『老子』(池田知久)
「仁義礼智」などを重んずる倫理思想、などの政治思想、知恵、学問、人為などによる重要問題の解決を、『老子』はすべて批判して退けている。後の『荘子』『呂氏春秋』『韓非子』『荀子』『淮南子』に多大な影響を与えた『老子』。老師の提唱する「無為」「無知」「無学」。最終目標の「道」とは。その思想を哲学・倫理思想・政治思想・自然思想・養生思想の5つの観点から解説した一冊です。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯老子の哲学
・人間がいかにして「道」を把えるかという問題こそ、老子が追求している最大のテーマ。
・形而上の根源者である「道」を、人間が色々と努力して把えようとするけれども、結局「道」は把えることができない何者であるとする思想。
・「道」は把握できないとするのは、人間がその感覚・知覚によって「道」を目で視、耳で聴き、口で味わい、また心で知る、などをすることができない、そういった感覚・知覚による把握を超越した何かであるという趣旨。
◯老子の倫理思想
・「上善は水に似たり。水は善く万物を利として争わず、衆人の悪むところに居り、故に道に幾(ちか)し〜」(『老子』第八章)
・「水」のあり方は、勝ちを求めて他と争おうとせず、大衆の嫌がる下の位置に安住する。「不争」「謙下」という倫理の比喩・象徴である。と同時に「不争」「謙下」の倫理は、「道に幾(ちか)し」評価されているように、「道」の親戚筋にあたり、「道」の内容とほとんど同じものである。それゆえ、「不争」「謙下」の倫理を身につけることは、「道」を把握することとほとんど違わないことになる。
◯老子の政治思想
・老子の目指す理想的な統治は、その主観的な意図に沿うならば、人民が「知」「欲」を捨てそれらを超えた向こう側で真実の人間の本来性に立ち返る、そのような国家・社会を建設するというものであった。
・『老子」の中には、聖人の理想的な統治について述べて、善人を貴び不善人を愛し、両者をともに包容するという政治思想がある。「善人」「不善人」を含む一切の「万物」を根源的な「道」が生み出しており、それゆえ、あらゆる「物」の中には「道」が含有されるとする哲学(形而上学・存在論)に他ならない。
◯老子の養生思想
・人間は名誉や財貨に対する欲望を抑止することによって、身体が危殆に瀕する恐れがなくなり、それどころか不老長生をも実現することが可能となる。人間の生存への欲求、生きることへの執着を捨てることが、逆説的・弁証法的にかえって生存を可能にし、生きることを持続させるとする養生思想が『老子』には含まれている。
・自ら生きようとする生存への欲求を捨てているからこそ、かえって長くかつ久しく生きることができる。
◯老子の自然思想
・「自然」の意味は、元来は「みずから」であった。「他者の力を借りないで、それ自身に内在する働きによって、そなること、もしくはそうであること」であって、「おのずから」ではなかったと考えられる。
『論語』『孟子』などの儒教思想を読んで、納得感や気づきが多いならば、その思想を批判している『老子』や『荘子』などの道家思想を読むと、バランスが良くなるのではないかと思います。現代語訳だけを読むのではなく、本書のような解説書を読むことで、理解がより容易に深まっていきます。中国思想の奥深さを感じるとともに、現代にまで受け継がれているのはなぜか?学び・気づきの多い一冊でした。