『AI 2041』(カイフー・リー、チェン・チウファン)(◯)
久しぶりに未来に対して大きく心が動かされた一冊。こりゃ、ヤバい本です(もちろん良い意味で)。昨年、これはすごいと思った『2030年世界は加速する』に次ぐ、ここ最近の中では一番心動かされた本書。元Google中国社長で人工知能学者とSF作家の共著で、タイトル通りAIが創り出す2041年の世の中は、こんな世界!が描かれています。全体の作りは、2041年の社会生活を10の物語で描き(SF作家担当)、その社会をビジネス本的に解説する(元Google社長担当)という「物語+解説」のセット。
(印象に残ったところ・・本書より)
◯未来1
・技術:深層学習、ビッグデータ、インターネットと保険アプリケーション、AIがもたらす予期せぬ悪影響
・個別に最適化された助言をして人々を健康で長生きで幸福な人生へ導くアプリの物語。
・AIが個人を知りすぎ、ユーザーは中毒し、悪循環に陥る。
・AIの判断は純粋にデータと結果の最適化に基づく。AIを訓練するデータが適切ではない(偏っている)場合、不公平と偏見を生む。
・深層学習の決定は、多数の特徴と多数の変数による複雑な方程式に基づくため説明不能。
◯未来2
・技術:コンピュータビジョン、畳み込みニューラルネットワーク、ディープフェイク、敵対的ネットワーク(GAN)、バイオメトリクス、AIのセキュリティ
・AIが物体を見て、認識し、理解し、合成できるようになれば、改変して本物と見分けのつかない画像や動画も作れる。この物語は、人間の目で本物の動画とフェイク動画を見分けられなくなった未来を描いている。
◯未来3
・技術:自然言語処理、自己教師あり学習、GPT-3、汎用人工知能(AGI)と意識、AI教育
・個人用AIコンパニオンというアイデア。高度なAIコンパニオンが人間と信頼関係を築く。例えば家庭教師。個人カリキュラム学習や、AI時代に必要になるはずの創造力、コミュニケーション力、情緒を育てることに大きく役立つ。AIコンパニオンは人間のように話し、聞き、理解できるので、子供の成長に劇的な効果をもたらすに違いない。
◯未来4
・技術:AI医療、アルファフィールド、ロボット医療への応用、COVIDに加速される自動化
・AIが医療を変えることはもう間違いない。ワクチンや治療薬の開発が加速するのはもちろん、既存の医療にもAI診断をはじめとする技術が急速に持ち込まれる。費用と開発期間を大幅に削減し、効果的な薬剤をより安く、より多く入手できるようになる。
◯未来5
・技術:仮想現実(VR)、拡張現実(AR)、複合現実(MR)、ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)、倫理及び社会的問題
・「アイドル召喚!」というタイトルの章。姿が本物そっくりなだけでなく、その場と違和感なく統合される。このような自然さが今後発達するコンピュータビジョンと自然言語処理に支えられているのはもちろん、クロス・リアリティ(XR)と呼ばれる没入型シミュレーション技術のおかげもある。まさに目覚めてみる夢のようなもの。
・本物そっくりで魔法のようなバーチャルの場面、物体、キャラクター。それによる没入体験はまるで並行現実。これから20年で並行現実は、娯楽、トレーニング、販売、ヘルスケア、スポーツ、旅行に革命をもたらすだろう。
◯未来6
・技術:自動運転車、完全自動運転とスマート都市、倫理及び社会的問題
・自動運転が路上を席巻すると、交通革命が起きる。低コストで便利で安全性の高いオンデマンドカーが利用者を目的地へ運ぶ。
・カレンダーに記入した会議に出発すべき時間が1時間後に迫ると、本人が外出の支度をしている間に、UberやLyftyなどの自動配車アプリが車を呼んでくれる。
・自動運転のシェアライドサービスは大幅に低価格になる。現在のタクシーは運賃の75%が運転手の人件費だからだ。
・安全性はどうか。経験豊富な人間の運転手の運転経験は1万時間くらいだが、自動運転車の場合には1兆時間にもなる。長期的には、自動運転の方がはるかに安全になると予想できる。
◯未来7
・技術:量子コンピュータ、ビットコインの安全性、自律兵器、存亡の危機
・AIの急速な進歩がごく近い未来に自律兵器を登場させる。自動運転車がレベル1からレベル3〜4へ急速に進歩したのと同じことが、自律兵器に起きる。これは不可避。
・人類存亡の危機を避けるための解決策はいくつか提案されている。
①人間を関与させる方法。しかし自律兵器の優秀さは、人間を関与させないことによる速さと正確さに大きく依存している。
②条約による禁止。
③自律兵器に規制の網をかけること。しかしこれは、過剰にならずに有効な技術仕様を決める困難さが予想される。
◯未来8
・技術:AIに置き換えられる仕事、ベーシック・インカム(BI)、AIが苦手な職種、職業置き換えに備える3R
・住宅ローンの審査どころか人間の従業員の採用や解雇までAIがやってしまう未来を描いている。このような業務の変化は大規模な失業をもたらすだけではなく、うつ病、自殺、酒や薬物への中毒、格差の拡大、社会不安など様々な社会問題を引き起こす。
・AIの苦手な分野
①創造性
②共感
③器用さ
◯未来9
・技術:AIと幸福、一般データ保護規制(GDPR)、個人データ、フェデレーテッドラーニングや信頼実行環境(TEE)を使ったプライバシー
・AIは人間の幸福を最適化できるのか?難しさは4点
①幸福の定義の問題
②幸福の測定の問題(本人への質問、IoTデバイスによる収集、特定の感情・感覚に関わるホルモンレベルを継続的に測定する)
→皮膚に複数の微細針を刺し、電気化学センサーでホルモンレベルを測るセンサーパッチを皮膚に貼る方法
③データの問題
④安全なストレージの問題
◯未来10
・技術:豊饒、新しい経済モデル、貨幣の未来、シンギュラリティ
・世界エネルギーインフラのすべてとはわずとも大半を再生可能クリーンエネルギーで代替していく。2010年→2020年でリチウムイオンバッテリーによる蓄電コストは87%低下。アメリカでは2030年までに2兆ドルを投資して、電力価格がkWあたり、現在の4分の1以下に低下する予測。
・ロボットとAIはほとんどの商品の生産、配送、デザイン、販売を肩代わりしていく。
・自動運転は最小限のコストで自由な移動を可能にし、所有する必要がなくなって経費負担も軽くなる(ゴーストドライバー)。
・AIロボットが人間の家政婦より上手に家事をこなすようになる。
・単純作業はホワイトカラーでもブルーカラーでもAIに交代する。
・AIは24時間年中無休で働き、病気にならず、不満を言わず、給料もいらない。AI生産の原価は原材料費にわずかに上乗せした程度。
・ロボットは自己複製、自己修理をするようになり、部分的に自己設計もするようになる。
・3Dプリンターは、精密な専用品(義歯や義肢など)を最小限の費用で製造できるようになる。
2041年、皆さんは何歳になっていますか?その世界観。一気に変化するのではなく、毎日、毎月、毎年じわじわ変化していきますが、変化のスピードは加速的(これは、『2030年世界は加速する』で描かれています)。変化は時間効率を高め、生み出された時間で新たな開発がされ、また新たな時間が生み出されるという循環。「ポケベル→ガラケー→スマホ」ではないですが、まずは流れに乗っておくこと。社会生活も仕事も大きな変化の流れがあり、変化に取り残されないようにしていきたいなと感じる内容でした。流れに乗るか乗らないか、それも各自の選択ではありますが。