MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

いかなる時代環境でも利益を出す仕組み(大山健太郎)

『いかなる時代環境でも利益を出す仕組み』(大山健太郎)(◯)<2回目>

 アイリスオーヤマ会長による、アイリスオーヤマ(以下「当社」)の事業モデルを解説した一冊。プラスチック素材の成形下請業者からスタートした当社。オイルショックで経営危機に陥り、家族のように過ごしてきた社員をリストラせざるを得なかった経験を教訓に、時代環境がどのように変化しても、利益を出し、企業が存続できる仕組みを作ることに注力してきた、その内容が紹介されています。商品開発、製造、物流、販売・・。すべての業務フローがその方針に沿って構築されており、出来上がったビジネスモデルは驚くばかりです。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯余力を残す

・アイリスでは、あらゆる設備の稼働率を7割以下にとどめている。普段はただの予備スペースだが、注文が増えて7割を超えるようになったら、工場を増床するか、工場を新たに建てる。予備スペースで瞬時に増産できる。コロナ当初にマスクの大量生産ができたのも、この方針のおかげ。

 

◯「ユーザーイン」の経営

・プロダクトアウトは、自社独自の強みを深掘りすることで勝負する戦略。マーケットインは、業界や市場の要望に応える戦略。

・需給バランスで動く市場経済と一線を画すためには、自ら需要を生み出す市場創造型の製品が必要。それを「ユーザーイン」という言葉に昇華し、経営の軸に据えている。ユーザーとは、エンドユーザー(使う人)のこと。「買う人=使う人」とは限らない。営業社員にとっての直接の顧客は問屋や小売店のバイヤーだが、彼らのニーズは大抵、流通のニーズ。ユーザーとカスタマー(顧客)は違う。問屋や小売店を大事にするのは至極当然だが、その先にいるユーザーを見ることが大切。

 

定量的方針

・アイリスでは、毎年、経常利益の50%を設備などの投資に回し、新市場に一歩ずつ入っていく。

・中長期の計画は立てない。根拠の薄い計画を立てることに意味がない。その代わりに、売上高全体に占める新製品の売上高比率を数値目標に掲げる。「発売して3年以内の製品」が売上に占める割合50%を数値目標に掲げている。

 

◯プレゼン会議

・毎週月曜日に全部署の責任者が全員集まり、プレゼン会議という名の開発会議を開く。

・開発案件を高速で回すだけではなく、ユーザーの目線を共有するための仕組みでもある。

・その場にいる各部門の責任者たちは、ユーザー目線でバンバン質問を浴びせる。ユーザー員の発想が組織に行き渡ると、売れる製品がどんどん作れるようになる。

 

◯チェーンストアのメーカーベンダーへ

・本当の意味でのマーケティングに立脚した会社をつくろうとすれば、①ユーザーインの需要想像に加えて、②製品をユーザーに確実に届ける市場創造の仕組みが必要。

・アイリスは、問屋機能を持ったことで製品開発の視点が劇的に変わった。仮にアイリスがユーザーのニーズから外れた製品を出すことが増え、小売店から別の問屋に変えられてしまったら、メーカーとしての商品供給経路そのものが遮断されてしまう。このリスクが、ユーザー員のものづくりを貫く覚悟となっている。メーカーベンダーは、製品開発の目線がユーザーからずれることを防ぐ仕組みでもある。

 

◯「◯◯業」と言える会社は変化に対応できない

・アイリスの事業は「◯◯業」とくくれないほど幅広いものになった。幅が広いと、どんな外的変化があっても、すべての製品がダメになることは考えにくい。ここにマネジメントの変質があると見ている。

・技術的な強みのない分野での勝率をどう上げるか。それが仕組み。勝率を上げる仕組みを作れば、もともと強みではなかった分野でも勝てる製品ができる。アイリスの場合は、それができている。

・「◯◯業」と端的に表現できる会社は、自社の強みを極めてはいるが、ユーザーのニーズに柔軟に応えられていない可能性がある。これからは、「仕組み力」が企業の競争力を左右する。

 

◯どこまで内製するかを考える

・目先の効率を追って外注生産ばかりしていると、自社に蓄積されるのはマーケティング機能や営業機能など一部だけになりかねない。人口減少社会では、需要創造が企業の成長には不可欠。そのためには、ユーザーのニーズを的確に捉えることができ、そのニーズを的確に形にするための体制が必要。

・アイリスではその一つが設備や部品の内製化。安い調達先、加工先を世界から探して、長いサプライチェーンを組み上げ、ジャストインタイムで補完する仕組みはもはや効率的ではない。経営の仕組みの再構築が問われている。

 

 随所に「事業の選択」として、二者択一が示されています。経営者は、最終的にどちらかを選ばないといけない、決断の意思と責任が問われる。19歳で事業を引き継ぎ、1964年から経営者を務めていらっしゃる著者だからこそ、この決断が持つ意味の説得力がとてつもなく大きく感じられます。経営者が語る経営戦略本としてとても優れた一冊だと思います。