MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

老子(池田和久)

老子』(池田和久)(◯)

 老荘思想無為自然、道で有名な老子は、道教の始祖。その後、『荘子』や『呂氏春秋』などに影響を及ぼした思想は、今でいうところの「スローライフ」。全81章を読んでみて感じたのは、逆説的な発想、正反合の弁証法的発想が随所にあり、表面だけを追っていては理解できない考え方だということ。そこで、本書は、現代語訳、読み下し、原文に加えて、解説が加わっており、この解説で気付けるところがとてもありがたいと感じました。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

◯第19章

・聖徳や知恵などという大仰な建前を捨て去るならば、人民の利益は増加して今の100倍にも達することであろう。仁愛や正義などという作り物の教えを捨て去るならば、人民は本来具わっていた孝行・慈愛の心を取り戻すに違いない。技巧や利益などという美味しい撒き餌を捨て去るならば、それを人々から奪い取ろうとする盗賊もいなくなるはずである。

・素地のままを外面に現わし、純朴さを内面に守りつつ、私心を抑え我欲を寡くする、こんな風にして社会を変えていきたいものだ。

現代社会の3つの混乱

①人民が利益から見放されていること

②人民に孝慈の倫理が欠けていること

③社会の中に盗賊が横行していること

現代社会をリードしている「声(聖)、知、仁義、功利」の価値観を、全て捨て去ることを提唱する。

 

◯第24章

①この世に生きる人々の生き様を眺めてみると、背伸びをして何かを求めようとする者は、自立することができず、

②自分を外に向かって誇示しようとする者は麗しい光を放たず、

③自分を外に向かって誇示しようとする者は誰からも認められず、

④他に対して自分を誇る者は功績を挙げることができず、

⑤他に対して自分から尊大に構える者は統治者としての地位が長続きしない。

・道を修めようという大志を抱く者はこんなところに安住はしない。

 

◯第27条

①行くことなき道を行く善き歩き手は後に少しの足跡も残さず、

②言うことなき道を言う善き語り部は言葉に何の瑕疵もなく、

③計算することなき道を計算する善き数え手は算木などは使わない。

④道という家を守る善き戸締りはかんぬき・錠前を掛けないけれども、その門は誰にも開けられず、

⑤道という貨財を守る善き縄掛けは、縄・紐で縛られないけれども、その結び目は誰にも解けない。

・このように道を把えた真の善さは、世間の善さを遥かに越えたものなのである。

 

◯第36章

・一般にあるものを縮めてやろうと考える時には、しばらくそれを拡げておかなければならない。ある物を弱くしてやろうと考える時には、しばらく、それを強くしておかなければならない。

・取り除いてやろうと思うならば、しばらくそれを挙げ用いておく必要がある。

・奪い取ってやろうと思うならば、しばらくそれに施し与えておく必要がある。

・こうしたやり方を、深淵で把え堅い明知と呼ぶが、柔らかで弱いものこそが強いものに打ち勝つという、逆説的な真理に他ならない。

 

◯第41条

・およそ上等の人物が根源の道の話を聞いた場合は、それを行うことができるようになるまで懸命に努力する。

・中等の人物が道の話を聞いた場合は、ぼんやりとして何のことかよくわからない。

・下等の人物が道の話を聞いた場合は、これをあざけって大笑いする。彼らに笑われるようでなければ、真の道とするだけの値打ちはない。

・真に明るい道はかえって暗いように見え、前に進む道はかえって後ろに退くように見え、平らな道はかえってでこぼこのように見える。最上の徳は一見、低い谷のようであり、偉大な栄達は一見、汚辱のようであり、広闊な徳は一見、足りないところがあるかのようである。

・確乎不抜の得は、いい加減のように見え、素朴な純真さは、変質しやすいように見え、偉大な真四角は、尖った角がない、絶大な器物はなかなか完成せず、絶大な音声は耳に聞き取れず、絶大な形象は姿を具えていない。

 

◯第67条

・大体、大きいからこそ、愚かになったものだ。もし賢かったなら、とっくの昔に小さくなっていたことだろう。

・この私には、3つの常に変わらぬ宝があり、それを大切に守り続けている。一つは慈しみ、二つは無駄を省くこと、三つは天下の先頭に立とうとしないことである。

・慈しみの心があればこそ、かえって勇敢でありうる。無駄を省けばこそ、かえって広い領域を統治しうる。天下の先頭に立とうとしなければこそ、かえって事業を成し遂げる政治の首長となりうる。

 

 逆説的な中に真理ではないかという部分を見つけていくことに、気づき・学びがあり、そうした発想の柔軟さが捉え方を多面的にし、行動が変わり、ストレスが減り、幸福を感じるところにつながっていくのかなと思います。

老子 全訳注 (講談社学術文庫)

  • 作者:池田 知久
  • 発売日: 2019/01/12
  • メディア: 文庫
 

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