を低下させた可能性がある。

 

◯日本独自の価値や日本独自の経営技術のコンセプト化を進める

・日本の経営技術を大切にし、独自のコンセプトを作り上げつつ、同時に常に世界の動向にもアンテナを張り巡らすこと。アメリカの後追いをするのではなく、日本の独自性を追求して、それを基にアメリカ発の経営技術と日本発の経営技術を適宜交換するということ。

・これは貿易では常識。貿易においては、仮に全産業の生産性が優位にある最強の国家があったとしても、その国は、その国の中で比較的得意な生産物に特化し、開国して他国と自由貿易をした方が、国民全体の効用が増加すること論じる。得意なものに注力し、各国にそれぞれの得意とする貿易品が存在し、それを互いに貿易・交易することで、すべての国がそれ以前より豊かになる。

 

◯コンセプト化とグローバル化

・経営技術をめぐるグローバル競争において、日本は抽象化・論理モデル化の力を使って経営技術をコンセプトとしてまとめる点に弱点があった。

・これまでの日本企業は、文脈に依存した緊密なコミュニケーションを強みとしてきたため、その対極にある抽象化・論理モデル化を相対的に苦手としてきた。

・日本には、経営一般を統一的に論じる理論を、日本の経営技術に基づいて構築・発信できる潜在的な可能性が秘められている。

・日本発の経営技術・コンセプトが世界市場で逆転できる可能性は、まだ存在すると考えられる。

 

 書店に行って経営に関する書籍、特に平積みされている書籍、ベストセラーになっている書籍を見ると、確かに、洋書の翻訳が主流を占めていて、日本の方の書籍は少ないように感じます。私の本棚を見渡しても同じことが言えます。その着想が日本の経営にあるのではないか?日本の現場の強みとはなんだろう?と考えていくと、実は、逆輸入の知識ではなく、もっと現場に知識・ノウハウが眠っており、それが理論化・体系化されていないだけではないか。それを抽象化して、より広く活かせるようにしていけば、日本独自の経営技術がもっと活用される。そんなメッセージを感じました。