MBA男子の勝手に読書ログ

グロービス経営大学院を卒業したMBA生の書評と雑感。経営に関する基本書、実務書のほか、金融、経済、歴史、人間力、マネジメント力、コミュニケーション力、コーチング、カウンセリング、自己啓発本、ビジネススキル、哲学・思想など、幅広い教養を身につけ、人間性を磨く観点で選書しています。

超ざっくり分かるファイナンス(石野雄一)

『超ざっくり分かるファイナンス』(石野雄一)(◯)

 ファイナンス初学者向け。著者の著書では、MBA時代に、『道具としてのファイナンス』『ざっくり分かるファイナンス』を拝読しました。本書は、とある研修で配布されたのですが、前2作よりもさらに簡単に、エッセンスを初学者向けに解説した一冊。図表も多いので、イメージとしても掴みやすいのではないかと思います。ファイナンスを学ぶならまず本書から!という内容です。

 

(印象に残ったところ・・本書より)

ファイナンスとアカウンティング(会計)の違い

ファイナンスは「キャッシュ(現金)」を扱う。

 現金収入ー現金支出=現金収支。

 扱うのは未来の数字(将来生み出すキャッシュフロー)。

・会計は「利益」を扱う。

 売上ー費用=利益。

 扱うのは過去の数字。

 

◯利益の種類

売上総利益:付加価値をどれくらいつけたのか表す利益

・営業利益:本業の儲ける力を表す利益

・経常利益:通常の営業活動や財務活動から生み出される利益

・税引前当期利益:企業のすべての活動から生み出された利益

当期純利益:税金の差し引き後に最終的に残った利益

→重視されるのは営業利益。企業において「本業で儲ける力」を表す利益だから。

 

ファイナンス3つの意思決定

①投資に関する意思決定

②資金調達に関する意思決定

③リターンの配分に関する意思決定

 

◯リスク

ファイナンスでは、金融資産の価格変動が大きければ大きいほど「リスクが高い」と捉える。ファイナンスにおける本質は、「将来の不確実性」にあり、想定される結果(リターン)のばらつきにある。

 

◯利回りの計算

・利回り(リターン)=収入(キャッシュイン)÷投下資本

・ハイリスク・ハイリターンの原則:リスクが高いのであれば、高いリターンを求めよ

・リスクフリーレート(≒リスクなし):国債投資に要求する収益率

・リスクプレミアム:リスクフリーレート以上に求める部分

 

◯株主資本コストの計算式

・株主資本コスト(CAPM)=リスクフリーレート(≒国債金利)+β+マーケットリスクプレミアム

・β:株の動きが市場と全く同じなら1、市場の動きよりも株の動きが大きいなら1より大きい。市場の動きよりも株の動きが小さいなら1より小さい。

・資本コスト(WACC)

 =負債/(負債+資本)×(1ー税率)×負債コスト+資本/(負債+資本)×株主資本コスト

→債権者と株主がどのくらいのリターンを求めているのかを平均したもの

→WACCを下げるのはIR(投資家向け広報活動)のミッション

 

◯投資の判断

・WACCより高い、投下資本利益率(ROIC)を上げることに尽きる

→調達による支払いより高い、投資によるリターンを上げる

・投下資本利益率(ROIC)=税引後営業利益÷投下資本

・EVAスプレッド:ROICとWACCの差

 EVA=投下資本×(ROICーWACC)

   =税引後営業利益ー投下資本×WACC

・NPV法

 NPV=プロジェクトからのキャッシュフロー(+)の現在価値ー投資に必要なキャッシュフロー(ー)の現在価値

→NPV >0なら投資実行、NPV<0なら投資見送り(理由:キャッシュアウトする)

・IRR法(内部収益率法)

 IRR=NPVが0になる割引率

→IRR>WACCなら投資実行、IRR<WACCなら投資見送り(理由:収益率が低すぎる)

 

◯お金の将来価値

・年率10%の場合、現在の100万円は1年後に110万円の価値がある。逆に、1年後の110万は現在は100万円の価値しかない。

・将来価値の計算式:将来価値=CF×(1+r)n乗

 100万円×110%=110万円

 110万円÷110%=100万円

・将来価値から現在価値を求めるときに使うのが「割引率」

・現在価値から将来価値を求めるときに使うのが「要求(期待)収益率」

 

企業価値

・事業価値+非事業資産価値

・事業価値は、企業が将来生み出すフリーキャッシュフロー(FCF)を現在価値に割引合計することによって求めることができる。

 FCF÷割引率(WACCを使う)

・FCF=営業利益ーみなし税金(営業利益×税率)+減価償却費ー設備投資ー運転資本の増加額

減価償却費:設備投資を行なった際、その設備が使える期間(耐用年数)で割り振った毎年の費用(計算上の費用で、毎年お金が出ていくわけではない)

・運転資本:(売上債権+在庫)ー支払債務

 →これが増えると、お金の支出が増える

 

 初学者向けとはいえ、やはり計算式や英語の略字が出てくると「??」が付き纏ってしまいますよね。上場企業や投資家であればファイナンスも実務で登場するでしょうが、まだまだアカウンティング(会計)中心の実務という方が多いのではないでしょうか。一方、金融の一般常識としてファイナンスの発想を知っておくと、時間の金銭的価値も意識することができるなど、考える視点が増えて、意思決定もより合理的になっていくのだと思います。何事も初学は超える壁があるものだという心の備えも必要ですね。