『ものづくり成長戦略』(藤本隆宏、柴田孝(編著))
本書は、東京大学大学院の藤本教授と山形大学の柴田教授による共編著。生産革新の要諦である「良い流れを作る」。現場は宝の山、「良い設計・良い流れ」を作る鍵は現場にある。本書では、各地域のものづくりの成長を図るために、改善を現場で指導する「インストラクター」を養成するスクール開設と、現場での実践についてまとめられた一冊です。ものづくり成長戦略の具体的な事例を知る上で参考になりました。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯ものづくりインストラクターの仕事
①流れ改善による生産性・競争力の向上
②売上拡大のための設計改善、営業強化、ビジネスモデル再設計
→①から②の順番であり、まずは現場の流れ改善(QCD改善)がインストラクターの第一の仕事。
・ものづくりが「良い設計・良い流れ」を作ることである以上、ものづくりインストラクターは、「良い流れ」だけでなく、良い製品設計、あるいは流通チャネル、売り場、ソリューション体制、ビジネスモデル等の「良い設計」にも踏み込んで、経営者や現場をサポートする必要がある。
◯「ものづくり」とは
・生産現場だけでなく、製品開発、部品購買、販売、サービスなどの領域も「ものづくり」に含まれる(「良い設計の良い流れを作ること」と考えているため)。
・ものづくりを、「固有技術」と「設計情報の流れを作る技術」という2つの異なる知識体系に分けて考える。
・国際競争力を持つ日本の優良製造企業は、強い固有技術を持つ一方で、それらをつなぎ合わせる技術を持つ。例えば段取り替えの時間短縮や場合によってはそれをなくすなど、このつなぐ技術が「流れを作る技術」であり、これを「ものづくり知識」と呼んでいる。日本の優良生産現場が国際的な評価を得てきたのは、技能の洗練を進める「流れを作る技術」の知識の故であった。
◯世界経済の潮目は変わった
・本書刊行時(2013年8月)では、実感として、中国のライバル工場の賃金は、もはや20分の1ではなく、7分の1とか8分の1だという声を地方の現場ではよく聞く。自動車ではすでに5分の1を切っている。
・一方、日本の工場の中には、まだ生産性を2倍、3倍にする「伸び代」を持った工場が山ほどある。すなわち、本当に付加価値を生んでいる時間、設計情報を転写している時間が占める割合は、優良企業を含め、多くのところでまだ10%あるいはそれ以下である。逆に言えば、現場のものづくり改善によって、この正味作業時間比率が10%→30%になれば、その工程の物的労働生産性は3倍になる。
・冷戦終了後、約20年続いた「外国の低賃金には勝てない」という時代から、「能力構築と生産性向上がものをいう時代」に、全部とは言わないが多くの産業、多くの地域が戻りつつある。
諸外国との賃金格差が縮まってきたことで、正味作業時間比率の改善(生産改善)で国際競争に勝てる時代、つまり、ものづくりの国内回帰が可能な時代になってきているという着眼が最大の学びでした。本書では、各地域でのインストラクターによる生産改善の取り組みが紹介されているので、「なるほど、こんなふうに地域での取り組みが進んでいるのか」という発見につながると思います。